3.異能
本日ラストです。
また明日も数話更新します。
特に聞く必要もない授業をだらだらと聞き流して帰路に就く。
その道すがらにでも、【異能】についての説明でもしておこう。
【異能】とは、50年前を機に人類が手にするようになった超常の力のことを指す。
先ほど例に挙げた通り、50年前では想像もできないような力を発揮することができる。怪力の【異能者】が拳一つで車をスクラップにした、なんて話もあった。まるで漫画やゲームだ。
基本的には一人に一つの【異能】であるが、世界には珍しいことに複数の【異能】を持つ者もいるらしい。現在では4人が確認されているとのことだが、そのうちの一人が日本の探索者だと言いうのだから驚きだ。夢月とかいう名前だった気がする。詳しくは知らないけど。
今では生まれるときから誰しもが持つ【異能】。自分がどんな【異能】を有しているのかは、ある程度まで育つと理解できるようになるらしい。やったね「これが……俺の力……!!」ムーブができるね!
しかし、誰もが【異能】を持っているからと言って、誰もが強力な【異能】というわけではない。
同じ火を操る【異能】でも、その出力に差があったりするものだ。ある奴はマッチの炎程度だが、ある奴は火炎放射器にも劣らない炎、みたいな差だ。
そこで、誰がどの程度の【異能】を扱えるのかを明確にするために政府は各個人の【異能】にレベルを設けたのだ。
レベルは7段階で設定され、そのレベルは【異能】の強弱や有用性などを基準にして設定される。
一説では、レベル7とされる異能者は国の軍隊すら一人で相手ができるほどの力を持つらしい。実際うわさ話ではあるが、異界探索(資源や素材の採取のため、扉から異界へと遠征すること)の際、遭遇した怪物の群れを一掃したとかなんとか。
何それ怖い
ただ【異能】を使うには、【異能者認定資格】というものを取らなければならない。これは個人の異能レベルが何であっても変わりはない。資格がなくても使用を認められている場所以外で【異能】の力を使用した場合、その被害によっては重い罰が与えられることになる。
レベル1やレベル2はともかく、レベル3にもなってくると普通に人的被害とか出てくるからな。
補足しておくと、世界人口の七割くらいが異能レベル1、2、3だとされている。
レベル4から上の異能レベルともなってくると、使用しただけで周りへ被害を及ぼす【異能】が出てくるのだ。特に、攻撃に特化している【異能】は簡単に一般の人を重症、あるいは殺害することも可能となるほど。
そのため、異能レベル4以上と判断された場合には【強異能者認定資格】を取得する義務が発生する。これは政府が誰が異能レベル4以上なのかを管理するためだ。監視などはされないが、何か問題を起こした場合には即刻重い罰が与えられる。
そして探索者になるためには、このレベルよりも上でなければなれない、ということも明記しておこう。
詳しくは知らないが、探索者も国家、というか政府所属の者と企業に所属する者で分かれるのだとか。今朝テレビで見た探索者は企業所属だったはずだ。
そして、異能レベル5だと【特異能隊】という異能犯罪に対応する専門の機関に入隊できるようになるとのことだが……興味はないため割愛する。
まぁ俺が言いたいのは、異能によっていろいろと世界も人も変わったって話だ。
「そうだ、明日は検診あるのか……」
異能について考えていると、帰りのHRの事を思い出した。
ついでだ。検診についてだが、【異能】は成長すると言われている。
まぁ誰もが成長するわけではないのだが、過去にそういう例があるため、毎年一度【異能】のレベルを測定する為の検診が行われるのだ。
まだまだ思春期の中学生。きっとみんな自身の異能レベルを相手と比べてきゃっきゃきゃっきゃと騒ぐのだろう。男子とかそれでマウントの取り合いとか起こりそうだ。
三年なんだしもう少し静かにできないかとも思うが、仕方ないのかもしれない。
なんせ、探索者という職業が注目を集めて人気となっている世の中だ。
その探索者になるためには【異界探索免許】が必要なのだが、その免許の取得を目的とする学科、探索科に入るためには異能レベル4以上が必要なのだ。高校入学前の最後の検診。ここで異能レベルが4を越えなければ探索科への志望もできない。
もちろん、高校で探索科に所属しなければなれないと言うこともないが、その方が近道だし、企業あるいは政府の所属になる際にも色々と有利に働くのだ。
日本最高峰と呼ばれる学園だと、孤島丸々一つが敷地だというのだから驚きである。
母に帰宅したことを伝えると、玄関に置いてあった薬品を手に吹きかける。
なんでも、異界の植物から抽出した成分が配合されており、これ一つで汚れや殺菌、保湿に加えて肌にも優しいのだとか。何それ異界凄い。
そして自室へ戻り、本日の課題をやりながら俺はふと考えた。
「よくもまぁ、こんなに変わるものだな……」
外を見れば、すっかり陽は沈み込んでいた。
そんなところは前世である過去とは何も変わりがないが、人と、その人を取り巻く環境はこの50年で驚くほど変わったのだから小説より奇なりってやつだ。
そしてそれは、この世界だけではなく俺自身についてもだった。
あの流星群の日に死んだ俺が出会った存在。そしてそんな存在に頼んだ俺の願い。
あくまでも、前世基準での生活をもっと楽にできれば、などと考えた願いであったが、それらはこの世界において十分に危険だと言える力となったものもあった。
例えば……
「『ティッシュ箱』」
頭に思い描き口にしたそれは、本来なら背後の棚に置いてある代物だ。
しかし、次に瞬間にはすでにティッシュ箱は俺の手元にあったのだ。
これが俺が授かった異能……いや、与えられたものだし、【祝福】もしくは【呪い】とでも呼んでおこう。
そんな力の一つがこの【取り寄せる】能力だ。
文字通り、好きなものを自分の手元に『取り寄せる』ことが可能なのである。
これを聞いただけでは、何が危険なの?と思われても仕方ないかもしれないが、この力は重さ、数、量に加え、取り寄せるものとの距離を無視して取り寄せることが可能なのだ。
更には、ものをイメージして取り寄せるのだが、イメージできずとも詳細さえ指定できれば一番近場にある対象を取り寄せる。
わかる? やろうと思えばどっかの国の機密事項とか簡単に手に入るんだぜ? やばいだろ。やらないけど。
十個の中には、そんな感じの【祝福】【呪い】がまだあるのだ。一番ヤバいのは物を持ち歩かなくてもいいと考えて願った【空間収納】だろう。やろうと思えば、多分星すら収納できる。全人類はたちまち宇宙空間で即死亡、なんてこともできるのだ。
まぁ、そんな俺の力は明らかに常軌を逸してるのだ。あの存在にここまでできるようにしろとは言ってない。
そしてあの存在の事だ。俺が転生する世界の事も、俺に与えた力のことも、全部理解した上でこうしたのだろう。転生に関しては感謝するが、願いに関しては少々やりすぎ感があるが。
まぁそんな俺の授かった力については追々説明するときがあるだろう。
さて、明日は検診だ。
いつもどおり、程々の結果だけ出して終わらせることにしようじゃないか。
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