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27.推薦

 何故かよくわからないうちに安芸城グループによる推薦を受けることとなった。


 ユイにその推薦とは何かと聞いてみると、受験予定である異能研究専門学校に出資している企業が「この子は将来有望!」と学生一人に限定して推薦する制度らしい。

 企業毎に選べるらしく、偶然が重なれば十人近い推薦者が出るそうだ。


 それに俺が選ばれたと。


 意味が分からん。

 しかし、試験をパスすることができるのはとても大きいので、俺はこの推薦を受けることにしたのだった。


「しかし、良かったのか? 本来なら、ユイが推薦を受けていただろうに……」


「構いませんわ。それに、(わたくし)には受かる予定しか入っていませんもの」


「おお……すげぇ自信。応援するよ」


 然も当然とばかりのユイに、若干ながら罪悪感が薄らいだ。

 そんな俺の様子を見ていたのか、ユイは少し怒ったような感じで俺の頭を指で小突いた。


「それに、文月さんは申し訳ないと思っているようですが、もともと私は安芸城グループの推薦枠を利用するつもりは微塵もなくってよ?」


「そうなのか?」


「ええ。推薦を使わずとも私は必ず受かりますし、私が安芸城グループ(うち)の推薦を使うと、コネだのなんだのと言いだす者がいないとも言い切れませんから」


 困ったものですわね、と肩を竦めてみせるユイに、俺は大変だなと苦笑を漏らす。


「こういう推薦って、よくあることなのか?」


「いいえ。むしろ、企業から推薦をもらえる学生なんて稀ですわね。元々、この推薦は企業が将来有望な探索者を囲い込む意味合いもありますから」


「……つまり、安芸城グループは俺を囲い込みたい、と?」


「まぁ、そういうことになりますわね。そうではなくとも、心象を良くしようとは思っているはずですわ」


 まぁ本来受験する事すら難しいところに推薦をもらえたら、感謝するしかないだろう。

 

 俺はユイのその言葉に、なるほどなぁと頷いた。


「もっとも、私は安芸城グループの探索者となる予定ですわ。叶うなら、文月さんと一緒に仕事がしたいと思ってますのよ?」


「っ……そりゃ、光栄なことだ」


 笑いかけてくるユイを見て、俺は少しばかり言葉を詰まらせる。


 何とまぁ、よくこんなにきれいな笑顔を向けてくるものだ。俺以外の男子であればすぐに惚れてしまうのではないだろうか。


 などと、くだらないことを考えながら顔を背けた。


「ふふっ、耳が赤くなってますわ」


「揶揄うんじゃないよ、まったく……それで? 推薦をもらえるのなら、俺は受験対策は何もしなくていい感じなのか?」


 推薦をもらえるからと言って、それで無条件で合格となるとは限らない。

 俺の前世の話ではあるが、推薦を取ってはいても、軽い面接なんかもある可能性もある。


「いいえ、学校の教師を相手にした面接があるはずですわ。まぁ、これで落とされることは無いと思いますが、ちゃんと練習しておいて損はないでしょう。他には……文月さんは問題ないとは思いますが、受験までの間に問題行動を起こさないことくらいですわね」


「面接で何を聞かれるのかはわかるのか?」


「私は知りませんが、牧さんなら知っているかもしれませんわね。あの人も、学生時代に安芸城グループの推薦を受けていたそうですし」


 思い浮かぶのは、あの隠密の異能を持ったあの気怠い目をした男。

 

「ああ、あの人か……」


 そもそもこうなっているのはあの人が原因みたいなところもあるため、俺は苦手だったりする。

 いつまでも引きづるわけにもいかないため、そのうち慣れるとは思うのだが、現状ではあまり良い感情は持っていない。


 が、これから接触が多くなるかもしれない安芸城グループの人間だ。

 こちらから会いに行って交友関係を持つのも一つの手だろう。


「今度聞きに行くか……」


「ええ。できることはすべてやっておく方が良いですわ。というわけで……」


 不意に、ユイが足を止めたためつんのめりそうになった。

 何とか体勢を保って倒れるのを阻止した俺は、急に止まるなよ、とユイに向けて目で訴えかけた。


 しかし、当の本人はそんな視線に気づいていないのか、にこやかな顔で俺を見ていた。


「さ、着きましたわ!」


「着いたって……ここか?」


 目の前には武骨で頑丈そうな扉が一つあるだけで、他に目的地となりそうなものはない。

 この部屋が何のためのものなのかを知る前に、ユイは俺の手を取って軽い足取りで部屋の中へと入っていく。


 ユイに連れられる形で入室したその先に待っていたのは、先ほどの検診に使った部屋の様な広い空間。ただ、こちらは検診に使用していた機械がないため先ほどの部屋よりも広く感じられる。


「さぁ、文月さん。戦闘訓練の時間ですわ!」


「……え。何でそうなった?」


 いつの間に装備したのか、ユイが身の丈ほどはありそうな大剣を手に素振りをしている。


「? ああ、ご安心を。ちゃんと刃は潰してありますわ!」


「違う、そうじゃない」


 あと、どこに安心する要素があった? そんなもんでぶん殴られたら俺は現実世界からログアウトする羽目になってしまう。


「何故戦闘訓練を? 推薦なら、面接しかないんだろう?」


「あら、文月さんは合格することがゴール、と?」


 細めた目を向けてくるユイは、その直後「甘いですわ!」と手にしていた大剣の剣先を突き付けてきた。


 刃を潰してても危ないからやめてください。


「探索者を目指す者にとって、戦闘は嗜みのようなものですわ! 文月さんの場合はその力で逃げることは容易いかもしれませんが、できるに越したことはありません。やる意味は十二分にありましてよ」


 それに、とユイは続ける。


「場合によっては、敵は怪物(モンスター)だけとは限りませんわ」


「ん? どういうことだ? 怪物みたいなのが他にもいるってことか?」


「ある意味怪物よりも厄介でしてよ。文月さんも、つい先日相手にしていますわ」


 そういわれて真っ先に俺の脳裏に浮かんだのは、あの修学旅行の事件で相手取った河東と木水のことだった。

 今現在、俺の【空間収納】に入っているあの巨大な炎の塊は対処をしていなければ確実に俺の命を焼き尽くしていたことだろう。


「もしかして、人間か?」


「その通りですわ」


「待て待て待て! 探索者は、異界探索で異界の資源だったり、怪物の素材や核を収集するのが仕事だろ? 何でそんな物騒な話になるんだよ」


「確かに、一般的にはそう知られていますわ。ですが、探索者のみんながみんな、善人と言うわけではありません。中には、殺してでも人の稼ぎを奪い取ろうとする者もいましてよ。それに、場合によっては探索者は護衛の仕事も回ってきますわ。人との戦闘が起こらない、とは言い切れない世界ですもの」


 ユイの話を聞いているうちに、頭が痛くなってきた。

 どうやら、考えていた以上探索者という職業は物騒らしい。


 世紀末かよ糞ったれ。


「けど、流石に殺人なんてすれば国の法律が許さないだろ」


「ところが、国の法は異界では無意味なものですの。何せ、向こうへ行けるのは異能ランクが4以上の限られた者だけ。取り締まることが難しい以上、異界は無法地帯のようなものですわ」


「ガチの世紀末じゃねぇか!?」


 法治国家仕事しろよ……と頭を抱えたくなる。

 聞けば、法が及ばないのをいいことに、違法取引なども行われているそうだ。


「恐ろしいな、探索者」


「その探索者になるんですのよ?」


「そうだった……これって、わりと有名な話なのか?」


「探索者を志すなら、ある程度は知っているはずですわ。暗黙の了解、のようなものですわね」


「よくそんな物騒なのを目指すな……」


 一攫千金も夢ではなく、成功すれば地位も名誉も保証される探索者。

 それは国家所属であっても、企業所属であっても、個人であっても変わりはない。


 物騒なのを承知の上で、皆探索者を目指すのだろうか。

 それがまかり通る今の社会も、言ってしまえば世紀末なのだろう。


「……まぁ戦えなくても、逃げ回れるようにはしとかなきゃだよな」


 はぁ、とため息を吐く。

 恐ろしいし、怖いが、ユイもそれを承知の上で道を選んでいるのだろう。

 

 大丈夫だ。要は、そんな危険な状態に追い込まれる前に逃走すればいいだけの事。


 俺の祝福(ギフト)なら難しい話ではない。ならば、この力を使いこなせるように訓練することは決して無駄なことにはならないはずだ。


「覚悟はできましたか?」


「ああ。俺の場合、まずはどう動くかを練習したほうがいいかもしれない」


「空間移動ができるなら、その方がいいでしょう。なら、ちょうどいい訓練がありましてよ!」


 そう言ってユイが提案してきたのは異能を用いた鬼ごっこだった。

 ルールはユイの異能が持続する一時間、俺がひたすらユイから逃げ回ること。


「それでは、よーいドンッ! ですわ!」








追記


 異能のためとは言え、大剣を手に追ってくるユイはすごく怖かった。


 何で追ってくるとき笑顔なんだよ!?


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和尚に…和尚に元気を分けてくれ!

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