23.露見
遅くなってしまい申し訳ない.
リアルが落ち着き次第,書き溜めを作っていこうと思います
「遅くなって申し訳ない。待たせてしまったかな?」
安芸城から安芸城グループについての話を聞いていると、壮年の男性が部屋へ入ってきた。
白髪交じりで後ろに撫でつけた髪はグレーの様に見え、スーツ姿も相まってしっかりとした印象を与える。一言で言えばダンディなおじ様、と言う奴だろう。
この人が、安芸城のお父さんか。
「いえ、大丈夫です。安芸城さんから色々とお話を伺っていましたので、退屈しませんでした」
「ははっ、それは良かった。ユイもありがとう」
「いえ、安芸城家の者として、お客様をもてなすのは当然の事ですわ」
立ち上がって挨拶しようと思ったのだが、座ったままでいいと言われ上げかけていた腰を再度ソファーに降ろす。
それと同時に、安芸城が横にズレてその場所に安芸城の父が座った。
「さて、こうして顔を合わせるのは初めてだったね。ユイの父の安芸城守だ。今日はこちらの都合で来てもらって悪かったね」
「いえ、大丈夫です。俺……私も暇していましたから。名都文月と言います。安芸城さんとはクラスは違いますが、学校ではよくお世話になっています」
深々と頭を下げて挨拶を返すと、何故か安芸城が「お世話していますわ!」などと高らかに言う。
まぁ、あの修学旅行の後の学校で、事件の詳細を聞こうと寄ってくる人だかりを抑えてくれたり、休み時間中の話し相手になってくれたりと助かっているのも事実だ。
元気な安芸城に対して、こらこらと苦笑を浮かべる安芸城の父。
そんな彼は、「君の話は娘からよく聞いているよ」と手を差し伸べてきた。
「改めて、娘ともどもよろしくね」
「はい、こちらこそ。私もどんなふうに聞いているのかも聞いてみたいですね」
「そうだね。後で教えてあげようじゃないか」
「お父様!?」
やめてくれと言わんばかりの声をあげる安芸城に、「冗談だよ」と笑みを浮かべる安芸城の父。なかなか見た目に反してお茶目な人であるようだ。
あと、安芸城の反応に関わらず、俺の事をどう聞いているのかは別途時間を設けて聞いてみよう。
「もう! 余計なことは言わないでくださいまし!」と彼の隣でぷんすか怒っている安芸城に、俺と安芸城の父はお互いの顔を見合わせて苦笑した。
さてと
和やかな日常会話パートはこのくらいで終わりにしておこう。向こうも、こんな話をするために呼び出したわけじゃないだろうからな。
それは、最初からこの部屋で俺の事を見ている存在から明白だ。
目の前で娘に許しを請う優しそうな雰囲気に騙されてはいけない。
彼は日本、ひいては世界に名だたる安芸城グループのトップなのだ。その規模や安芸城グループの持つ力については、先ほど安芸城から十分すぎる程に聞いている。
もともとは一中小企業に過ぎなかった安芸城グループの前身、安芸城工業。当時の社長であった安芸城の祖父は、一早く異界の素材の有用性に目をつけ、異界素材を用いた製品の開発に取り組んだそうだ。
そして、その後を継いで事業を成功させ、安芸城グループの名を世界に広めたのがこの男、安芸城守。まさに傑物である。
今では異界や異能の研究機関を持ち、更には多くの探索者が所属するまでになっているというのだからその凄さは一般庶民の俺には理解ができない。
「マジやべぇ」しか出てこない俺の語彙力もやべぇ。
「さて、ユイ。私は名都君と二人で話したいから、終わるまで待っていてもらってもいいかい?」
「あら、私はご一緒できないお話ですの?」
「ああ。大事な話だからね。終わったらまた呼ぶよ」
残念ですわ、と席を立つ安芸城は、その途中でこっそりと俺に視線を向けると、胸の前で小さく拳を握った。
頑張れ、と言うことなのだろうか。
「では後程」と静かに部屋を出て行く安芸城。
扉が閉まり、その姿が見えなくなったところで安芸城の父が嬉しそうに言った。
「いやはや、ずいぶんと仲が良いようだね。私も嬉しいよ」
「まぁ、友達ですからね」
「友達、か。君のような子がいるなら、転校させて正解だったね。学校生活ではどんな感じなんだい?」
親として心配なのか、そんなことを聞いてくるが、特に隠すようなことではないためしている限りの事を話す。
クラスが違うため詳しくはないが、よく他の人たちと仲良さげに話していることを教えれば、あからさまに安堵していた。
「そうか……心配していたが、ユイはうまくやっているのか」
「そうですね。最近は雰囲気も柔らかくなりましたし、今では学校の人気者ですよ」
嬉しそうに笑う安芸城の父。そのタイミングで扉が開き、メイドさんが入ってきた。
どうやら、お茶の用意をしてくれたらしい。普段紅茶何て飲まないから味何てよくわからないが、お高いのを使っているのではないだろうか。
まぁいいか、と用意されたお茶に口をつける。鑑定してみたが、お薬とかは入っていないようなので安心して飲めそうだ。
「……それで? 娘さんの学校生活を聞くためだけに俺……私を読んだわけではないですよね?」
「……驚いたな。まさか、君の方から話を切り出してくるなんてね。それと、口調は崩してもらっても構わないよ。今からここでする話は、この場にいる者だけの非公式なものだからね」
『この場にいる者』、か。うまいこと言ったものだ。
「ありがとうございます。俺も、『私』なんて言い方慣れていなかったので」
「ユイの友達なんだ。もう少し気を楽にしてくれてもいいんだけどね」
肩を竦めて苦笑する安芸城の父は、咳ばらいを一つ。
「本題に入ろう」と改めて俺に向き直った。
「聞きたいことは他でもない。あの修学旅行で起きた事件についてだ」
まぁ、それくらいしか考えられないわな。
予想通りの話題だったため、動揺するようなことは無い。
あれだけニュースになり、娘である安芸城が大きく関わっていた事件なのだ。
しかし、話題はわかってもよくわからないことが一つ。あの事件の終息は何を隠そう安芸城グループが関わっているのだ。恐らく、当事者である俺や事件解決に動いた特異能隊などを除けば、安芸城グループが一番情報を持っているはず。
その上で聞きたいこと、と言うのが何なのかの予想がつかない。
俺の異端についてと言う可能性もあるが、安芸城を信じるならそれもないはずだ。
「聞きたいこと、と言われても……正直な話、同じような情報しかもっていないと思うんですが」
「ああ。あの事件についての詳細は私も知っている。偶々ユイと一緒にいた君が巻き込まれたものの、運よく相手組織から脱出した、とね」
間違ってはいない。いや、間違いだらけであるのだが、真実を言うつもりはなかったため、全部運が良かったと言って誤魔化していた。
異能レベル5の安芸城がいたこともあって不思議には思われていなかったが、この人は疑問に思ったとでも?
「ええ、そうですね。安芸城さんがいなければ、俺はここにいなかったかもしれませんから。感謝しかないですよ」
「そうかい。なら、その言葉は直接ユイに言ってあげてくれ。すごく喜ぶだろうからね」
朗らかに笑う彼は「ただね」、と言葉を続けた。
「娘の異能については私が一番よく話知っている。だからこそわかるんだ。あの娘一人だけでは乗り切ることはできないってね」
そこで言葉を切り、どうだい? などと問うてくるのを踏まえれば、彼は俺が何かしたと考えているのだろう。
確かに、安芸城の異能をよく知っているならばそう考えるのも頷ける。
安芸城は武器と認識できる物を手にしなければ、ただの無力な女の子だ。どこかで武器を調達できたとしても、相手は河東の他にも多数いたため、部下を盾にあの火の玉を連発されてしまえば危うかったかもしれない。
俺が河東を、安芸城が部下の奴らを受け持ったからこそうまくいた作戦だ。
「まぁ、弱いなりに俺も頑張りましたから」
「だろうね。だが、100m程度の、それも日に二回しか使えない空間移動系統の異能レベル3である君がどう頑張ったのか、是非とも聞いてみたいんだ」
「調べたんですか?」と聞けば、「悪かったね」と返された。
それで済んでしまうあたり、流石権力者だ。俺程度の情報は簡単に調べられるらしい。
……しかし、何故この人はこんな自信満々に俺が何かしたという前提で話せているのだろうか。
確かにその通りだが、普通に考えればこんな(表向きには)普通の中学生男子が事件解決のカギになったと思うはずがない。
それを考えるくらいなら、名も告げない正義の味方が現れたと言う方が余程現実的だ。
現場を見ていない限り、俺に目をつけるようなことはない――
「……ああ、そういうことね」
小さく呟いたその一言は彼には聞こえていなかったらしく、「何か言ったかな?」と首をかしげていた。
つまりあれだ。
見られていたってわけだ。
思い出すのは、あの基地を出るときに感じた謎の視線。
どこから見られているのかもわからない視線であったが、今ここでその視線についても見当が付いた。
そして、目の前のこの男は間違いなく俺の異端についての情報を持っている。だが、それを知ってなお、『悪意』は感じられないのは、彼自身が俺を害する気がないからなのか。
……安芸城を口止めしても、意味はなかったってわけだ。
「安芸城さん。一つだけ確認です」
「何かね?」
「回りくどいのは好きじゃないんです。腹割って話しましょう。最初からずっとこの部屋にいる、そこの人も含めて」
そういって、視線を感じる部屋の片隅に目を向けてみれば、安芸城の父は驚いたように目を見開いたのだった。
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