19.決着
本日はこの一話のみの投稿です。
楽しんでいただければ幸いと存じます。
「馬鹿がぁ! そのまま燃えて死ねぇ!!」
河東が向かってくる俺に向けて極大の火の玉を射出。
俺どころか、この基地すらも破壊しかねない巨大な炎。あんなものが着弾してしまえば、河東以外の人間は皆揃って消し炭になることは簡単に想像できる。
凶悪な笑みを浮かべている河東は俺が燃える様でも想像しているのだろうか。
しかし、普通に考えればこんな巨大な炎の塊を止められるはずがないのだ。
自身は耐性によって生き延び、それ以外は燃えて死ぬ。
人を燃やすことにあれだけこだわっていた奴だ。笑いが止まらないのも頷ける。
しかし、だ。
ご愁傷様。
幸か不幸か、俺に関して言わせてもらえば、『普通』という枠組みには収まらないのだ。
目の前に迫り来る巨大な炎に、駆けていた脚が止まりそうになる。
まだ接触すらしていないのに、体に感じる熱がとんでもないものとなっていた。これで怖がらない奴はいないだろう。
死の恐怖
再び感じたその感情に顔が強張りそうにもなった。
「っ!! 負けるかぁぁぁ!!」
しかしそれでも、今ここで折れてしまうわけにはいかないのだ。
腹から思い切り声を出し、さらに加速。
そして、もう接触寸前の距離まで近づいた俺はその場で両手を前にかざして文字通りその極大の炎を『受け止めた』
「収納開始ぃぃぃ!!」
直後、徐々にではあるがその炎が縮小し始める。
俺がわざわ【瞬間移動】を使わなかった理由はこれだ。
【空間収納】を利用した火の玉の除去。
【健康維持】により、火傷などの異常状態に陥らない俺ならやってやれないこともない。
対象が大きくなればなるほど収納には時間がかかってしまうのだが、【健康維持】の力が働けばその時間耐えることも可能になる。
ただし、体が影響を受けないだけで熱いという感覚は別だ。
そのため、今は死ぬんじゃないかと思う程熱いんだがな!?
心の中で冗談めかして叫んでいなければ精神的に耐えるのはきつい。
だがそれでも、先ほど太陽に例えられる程だった炎は、直径二メートル程にまで小さくなっていたのだった。
「なぁっ!? てめぇ! 俺の火炎玉に何しやがったぁ!!」
流石にそこまで小さくなれば気づくだろう。
河東は、目に見えて小さくなってしまった炎を見て俺が何かしたことに気づいたのだろう。
狼狽えながらも怒鳴る河東だが、その問いに答えるつもりはまったくない。
「オオオオオオオオ!?!? アッッッづぁァァァ!?!?」
体を焼き尽くそうとする熱に精神がイカレそうになるのを何とか耐える。
収納時間的に十秒にも満たない時間のはずなんだが、耐えている間の時間はそれ以上に感じられる。
やがて、【空間収納】によってあれだけ巨大だった炎のその全てを俺の【空間収納】が呑み込んだ。
体……というか感覚やら精神やらは無事。何とか乗り切れたようだ。
「俺の……極大火炎玉を……!?」
「準備完了だぁ!!」
まるで信じられないものを見る目で俺を見つめる河東。
そんな河東の隙を見逃さず、俺はすぐさま河東の遥か頭上へ移動。
そこでとある仕込みを行い、すぐさま河東の眼前へと移動した。
腰を落とし、できるだけ視線をこちらへ釘付けにする。
「シャァッ!!」
先ほど捨てた木刀を取り寄せ、未だに放心状態であった河東の膝に木刀の一撃を叩き込んだ。
その痛みによるものなのか、河東もすぐに気を持ち直し、拳によって応戦を開始する。
極小距離を瞬間移動で移動しながら回避に努め、何度も何度も木刀を振るう。炎を生成する暇など与えない。
そして、俺の狙っていた時間が来た!!
「決めろよぉ!! 安芸城ぉぉ!!」
「何!?」
俺の声に反応した河東が、慌てたように辺りを見回した。
しかし、安芸城は俺たちの周りから姿はない。
そうだよな
そうやって周りを見てくれるよなぁ!!
「「らぁぁっ!!」」
直後、河東の顔面を上からは大剣の腹による叩きつけ、下からは拳による殴り上げが襲った。
特に上からの一撃は、増強系統の異能を持つ安芸城の膂力に加えて大剣の重さも加わっているのだ。異能者であれども、増強系統でもない河東にとってこの一撃はかなりのダメージになるはずだ。
だが、念には念を、だ。
「追撃!!」
「任されましたわ!」
先ほどの顔面サンドウィッチの攻撃によってよろけていた河東の体に向けて、安芸城は再度大剣の腹を振るった。
その追撃によって河東の体は壁に向かって吹き飛ばされるのだが、ここでダメ押しとばかりに河東が飛ばされる場所へと瞬間移動で先回り。
河東が着弾する前に安芸城を取り寄せた。
「さらにもう一撃いくぞぉ!!」
「え、ええ!? しょ、少々やりすぎでは……」
「情けは無用だぞ安芸城!! 保険はかけておいて損はない!」
「もう知りませんわよ!!」
はぁっ! としぶっていた割には気合の入った声で再度大剣を振るう安芸城。
河東は、木水よりも見事な放物線を描きながら反対側の壁まで吹っ飛んで行った。
「や……やりましたの?」
「殺ってはない……はずだ」
念のため遠目から河東の様子を伺ってみるが、倒れたまま動く気配はないようだった。
さらに念を押して、瞬間移動ですぐそばによって確認してみたところ、白目をむいていることが確認できた。
「……ふぁ~!! 終わったぁぁぁ!!」
気が緩んだせいか、叫ぶと同時に足に力が入らなくなった。
その場で倒れ込むように寝転がろうとしたのだが、それを安芸城が支えたことで阻まれる。
「まだ終わっていませんわよ、名都さん。ここから出て戻ることで初めて終わりになるんですから」
「あー……そりゃそうだ」
安芸城に言われて小さく息を吐いた。
とにかく疲れたが、あと少しの辛抱だろう。もう少しだけ頑張ろう。
しかし、そうは思ってみたものの、俺の意思に反して体が動いてくれなかったのだ。立ち上がることも困難で支えられても歩けそうにはない。
すまん、と安芸城にそれを伝えたところ、彼女はいい笑顔で「構いませんわ」とおっしゃられた。
「では、私が名都さんを運びましょう。お姫様抱っこで」
「……すまない、安芸城さん。今なんて?」
「私が名都さんを運びますわ」
「そのあと」
「お姫様抱っこで」
「あと、呼び捨てでいいと言ったでしょう」とふてくされたように言う安芸城だったが、俺はそれどころではない。
一度ならず二度も、それも同じ女の子にお姫様抱っこされる? 動けないとはいえ冗談ではない。
「あの、せめて負ぶってくれれば……」
「先ほど呼び捨てで読んでくれなかった罰ですわ。大人しく抱っこされてくださいまし」
「い……いぃやぁぁ~~」という叫ぶ元気もない俺の力のない悲鳴は無視され、安芸城は俺を抱き上げた。
「くっ……なら、できるだけ急いでここから脱出してくれ。長居しても仕方ないからな!」
「別に私はずっとこのままでもよろしくてよ?」
「俺が嫌なん――」
『視線』
俺の直感が何かを感じ取った。
明確な視線をどこからかむけられている。
抱きかかえられながらも辺りを見回してみたが、しかし、どこにも誰も見当たらない。
「……安芸城。冗談じゃなく本気で急いでくれ。誰かに見られている」
「っ! 分かりましたわ! しっかり抱きかかえられておいて下さいまし!」
視線はあるが姿がないと言うことは、姿を消せる異能か、もしくは遠見などで俺たちを覗き見ることができる異能などだろう。
どちらにせよ、安芸城が本気で走ればこちらには手出しできないはずだ。
「疲れているのに、負担をかけてすまん」
「お互い様ですわ! それに、名都さんの方が活躍していましたわ! このくらいのことは、私にま任せてください!」
駆けだしてすぐに直感で感じた視線はなくなった。
追いつけなくなったのか、見ることに飽きたのか、はたまた他の理由があったのかはわからない。そもそも、何もしてこないなら何故俺たちを見ていたのかさえ分からない。
ただ、はやくこの状況を終わらせる口実にもなったため、ここから出るまでは視線を感じていたと言うことにしておこう。
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