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18.攻勢

本日二話目! 読み飛ばした方は前のページへどうぞ。


第一章もいよいよ大詰めですね。

感想、評価、レビューもいっぱい待ってます!!

「頼んだぞ!」


「ええ! 任されましたわ!」


 合図とともに、俺と安芸城が同時に駆ける。

 だが向かう先は別々で、俺が河東で安芸城が周りの手下の方だ。


「何だ何だぁ! 燃やしてもいいほうがこっちに来やがったぞ!!」


「っ! お前ら! 多少の怪我は構わねぇ! その女を捕まえろ!!」


 河東が嬉々とした表情で再び炎の生成を始める一方で、木水は安芸城の動きを見て周りの男たちに向けて声を張る。

 しかし、急な指示に対応できていないのか、今迄観戦モードだった男たちの動きは酷く鈍い。


 そんな彼らが大権を持った安芸城に対応できるはずもなく、集団の一部が大剣の一薙ぎによって軽々と宙を舞ったのだった。


 傍から見ればばるで無双ゲームのそれである。


「チッ……! お前ら! 燃やされたくなかったら死に物狂いで指示に従え!!」


 多くの男が吹き飛んでいくその様に舌打ちをする木水は、まだ安芸城の餌食になっていない者達に再び指示を出した。

 河東による制裁が余程恐ろしいのか、その言葉に多くの手下たちが震えながらも安芸城拘束に向けて動き出した。


「くらいやがれぇ!!」


 一方で炎の生成を終えた河東。

 その頭上には人ひとりは呑み込めそうな程巨大な炎の玉が浮かんでおり、河東の言葉と共に俺に向けて射出された。


「それなら大丈夫だ!」


 しかし、単発の火の玉であれば問題はない。

 追尾されたとしても、当たらなければどうということはないってなぁ!


 「なっ!?」


 【瞬間移動】で一気に河東との距離を潰し、その眼前へと転移してやれば、いきなり俺が目の前に現れたことに驚いたのか河東が目を見開いた。

 そんな隙を見逃すことは無く、俺はその顔面に向けて思い切り蹴りを叩き込んでやった。


 河東が少しよろめいた。


「このガキッ!!」


 突然の事に出遅れていた木水がその懐から銃を引き抜き構える。

 先ほど奪ってやったのにまだ持っているとは。どこからか補充してきたのだろうか。


 しかし、こちらも黙って撃たれるつもりはない。

 すぐさま銃と、他の武器があることも考えて『木水の持つ武器』と指定して【取り寄せ】を発動。直後、銃を含めてナイフなどの刃物が俺のもとへと取り寄せられた。中には、暗器と思しきものもある。


 使われては厄介なため、それらのすべてを【空間収納】でしまっておいた。


「てめっ! 俺の武器をどこにやりやがった!?」


「自分で考えろ!」


「よくもやりやがったなこのガキィィ!!」


 木水の問いに適当に帰してやると、調子を戻したのか、鬼の形相でこちらに殴りかかってくる河東がいた。

 異能は自然系統の遠距離タイプであったが、その見た目通りに力もなかなかありそうだ。特に鍛えることもしていなかった俺が受ければ、死んでしまう可能性もあるだろう。


 なので、お仲間に気持ちよく受け止めてもらいましょう!


「『木水 剛』!」


「は…? な、何が――ブゲッ!?」


 剛腕によって繰り出された一撃が、木水の顔面にクリーンヒット。拳を受けとめた木水は綺麗な放物線を描きながら宙を舞い、そしてそのまま床に打ち付けられて動かなくなった。


 死んではいない。お、俺の直感がそう告げている……うん、大丈夫だろう。


 河東と俺の間に取り寄せた木水を挟み込むことによって、俺はダメージを受けず、相手の戦力を削ることができる。一石二鳥とはこのことだ。更に、木水は恐らくこの集団の司令塔。ここで脱落してくれれば、安芸城も対処がしやすくなる。


 そしてもうひとこえ!


 俺はすぐさま河東から距離を取り、向かってくる()()の軌道上に河東を入れた。

 自分が殴った木水の事を気にすることもなく、河東は追撃の拳を構えていたのだが、俺が再び距離を取ったことで不機嫌そうに俺の方を向いたのだった。


「ああ? てめぇ、何俺の許可なく逃げて――」


 そして、そんな河東の背後を先ほど射出されて俺を追尾していた巨大な火の玉が襲った。


 河東とぶつかった火の玉はその場で燃え広がり、激しい炎で河東を瞬く間に包み込んでしまう。

 全身大火傷間違いなし。普通に考えればこれでもう動けないはずだ。


 しかし――


「残念だったなぁ~!? 俺に炎は聞かねぇんだよっ!!」


 タンクトップがほぼ焼け落ちたため気持ちの悪いトップレス姿となっているが、河東本人の体には何ら影響はないようだった。

 炎や熱に対する耐性というのはわかってはいたが、少しも堪えている様子はない。


 こちらを馬鹿にしたような対応を見せる河東を無視して、今度はその背後へと移動。収納していた木刀を取り出して剥き出しの背中に向かって振るう。

 しかし、背中の筋肉もすさまじいものであまり効いている様子は見られなかった。


 まぁ俺自身の力はそこまで強くはないため、この行為そのものに意味はない。

 しいていえばただの嫌がらせである。


 河東がこちらを振り向くたびに瞬間移動で死角に回り木刀を叩き込む。その繰り返しのヒットアンドアウェイ戦法だ。


「この野郎っ……!! ちょこまかと!!」


 痺れを切らした河東がめちゃくちゃに腕を振り回すも、その全てを【直感】による軌道予測によって避けるように【瞬間移動】を使用。

 炎の生成には少しばかりでも時間がいるのだろう。先ほどから使用してこないところを見るに、なかなかうまく立ち回れているのではないだろうか。


「目つぶし食らえ!!」


「ィギャッ!?」


 収納していた土の一部を手に取り出し、河東の目の前に移動。すぐさま土をその目めがけて叩きつけてやれば、河東は反射的に目を瞑って顔を背けた。

 そんな奴の首筋に思い切り木刀の一撃を叩き込んだ。


「っ~~!? クソガァァァァァァァ!!!」


 声にならない呻き声に、やっと手応えがあったと喜んだのも束の間、河東の怒声と共に振るわれためちゃくちゃな拳が目の前に迫った。

 予想外の一撃ではあったものの、反射的に木刀で防ぐことには成功する。


 しかしその拳の勢いは相当なもので、容易く俺を吹き飛ばすほど。木刀も真ん中からポッキリと折れてしまっている。

 直撃していれば危ない一撃だった。


 チラリと安芸城の方の状況を盗み見てみれば、予想通り順調そうで相変わらずの無双ゲー状態。もう少し耐えれば、準備は完了と言ったところか。


「あと少し……」


 もう使えない木刀を投げ捨て、予備の木刀を取り出した。

 上限などないため、おおよそ思いつく限りのものは全て収納されている俺の【空間収納】。身近に手に入る者なら大抵はそろっているため、使い捨ての木刀はまだ残っている。

 

 武器の貯蔵は十分だ。


 突き放された距離を再び瞬間移動で0にし、徐々に打ち身が目立ってきた体に向けて何度も何度も木刀を叩き込んだ。

 

「っ!! てめぇ!? 何回転移を使えるんだ!?」


 当たらない拳を振るい続ける中、河東の悲鳴のような怒鳴り声が耳を打つ。


 河東の疑問も当然のことだろう。


 空間空間移動系統の異能というのはレベルがどうであれ珍しいものだ。

 しかし効果に差はあれども、そのどれもが連続して使用するのが難しいのである。普通はポンポンと使えてよいものではない。

 頭の悪そうな河東でもそれくらいは知っていたのだろう。


 だからどうした。


 そもそも、これは【異能】ではなく【祝福(ギフト)】。元から違うものに対して【異能】の常識を当てはめてもらっては困るのだ。


 だからこそ、使用できる回数も限りがあると偽ってきたのだが。


「敢えて言わせてもらうぞ! 何度でもだ!」


 河東しか聞いていなさそうな状況であるため、そのままの事実を告げてやる。

 自分の攻撃は当たらず、されど相手の攻撃の身が当たるという精神的にも辛いこの状況。それが途切れることなく続けられるということを河東も理解したのだろう。


 俺の言葉を聞いた河東の目が、一瞬恐怖の感情を移したことを感じ取ったのだった。



「――っざけるな……!!」


 しかし、それもほんのわずかな時間。

 河東は何かを呟きながら、身を丸めて耐えるような姿勢に入った。


 しかし、それでも攻撃の手は緩めない。

 耐えるような体勢のまま動かなくなった河東の真上に移動し、収納していた拳大の大きさの石を数個ほど取り出した。

 あとはそのまま俺が瞬間移動で逃げれば、宙に残った石は自由落下を開始し、そこそこの勢いをつけて河東の背中に降り注ぐ。


「てめぇみたいなガキは!! 黙って俺に燃やされろやァァァァァ!!!!」


 ガァァァァァ!!! とまるで獣のような雄たけびを上げて両手を掲げた河東。その頭上には徐々にではあるが火の玉が生成し始められている。


 中断させようと直ぐ傍に移動して背中や腕、頭にまで力の限り木刀を叩き込むが、それを全く気にする様子もなく、巨大な火の玉が出来上がっていく。


(こいつ……! ダメージ無視で作り始めやがった!!)


 どうにもできないと河東から距離を取る。

 するとその河東の向こう側で、大剣を掲げてこちらを見る安芸城の姿が目に入った。


 どうやらあちらの方はうまくいったようで、河東の手下たちは皆地面に転がっているようだった。


「……大丈夫だ、うまくいくっ……!!」


 自身にっそう言い聞かせて、眼前の男を見る。

 怒りの目を向けながらも、その目は不気味に笑っていた。


 正直な話、すごく怖い。

 頑張って立ち回っていたが、それもすべては綱渡り。【直感】や【瞬間移動】があればなんとかなるとは思っていたが、心のどこかで失敗したらどうしようという気持ちがなかったといえば嘘になる。


 だが、信じてくれた少女のためにも。


 成功以外の選択肢など選べなかった。


(なら、腹くくれよ、俺……!)


 いつの間にか出来上がっている、この広い空間を埋め尽くしてしまいそうなほどの巨大な炎の玉。

 太陽にも例えることができそうなそれからは、河東と距離を取っているにも関わらず、俺にその凄まじい熱が伝えてくる。


 恐怖ですくみそうな両足に思い切り木刀を叩き込み、痛みでごまかした。


「さぁ!! 一世一代の大舞台! やってやれないことは無い!!」


 自身を鼓舞するために大声を張り上げる。


 そして俺は、木刀をその場で投げ捨て、河東に向けて全速力で駆けだしたのだった。




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