16.罠
すいません、本日はこの一話のみの投稿です。
では楽しんでいきましょう!
敢えて言おう! 私は! 感想クレクレマンであると!
「しかし名都さんの持つ【異能】……ではありませんでしたわね」
「まぁな。便宜上、【祝福】とか【呪い】とか言うこともあるけど、結局力としか認識してないから」
大丈夫だ、と通路を確認しながら突き進んでいく中、改めて考えてみると何かしらの呼称をで統一してもいいかもしれないと考える。
今まで【あの存在から授かった力】としか認識していなかったが、安芸城に言ってしまった手前【異能】のような呼び方を付けた方が良いかもしれない。
「では、【祝福】……そうですわね、【祝福】とつけましょう!」
「いいのか? 過ぎたる力は身を滅ぼすともいうから、【呪い】ともいえるが……」
「ええ。確かに、人の身に余る力はそう言えないこともありませんわ」
「ですが、敢えて言わせていただきますわ」と彼女は続ける。
「私の知る名都さんは、そういう使い方をしない人だと思っていますの。【祝福】という名は、その信頼の証ですわ」
そして彼女は強引に俺の手を取って振り向かせると、正面から俺を見て微笑んだのだった。
「それに、あなたはその力で私をあの牢屋から助け出していますわ。そんなあなたのその力を、私が【呪い】などというはずがないのですわ! 私を助けたというその事実に、もっと自信を持ってくださいまし」
俺の友人がめちゃくちゃかっこいい件。
え、何なのこの子。言ってることかっこいいんだが。俺が女で安芸城が男なら惚れていたね。間違いなく。もしかしたら、精神が見た目相応であったならもう一筋になっていた可能性まである。
正直なところ、前世でもそんなこと言う相手何ていなかったから、今のでも相当きてるよこれ。
「……それはここから出て言ってくれ。まだ助かったわけじゃないから。ほら、行くぞ」
「もう。本当に素直ではありませんわね」
繋がれていた手を解いて先を行く。
この先には敵のいる気配もないため安全に進めるだろう。
後ろで何か言っている安芸城の言葉をなるべく耳にしないように注意しながら歩を進める。おそらあく、というかこれは【直感】による予想なんだが、もうすぐ出口につくと思われる。
というのも、先ほどから少しではあるが地面に勾配が出てきたのだ。
「安芸城さん。こういう基地ってエレベーターとか階段とかで行き来するものではないのか?」
「私もあまり詳しいとは言えませんので自信はありませんが……そういう話は聞いたことはありませんわね。何でも、戦車などの兵器でそのまま地下から出撃できるように地下から地上までどこかで繋がっていたとか」
ならこの勾配に合わせて登っていけば、出口付近までは出られるはずだ。やはりというかなんというか、俺の直感は恐ろしい精度である。
「そういえば、俺の事で忘れてたが安芸城の【異能】についてまだ聞いてなかったな」
「あら、私も忘れていましたわ。けれど、名都さんには【鑑定】でしたっけ? 私もどういうものなのか聞いてみたいので、是非私を鑑定してくださいまし」
「さぁどうぞ」と両腕を広げて目をつむる安芸城。
別にそんなことをしなくても俺がただ見ればそれで済む。しかし、何かが来るとでも思っているのか、少し緊張した面持ちの安芸城が可愛らしいため、何も言わずそのままにしておこう。
で、その鑑定結果がこれである
◇
安芸城 ユイ
15歳
身体強化系統
異能レベル5相当
自身が武器と認識するものを手にする間、身体機能並びに思考速度や感覚なども大幅に強化する。強化の度合いは手にした武器の重さによって変化。ただし、使用できるのは一日一時間まで
◇
一時間と言う時間制限があるとはいえ、警棒という比較的軽い武器で銃弾を叩き落とせるようになるのだ。身の丈ほどもある大剣など持てばどれほど強化されるのだろうか。気になるところではある。
どうでもいいかもしれないが、可憐な女の子が身の丈以上もある巨大武器を扱う姿に浪漫って感じないか?
思考はともかく、俺は【鑑定】で見た安芸城の【異能】についての情報を伝える。
すると、安芸城は少し驚いたようで目を丸くしていた。
「当たっていますわ。それも、父や私に近い者しかしらない時間制限についても」
「まぁな。ついでに教えれば、さっき銃をぶっ放してきたあの男、空間移動系統の異能者だ。ポータル――要は入口と出口を先に作って移動するらしい」
「では、またどこから出てくるかわかりませんわね。少し注意して進みましょう。……でも、見ただけで異能を看破してしまうなんて相手からすれば堪ったものではありませんわね。今の技術でも、人の持つ【異能】を本人以外が知ることはできませんのに……その技術が確立されれば、文字通りに世界が変わりますわ」
やや興奮気味の安芸城であるが、その言葉とは裏腹に、俺の思考は冷めていく。
「だろうな。だからこそ、その技術を確立する為に、俺が実験用のモルモットみたいになる可能性もあるわけだ。最悪、人体解剖もあり得る。人生の終わりってやつだ」
「あ……」という安芸城の弱弱しい声が耳に届いた。わかってはいるが、本人は無自覚だったのだろう。別にそのくらいで怒るようなことは無いし、世間にバレればそうなってっしまう可能性があるのはわかっているのだ。
だが、それを加味した上で俺は行動したのだ。そこに後悔はない。
「その……ごめんなさい。私、つい……」
「構わないよ。悪気がないことはわかってる。ただ、俺の事についてはできるだけ口外しないようにしてくれると助かる」
「……わかりましたわ。私の名に誓って、その約束を守りましょう」
意思の込められた声で力強くそう言い切った安芸城に「ありがとう」とお礼を述べた。
「さて、それじゃあ行こうか」
安芸城に合図を出して再び通路を駆け足で進む。
もうあの男によって俺たちのだいたいの場所は察知されているだろう。もしかしたら、俺たちの動きを把握する異能者がいる可能性も考えられる。
仮にいたと考えた場合、俺ならどこかへ誘い込むように包囲網を敷くだろう。もし同じことを考えているなら、その包囲網が完成する前に突破しなければならない。
要は時間勝負という訳だ。
安芸城に抱えられて移動する方が速いが、俺の【直感】による指示が彼女の速度に追いつかないことも考えられるほか、接敵時に安芸城の腕が塞がっているのはまずいためなしとなった。
残念そうな安芸城なんて見ていない。ないったらない。
◇
「……おかしい」
そう口にしたのはそれから少したってからの事。
俺の感覚では出口はもうすぐそこという所だ。しかし、うすうす感じていたその予感もここまでくると違和感しかないのだ。
「どうしましたの? 何か感じましたか?」
「いや、逆だ。何も感じないんだよ」
俺の返答に「敵に見つかっていないと言うことでは?」と首をかしげる彼女。
確かにそう感じるのはわかる。実際ここに来るまでの間、俺も運が良いとしか考えていなかったのだから。
だが、俺たちはもう敵に見つかっているはずなんだ。
となれば、俺たちがいる場所に部下やらを向かわせることも考えるはずだ。
包囲網がまだ完成していないのか、あるいは俺たちが知らない間に抜けてしまったのか。そもそも、包囲網何て作ってないのか。
相手の考えていることがわからず、頭を抱え込む。
「あの男と会ってからここに来るまでの間で、一度も敵と会ってないんだ」
「良いことですわ。それがどうかしましたの?」
「ああ、良いことには違いないさ。ただ、もう見つかっているはずなのに、相手側に全くの動きが見られないんだ。俺たち、もうすぐ出口なんだぞ?」
「……確かに、言われてみればそうですわね。私たちがもう出口付近にいるからかもしれませんが、基地内部も先程よりは静かに感じますわ」
安芸城が振り返って通路に目を向けた。
そうなのだ。いつの間にか、あれだけ俺たちを探さなければ燃やされる!などと五月蠅かった基地はほとんど何も聞こえないのだ。
「罠、ですの?」
「可能性はある。仕掛けられるとしたら、たぶん出口だろう。注意して進むぞ」
俺は【直感】を使用して周囲に意識を集中させながら、安芸城は警棒を構えたまま出口に向かう。
やがて、シャッターが下ろされた巨大な兵器を搬入できるくらい大きい扉が目に付いた。その脇には、人が通れるサイズの扉もある。
俺たち二人は周囲への警戒を怠らないようにその脇の出口へと近づいた。
作り自体は単純であるが、頑丈そうなドアノブだ。
たぶん、身体強化系統の異能者でもこのドアノブを破壊して外へ出るのは困難だろう。
「『扉』」
まぁ、俺には関係ない話ではあるが。
一瞬で扉そのものが蝶番の根元から俺の手元まで取り寄せられる。
まるでそこから切り取られたかのように出口が開いたことに、後ろの安芸城は「すごいですわね」としか言わなかった。
持っていても仕方ないため、扉はそこに捨て置いておく。
「安芸城さん、敵は?」
「変わりなく、誰も来ていませんわ」
あたりを見ても、どうやら本当にいないらしい。
もう逃げられるというのに、どういうことだ?
「……まぁいい、後はここから出てから考え――」
『悪意』
「っ!?」
瞬間、俺の【直感】が何かを感じ取った。
その場所は、安芸城の丁度真上。その場所が、俺たちがこの基地に来た時と同様に光ったのだ。
あのポータル、天井にも設置できるのかよ!?
「安芸城!!」
思わず叫んで安芸城を突きとばそうと飛び出す。
安芸城は頭上で光るポータルに驚いてまだ動けてはいないようだった。
突きとばそうとした俺の手が安芸城に触れる。
その瞬間、俺と安芸城は出口の前から姿を消したのだった。
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