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15.死の恐怖と覚悟と

本日ラストの二本目です!

読み飛ばした方は前のページへどうぞ。


いっぱい感想来ると嬉しいなぁ!

 暫く安芸城に抱えられて逃げていたが、追手が来る様子もなかったので今は物陰に潜んで作戦会議中だ。


「それにしてもさっきの男、いつの間に名都さんの背後を……」


「それについてはわかっている。空間移動系統って本人も言ってたし、ここに連れてこられたのもその異能によるものだろう」


 実のところ、安芸城に抱えられて逃げる寸前に【鑑定】をあの男に使用したのだ。

 そこで得られた情報は以下の通り。


木水(きみず) (ごう)


29歳


空間移動系統

異能レベル6相当

  空間を無視して繋ぐポータルの設置が可能。ただし、一度に設置できるポータルは一組のみであり、その設置も自らが現地に赴いて行う必要がある。


 まさか、異能レベル6とこんなに簡単に会うことになるとは思ってもみなかった。

 先ほど急に目の前に現れたのも、俺と話している間に足元に気づかれないようにポータルを設置し、曲がり角を曲がったとっころで再度ポータルを設置して戻ってきたのだろう。


 【直感】が働いていたことは確かだ。現にあの時、俺は俺に対する殺意を感じていたのだから。

 しかしその殺意に反応できても、その後行動できなければ意味がない。普段通りだったなら回避しようとするなりできたはずだ。


 だができなかった。何故か。


 いつもの『悪意』ではなく、『殺意』だったから。

 生まれて初めて、【直感】で本気の『殺意』を感じ取った。


「くそったれ……」


 銃口を向けられたことを思い出し、押し込めていた恐怖が表に出てきそうになる。

 あんなもの、大学生だった前世でも体験したことねぇよ当たり前だろうが。


 未だに銃声が耳の中にこびり付いているようだ。


 あの時は一瞬で、しかも俺が自覚することなく迎えてしまった『死』であった。

 でも今回のこれは、はっきりと意識できてしまう明確な『死』の一歩手前。


 怖くて、しかたない。


「……? 名都さん?」


 不意に安芸城が俺の顔を覗き込んでくる。

 話している途中で黙ってしまったからだろうか。彼女は「大丈夫ですの?」と俺を気遣って聞いてくる。


 思えば、彼女がいなければ死んでいたのだ、俺は。


「……安芸城さん。さっきは助けてくれてありがとう……危うく死ぬところだったよ」


「……そうですわね。あの男、本気で名都さんを撃つつもりでしたもの」


 「怖かったですの?」という安芸城に「当たり前だ」と言葉を返す。 

 あの状況を何とも思えない奴がいるなら、それはもう普通の人間じゃないだろう。

 『死』が目の目前にあったんだぞ。死神の鎌が首筋に当たっていたんだぞ。

 

 それを恐怖できない人間がどこにいるというのだ。


「でも、私は今、少しだけ安心しましたわ」


「安心? こんな状況でか?」


 「ええ」と少しだけ笑って見せた安芸城は、立ち上がって座り込んでいる俺の前までやってくる。


「私、実は名都さんは人間ではないどこかの星の超常生命体か何かだと思っていましたの」


「……なんだそれは」


「考えても見てくださいまし。異能を封じる手錠は効果がなく、異能のような力を二つどころかいくつも持ち合わせているような方。常識外れと言ってもよろしいでしょう?」


 安芸城の言葉に、黙り込む。

 やっぱり、俺は異端だと、そう思われてしまっていた訳か。


「そんな悲痛な顔しないでくださいまし。言ったでしょう。思っていた、と」


「え……」


「殺されそうになったんですもの。怖いと思うのは当り前ですわ。それが人間です。もしあの時の事を名都さんが少しも怖がっていなければ、私、お友達をやめようかと思うところでしたわ」


 「だからこそ」と俺の視線に合わせる様にしゃがんだ安芸城は笑顔で言う。


「初めてのお友達とまだお友達でいられることに、私少し喜んでいますのよ」


「……そうか」


 何だろうか。

 何と言葉にすればいいのかわからない。しかし、彼女のその言葉で俺の中にあった恐怖が少しだけ和らいだような気がした。


 とても、温かいと思える言葉だった。


 危機的状況であることには変わりがないはずなのに、目の前の女の子は心から喜んでいるようでニコニコ笑っていた。


 だが、俺からは見えている。


 彼女の足は、少しだけ震えていたのだ。


「ありがとう。安芸城さん」


 自分も怖いだろうに。足が震えて座り込んでしまいたいだろうに。

 そんな中で、彼女は同じように震える俺を励まそうとしてくれたのだ。


 本当に、優しい女の子だ。


 だからこそ、この女の子だけでも救わなくちゃいけない。

 こんな優しい子に、あの牢屋の中でしたような悲しい顔をさせてはならない。

 こんな風に、怖い思いをさせてはいけない。


「改めて、君に誓おう。安芸城さん」


 腹と脚にグッと力を込め、立ち上がる。


「君だけは必ず、ここから出す。文字通り、出し惜しみはなしだ」


 しゃがみこんでいる彼女に手を差し出し、一気に立ち上がらせる。

 温かい手だ。人を気遣える優しい子の手だ。


 恐怖で冷えていたはずの手は、気付けば熱を取り戻していた。


「ええ。私も、今のあなたがいれば大丈夫だと、そんな気がしますわ」


「期待以上に応えてやろう」


「しかし一点だけ、訂正してくださいまし」


 かがみこむようにして俺に人差し指を突き付けてきた安芸城。そんな彼女の行動に、俺は思わず体が仰け反ってしまい、直後、背後の壁に軽く頭をぶつけてしまった。


 そんな俺を見て、彼女は笑いながら言った。


「『私だけ』ではありませんわ。私とあなたの『二人で』しか認めません。いいですわね?」


「……了解だ」


 俺の返答に、「よろしいですわ」と満足そうに頷いた彼女であったが、何かを思い出したのか一瞬だけ視線を空へと向けると、今度はニヤニヤとした笑みを浮かべた。


「こういう時、あなたの中の私風に言うならば、『感謝してくださいまし!』ですの?」


「勘弁してくれ」


 あの声真似をまだ根に持っていたのか、俺の反応を見た安芸城は、いたずらが成功した子供の様に破顔した。

 存外、彼女は揶揄われると根に持つタイプなんかもしれない。


 ここから出たらお詫びとして、ちゃんこ鍋ジュースを一ケース送ってあげることにしよう。

 ……嫌がらせ? 否、純粋な好意である。俺なら嬉しい。


「さて、安芸城。そろそろ動こうか。いつまでもここにいれば見つかるし、出れるわけもないからな」


「そうですわね」


 だいぶ逃げたとはいえ、ここま未だに敵陣の真っ只中。いつ見つかってもおかしくはない状況なのだ。

 隠れていた物陰から周りの様子を伺うが、人が来る気配も、直観が働くこともない。

 今なら移動しても問題はないだろう。


「では移動の間にお互い何ができるのか話しておきたいのですが、よろしいですか?」


「構わない。今か後かの違いになるだけだからな」


 一瞬、彼女に怖がられるかもしれないという気持ちが沸き上がったが、それはすぐに収まった。

 例えその異端の力を怖がられたとしても、俺がやることは変わりがない。

 

 その目的の達成のため、少しでも成功率を上げるなら話しておくべきだろう。


「驚かないで聞いてほしいんだが、俺が使える能力――それも、異能とは呼べないものが全部で10ある」


「……ちょっと待ってくださいまし。異能ではない? 10? 一番目からもう驚くしかありませんわよ?」


「経緯の詳細を今は省くが、とりあえずその10個についての説明を簡単にしておく」


 あたりを警戒しつつ、俺の異端――【祝福】とも【呪い】とも呼べるその力について話を進める。


【瞬間移動】

【取り寄せ】

【空間収納】

【直感】

【声真似】

【変装】

【鑑定】

【健康維持】

【小金持ち】

【ある程度の運動神経】


 それぞれに軽い説明をつけてやると、聞いているうちに安芸城は口の端を引きつらせていた。


「そ、それ、マジですの?」


「普段使わないような言葉を使うくらい驚いているところ悪いが、マジだ」


「……省かれた詳細も是非聞いてみたいところですわね」


「聞いても信じられないと思うぞ」


 前世で死んで謎の存在に会い願った力を受け取った、なんて俺が聞いている側であれば精神科医でも進めるところだ。とても本当の事だとは信じないだろう。

 しかし、隣の安芸城はそうではなかった。


「名都さんの言うことなら信じますわ」


 力強くそう言って目を合わせる安芸城。彼女のその様子から、本気でそう言っているのだということがはっきりと分かった。


 目は口ほどに物を言う、とはよく言ったものである。


 そんな彼女の真剣な目を見ることができず、俺は「そうかい」と一言だけ告げて先を急いだ。


「素直じゃありませんわね」


「照れてるんだよ察してくれ」



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