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14.逃亡

本日も二話投稿です。

まずは一本目、行ってみよう!


「探せ! 早くしないとボスに何をされるかわかったもんじゃねぇ!」


「あっちにはいなかったぞ!」


「くそっ、まだ燃やされたくねぇぞ!!」


 男たちの喧騒が辺りで響き渡る中、俺と安芸城の二人はその喧騒にまぎれて移動していた。

 ちなみに、ここまでで何度か敵と遭遇している。これだけ周りが慌ただしいのだからそうなるのは当然ともいえるだろう。


 しかし、その全てを俺たちは乗り切っているのだ。


 というのも……


「おい! ガキどもはいたか!?」


 また迷彩服姿の男が現れ、何度目かになる質問を怒鳴るように投げかけてくる。


『いいや! 見ていない! 俺たちは向こうを見てくるから、お前は反対側を頼む!』


「わかった!」


 俺の言葉に何の疑問も抱かずに反対側へと走り去っていく男。

 そんな男の後姿が見えなくなったところで、後ろで黙っていた安芸城が安堵の息を吐いた。


「あなたには、もう驚かないようにしますわ……」


「よせやい。照れるだろ」


「褒めてませんわ。けど現状、あなたのおかげで助かっていることには変わりありませんものね」


『もっと崇め奉るのですわ!』


(わたくし)そんなこと言いませんわよ!?」


 安芸城と全く同じ声で言ってやると、予想以上に元気のよい反応が返ってきた。特徴的なドリルがぐるんぐるんと唸りをあげて回転していう様な気さえしてくる。


 そんな彼女に、俺は「ごめんあそばせぇ~」と声を変えずにおどけて見せる。


 これぞ我がスタン――もとい、力の一つ!


 【声真似】、あるいは【声帯模写】とも呼べるものだ。


 俺自身が聞いたことのある声であれば自由自在。あらゆる声を俺が聞いた通りに再現できる。

 

 声帯認証? ザルですなぁ。

 

 まぁもともと、声真似で動画投稿とか面白そうだなと思って頼んだものだけど、その性能はまさに規格外。真似や模写などと言うが、もはや本人のそれと同一と言ってもいいだろう。

 ただし、あくまでも真似れるのは声のみ。口調やイントネーションまでは真似できないため、そこは注意が必要だ。


 なお、【変装】と合わせることでなりすましに使えたりもする。


 ここまでの道中で会った敵には、あの牢屋で出会った男の一人の声を拝借して対処している。今のところバレていない為、効果はあると思っていいだろう。

 

「しっかし、結構歩いたのにまだ出口に辿り着かないとは……いったいここ、どれだけ広いんだろうか」


「そうですわね……考えられるのは、(ゲート)発生当時に作られた基地か何かでしょうか」


「何それ。そんなの作ってたのか?」


「ええ。知っての通り、当初は異能もなく、扉や怪物に対して有効な手段がなかったと聞いていますわ。ただ、扉は地下にはできないので、拠点を築くには最適だったのでしょう」


 「まぁ私も父から聞いた話なのですが」といって自信なさげな安芸城。

 しかし、彼女のこの予測は当たっている。興味本位で確かめてみたところ、俺の目にははっきりと『対異界対策基地 京都支部』と映っているのだから。


 これも俺の持つ力の一つ。

 ファンタジーではお馴染み、【鑑定】能力である。


 文字通り、俺が目にして情報を知りたいと認識したものに対して効果を発揮し、簡潔な説明を読むこともできる。

 10個目の願いがあまり思いつかず、ファンタジーでお馴染みだった鑑定能力と言うのをノリで取得したのだ。

 今の今までほとんど使用したことはなかったがな。


 ちなみに、今俺が見えているのは


『対異界対策基地 京都支部

約60年前に設立。扉から出現する怪物に対抗するべく、当時多くの人間がこの場所を拠点に戦っていた。一時はシェルターになったことも。現在は破棄されている』


 と、まぁこんな感じの内容だ。ここが京都だとわかっただけでも良かったと言えるだろう。


 またこの【鑑定】は、便利なことに人に使えばその人物の名前や年齢、異能について知ることが可能だ。

 安芸城に使った場合、『安芸城ユイ 15歳 身体強化系統』という説明と、異能の簡潔な説明が見えるはずだ。


 安芸城にはいってないものの、道中で見かけたやつらは全員【鑑定】を試している。今のところ異能レベルも高くて4の奴しかいないし、そいつも戦闘特化ではなかったため安芸城でも逃げ切ることはできるはずだ。


「でも基地だったら、緊急時の出口がいくつかあっても不思議じゃないはずだ。運良く敵がいない場所に行きつくことを願っておこう」


「そこは名都さんでも何とかなりませんの?」


「悪いが、俺も万能ってわけじゃない。できないことはできないよ。ただ、できるものが普通よりも多いだけだ。……シッ、静かに」


 前方の曲がり角から誰かがやってくることを直感で感じ取る。

 できれば隠れたいところだが、一本道の通路には隠れる場所などない。そのため、このまま鉢合わせになるしかない。


 すぐに安芸城と話すのをやめて駆け足を始める。俺たちを探して慌ただしい奴らを真似て、俺たちも探し回っているふりをしているのだ。


 すれ違いざまに『見つかったか!』とでも聞いてやれば見逃されるだろう。


 そう考えながら駆けていると、やがて前方の曲がり角から一人の男が姿を現した。だが、男はここまで出会ってきた迷彩服ではなく、くたびれたスーツに猫背気味。

 瞬間、俺はその男に対して言いようもない不気味さを感じた。同時に【直感】が警鐘をガンガン鳴らしている。


 そんな男がその目に俺たちの姿を映した。


 ……このまま突っ切るしか選択肢はない。


「どうだ。ガキは見つかったか」


『っ……いえ! ただいま捜索中です!』


 一瞬どこかで聞いた声だと思ったがすぐに思い出した。

 この声、基地内の放送で俺たちを探すように言った奴だ。


 放送内容や言い方からしてこの組織内でもかなり上の立場だと言うことは容易く想像できたが、まさかそんな奴が目の前に現れるとは。

 内心で運がないと悪態を吐くが、それでもこの状況を何とか乗り切らなければならない。


 嫌な汗が背中を流れていくのを感じながらも、俺は目の前の男の一挙一動を見逃さないように注目しながら言葉を続けた。


『引き続き、全力をもって捜索に当たります!』


「そうか。ならいい。……んで? その後ろの奴は何故何もしゃべらない」


 くそったれめ……!


 気怠そうな目を俺から後ろにいた安芸城に視線を移した男。

 俺と違って声を変えることができない安芸城が喋れば、恐らく一発アウトだ。


『実はこいつ、人と話すことに慣れてないんです!』


 苦し紛れに言ったその言葉は、我ながら怪しすぎるものだった。

 こんなので言い逃れができるわけがないと思い、男から見えないように後ろ手で安芸城に合図を出す。


 戦闘準備のサインだ。

 

 後ろで安芸城が渡していた警棒に手を駆けた。


 しかし、男は意外にも「そうか」の一言だけ告げて俺たちを通り過ぎていった。


「早いとこ探し出せよ。じゃないと、俺らみんな揃ってボスに燃やされちまう」


 んじゃぁな、と片手を上げて去っていく男に、俺と安芸城は顔を見合わせた。

 だが、騙せたのならそれでいい。ここを凌げたのなら、もう出口までは近いはずだ。


 男が俺たちが通った曲がり角に消えたことを確認すると、俺は安芸城に向き直った。


「安芸城さん、とりあえずここから出たら――」


 『殺意』


「やっぱりお前らか」


 突然背後から声がした。思わずその声に振り向いてみれば、そこにいたのは何かを構えて俺に向けているさっきのスーツの男。

 手にしていたのは、銃だった。


 異能が当たり前となったこの世界においてもその脅威は健在。対抗できる異能者でなければ、簡単に人を殺すことがで可能だ。


 そんな物騒な物の銃口が、俺の頭を捉えていた。


「っ!? 名都さん!!」


 「え?」と、思わず口から零れたその言葉は、響く銃声にかき消される。


 何かがぶつかったような衝撃を体に受け、俺はそれと一緒にゴロゴロと体を打ち付けながら転がった。


「ご無事ですか!? 名都さん!! 怪我は!?」


「お……おう、大丈夫だ……」


 俺に覆いかぶさるような体勢で、安芸城が問うてくる。

 見上げるとすぐ傍に安芸城の整った顔があるのだが、彼女の剣幕にそんなことを考える余裕がなく、つい気の抜けたような返事を返してしまった。


「チッ、避けたか。たく、あれで本気で騙せると思ったのかよ。あいにくだが、これでも部下の顔は全員把握してんだ。見たことない奴がいれば怪しむに決まっているだろ」


 悪態を吐くスーツの男が先ほどよりも離れた位置にあった。

 どうやら、とっさに安芸城が助けてくれたようだ。じゃなければ、今頃俺はまたあの存在に面会していたかもしれない。


「立てますか? すぐにここから離れますわよ」


 「さぁ、手を取ってください」と差し出された手を取ると、思いのほか力強く引き上げられた。

 見れば、片手には警棒。どうやら今は異能の行使中。先ほどの衝撃も、彼女が俺を助けるために思い切りぶつかったが故のものだったのだろう。

 ……いや、俺の力が抜けているのも原因か。


 少し足に力を入れずらいが、今は、と心のうちから溢れてしまいそうな恐怖を抑え込む。


 俺が安芸城の足手纏いになってはならないのだから。


「逃がさねぇよ」


 男が手にした拳銃を構えて何発か撃ってくるが、その悉くが安芸城の持つ警棒に撃ち落された。

 

「え、マジで?」


「名都さん! 今はふざける時ではありませんわよ!」


「すまん! 『拳銃』!」


 安芸城に一喝され、俺はすぐに男の手から拳銃を取り寄せる。

 一瞬のうちに自分の手元にあった拳銃が消えたことに困惑しているようだったが、男は俺の手に渡った拳銃を見ると「ほぉ」と興味深そうに呟いた。


「俺と同じ空間移動系統か? ……いや、さっきの声も異能と考えれば……お前、複数持ちか! 安芸城の娘だけ置いとけばいいと思ったが……予定変更だ」


 いったい何から何に変更になったのだろうか。

 非常に気になるところではあるが、聞いたところでヤバい案件であることは間違いない。


「よって今は逃げる! 安芸城さん!」


「わかりましたわ!」


 脱兎のごとく男と逆方向に駆けだした俺を、後から追ってきた安芸城が抱えてさらに加速した。


 ……あれ?


「なぁ、何で俺がこの格好?」


「こちらの方が速いからですわ! それに名都さん、あなた今、まともに走れないでしょう」


 ……まったくの正論である。


「わかった、頼むよ。そこ、右に行ってくれ」


「わかりましたわ!」


 俺の指示通りに通路を駆けていく安芸城のスピードは、まるでレースカーに乗っているような気分になる。もちろん、乗ったことなどないのだが。


 しかしあれだ。今世最初のお姫様抱っこは、する側が良かったと思ってしまう今日この頃なのであった。

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