12.助けるために
本日も二話投稿です。
まずは一本目、どうぞ!
「ここに入ってろ」
どうやらここが男たちの目的地だったようで、俺たちはスマートフォンなどの通信端末を全て没収された後、縄から何か機械の手錠のようなもので拘束。その後、牢屋のようなところに閉じ込められた。
しかし、二人一緒に同じ場所に入れるとは、ここ一つしかないのだろうか。協力して逃げられても知らないぞ?
「ごめんなさい、名都さん。こんなことに巻き込んでしまって……」
隣で申し訳なさそうに謝る安芸城だが、もうこれは予想のしようがないのではないだろうか。
「予想できないし、仕方ないよ。それに、謝るならこっちの方だ。安芸城さんなら逃げられたのに、俺のことで脅されたんだろ?」
「それは……」と押し黙った安芸城の反応を見て、予想通りだったかとため息を吐く。
まぁ世間的には異能レベル3の一般人だ。意外にも人を放っておけない安芸城が俺を人質にされれば、大人しく従うしかなかったのだろう。
俺の力の一端でも安芸城が知っていれば、こんなことにはならんかったのだろうか。
「……はぁ。ごめんな、安芸城さん」
「いえ、ですからそれは……いえ、ここでの議論は止めましょう。そういう場合でもありませんわ」
「だな。ところで、安芸城さんはこんなことになっている原因に心当たりはある?」
予想はしているが、念のため安芸城に聞いてみることにした。
すると安芸城は、「恐らく父の会社関係でしょう」と口にする。予想通り過ぎてあまり驚くこともなかった。
「となると、身代金要求とかかな?」
「金銭目当てにしては、この場所の用意など手が込みすぎていますわ。私を狙うリスクも大きいですし、何よりこの手錠。これをそこらの異能犯が用意できるとは思いませんわ」
背中側で縛られた手に視線をやった安芸城と同じく、俺もその手錠に目を向けた。
俺の知る警察が持っているような鉄製のものではなく、ゴツくて機械的な見た目をした手錠だ。少し重たいため、腕が疲れてくる。
「これ、そんな凄い奴なのか?」
「一般的には流通しませんから、名都さんが知らないのも無理はありませんわ。これは、【異能】を封じる手錠ですの。特異能隊が異能犯罪者を拘束するときに使用していますわ」
「まぁ、型落ちした旧型ですが」という安芸城だが、旧型でも性能は十分らしい。異能があれば破壊できるとは言うが、その異能を封じられている今はどうにもできない。
困りましたわ、と腕をひねったりして何とか手錠を壊そうとしているがビクともしていないようだった。
「で、それが用意できるあいつらはただの誘拐犯ではない、と」
「ええ。かなり名のある犯行グループか、どこからか依頼を受けたフリーの探索者たちの可能性もありますわ。そして、金銭の要求も考えられますが、一番の目的は父の会社で扱っている研究資料でしょう」
安芸城曰く、今では大体の企業では異能についての研究が行われているらしい。
というのも、最初はこの原因不明の力の源を解明することから始まったそうで、これが派生し、今では対怪物の武器や簡易的に炎の異能を使えるようになる腕輪、はたまたこの異能を使用する際に発生するエネルギーを利用して結界のような壁を生成したりする装置が開発されているらしい。
なお、今俺の手についている手錠もそういう経緯で作られたのだそうだ。
安芸城の父がトップを務める安芸城グループでも、そういう異能についての研究がされているらしい。
「はぁ……父にどんな顔をすれば……この安芸城ユイ、一生の不覚ですわ」
自分の父に迷惑がかかることが申し訳ないのだろう。彼女は項垂れてひどく落ち込んでいるようだった。
「さて、どうするか……」
ボソリと呟いた俺の声は、彼女には聞こえていないようだった。
正直な話、彼女がこんな状況にあることに対して罪悪感があるのは確かだ。
いくら彼女が自分のせいだと責任を感じていても、これについては俺にも問題があったと言わざるを得ない。
そして何より、この状況をどうにかする手段はあるのだ。
例えば瞬間移動
窓さえ見つけることができれば、俺はそこから外へ脱出することができる。
しかも、俺の瞬間移動は誰かと一緒何て想定はしていないためお一人様専用の完全ボッチ仕様だが、その外から安芸城を『取り寄せ』てしまえばここからの脱出は容易い。
例えば空間収納。
すでに手に触れている手錠なら何の問題もなく収納ができるだろう。安芸城の手錠も収納してしまえば、あとは安芸城の異能を使ってこの牢屋から脱出することもできるし、壁に穴でもあければ瞬間移動で俺が外へ出ることもできる。
しかし、懸念点が二つある。
まず一つ目。
ここから出られても、その後で逃げ切れるかどうかという問題。
仮にここから出られたとしよう。しかし、この建物が存在する場所が、俺たちの知る土地であるという保証はない。場合によっては、京都でもないどこかの僻地何て可能性もある。
恐らく、あの路地裏からここまで来たのは空間移動系統の異能、それもポータルのような設置型によるものだろう。
俺も世間的には同じ空間移動系統として通っているため、他にどんなものがあるのか調べたことがあるが、ああいったポータル設置系の空間移動は、事前準備が必要な代わりに距離や重量の制限の緩い強力なものである場合が多いのだ。
その距離によっては、地の利が向こうにある分二人で逃げ切ることが難しいものになってしまう。
そして二つ目。
俺の異端を、安芸城に見せることになることだ。
ここからの脱出を図るならばそれは必須。しかし、助けが来る可能性がほとんどない今、俺が渋って二人仲良くBADENDなんて結果になれば目も当てられない。
だが……
チラリと隣を見やれば、安芸城は手錠を外そうとしきりに手を動かしていた。
しかし、結果は先ほどと変わらない。しばらく動かした後、安芸城は疲れてしまったのか壁に背を預けて大人しくなってしまった。
そして俺たちがここに閉じ込められてから体感で一時間くらいだろうか。
カツカツと二人組の男が牢屋の前にやってきた
「おうおう、意外にも大人しくしてやがったぜ」
「ちったぁ抵抗して喚きだすかと思ってたがなぁ」
笑いにでも来たのだろうか。
その二人組は品のない笑みを浮かべて俺と安芸城を格子の向こう側から眺めていた。
「あなたたち、こんなことをして無事で済むと思わないでくださいまし」
「おお! 怖い怖い。まぁ、そこでその手錠がついている女に、何ができるのかなぁ?」
「違いない!」
可笑しくてたまらないといった様子で、今度は声を上げて笑う二人の男。
そんな二人に腹が立ったのか、安芸城は憤慨した様子で立ち上がった。
「必ず助けは来ますわ! 今頃、私がいなくなった報告が学校側から父の会社へ届いているでしょう。そうなれば、我が家の捜索隊がすぐにでもこの場所を探し出しますわ!」
「探し出しますわ! だってよ! いやぁ、来ない助けを信じて待つなんて健気だねぇ」
「……どういうことですの」
「そもそもの話、お前がいなくなったことなんて報告されてないんだなこれが。お前らの学校に同行していた探索者の一人がうちの者でな。こちらの準備が整うまで誰も気づかないように動いているんだよ。理解した?」
「そんな……」
怒る気力を削がれたのか、ペタンと尻もちをついて座り込んでしまった安芸城。そんな安芸城を見て、男の一人が言う。
あの同行者のうちの一人が、こいつらの仲間とは。最初から安芸城を狙った犯行だなこれは。
彼女以外に狙う価値のある人間はいないだろう。
可能性としてあり得るのは……田中君くらいか?
「しっかし、中学生の割に育ってるよなぁ……ボスに言って、取引の前に味見させてもらうか?」
「いいねぇ。生意気なお嬢様を俺らで躾けようってか! そういうのは大好きだぜ。なんなら、今ここでやっても問題はねぇぞ。監視カメラもないから、バレなきゃ大丈夫だ!」
安芸城を見る二人の目はまるで獲物を見る獣のそれだ。
下卑た目で己を見る二人に身の危険を感じたのか、安芸城は「ヒッ!?」と怯えて後ずさった。
「聞いたか! 『ヒッ!?』だってよ!」
「こりゃ、堕ちるのもすぐなんじゃねぇか。なんてな!」
「そこまでにしてもらってもいいですかね。聞いていて気持ち悪いから」
安芸城の反応を楽しむ下衆共の声を遮り、自ら彼らの前に出る。
明らかに大人の二人が、こんな中学生の女の子を相手に恥ずかしくないのか。
「お、ついでで攫われてきた男か。なんだぁ? 女の騎士でも気取ってんのか?」
「ヒューヒュー! かっこいいねぇ!」
煽るように俺を揶揄う二人組。
この二人の余裕も、俺たちの異能が封じられて牢屋の中にいるからなのだろう。
「な、名都さん……」
「安芸城さん。怖がる心配はない。君の事は必ずここから出してあげるから」
それを今、決めた。
異端の力ではあるが、それで女の子を助けられると考えるなら十分すぎるだろう。
……まぁ、下手をすれば人生全部モルモット何て笑えないことにもなりそうだが、その時は世界ごとぶっ壊すとか言って手を出されないようにすれば……思考が犯罪的すぎてヤバい奴だな。
「何を粋がっているのかねぇ……何もできない奴が大口叩くと痛い目見るぞ?」
「何もできない、なんてことはないよ。……ところで、ここに来るのはあなたたちだけなのかな?」
「ああ? もしかして、他の奴に手を出さないように言ってもらうつもりか? まさかの人頼みかよ! こりゃ傑作だ! 残念なことに、ここにはあまり人が寄り付かないんだよ。こんなところ、逃げられるはずもないから監視も意味がない。残念でした!」
まるで学のない子供の様なことを言う男達。
しかし、良いことを聞いたものだ。
「そうか。なら、問題はないな」
俺は二人組から見えないように、後ろ手にされている手から手錠を外して『収納』する。
しばらく固定されていたが、手首は問題なく動くようだった。
「てめぇらの言動に、こっちは腹が立ってんだよ」
さぁ、脱出劇の始まりだ。
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