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11.食べ歩きと巻き込まれ

本日ラストの二本目です。


ここまで読んでいただきありがとうございます! 

是非、感想や評価をよろしうお願いしますね!

 突然の扉の発生から一夜明けた修学旅行最終日。


 本日は一日帰るまで自由行動が許可されているため、みんな一様にテンションが高いようだった。

 なお、同じ班員であるため同じ部屋で寝泊まりしていた彼らは一日開けてもまだ疲れがとれていないらしい。

 まぁ彼らが帰ってきたのは夜遅く。あの大学だけでは飽き足らず、ホテルに帰ってきてからも説教は続いていたようだ。


 修学旅行で反省文を書かされるなんて、うちの中学校では初めてではないだろうか。

 

 もうある意味伝説である。悪名であるが。


 そんな彼らはさておいて、俺は引き続き食べ歩きを楽しむことにしよう。


 昨日の事件によってキメラが出てきた周辺は通行止めになっているため、目をつけていた何軒かには行けなくなってしまったのだが、行くところはまだまだあるため問題はない。


 三年生全員がホテルのロビーに集められ、今日一日の注意事項を教師が読み上げていく。

 それを聞きながら、俺は饅頭と羊羹どちらから回るべきかと頭を悩ませているのだった。


 やがて、「我が校の生徒として、恥ずかしくない行動を心がけるように」とどこの学校でも言いそうな言葉で場を締めるとそこで自由行動が解禁となった。


 まだ若い周囲は、その言葉を機にあちこちへと飛び出して行ったり、他のクラスの友人と合流してからこれも飛び出して行ったりとはしゃいでいる様子。

 これには教師たちも諦めたように笑うしかないようだった。


「さて、行くか」


「何処へ行きますの?」


 まだ見ぬ食が俺を待っていると、力強い一歩を踏み出そうとしたのだが、そんな一歩を阻む声が背後から聞こえた。


「もちろん食べ歩きにだ。鯖寿司牛カツくずきりにしんそば。挙げ連ねればキリがない。ラーメンなんかもおいしいだろうし、できるなら京都名物のお菓子も食べつくしたいところだ」


「……よく食べますのね」


「それくらいしか楽しめそうにないからな。ちなみに金の心配はご無用だ。これでもそれなりに持っている……が、これは俺の資金だ。奢る余裕まではない」


「この(わたくし)がそんなみすぼらしい真似しませんわ。それに、そんなに食べて大丈夫なんですの?」


「安心してくれ、安芸城さん。俺は太らない体質だ」


「世の女性が羨む体質ですわね……」


 自信満々に言ってやれば、まったく、とため息を吐く安芸城。

 しかし、俺に話しかけていったいどうしたというのだろうか。


「ところで、安芸城さんは誰かと一緒に行かないのか? 友達ならできただろう」


 昨日仲良さげに話していた班員たちはどうしたのかと思って聞いてみると、「先約があるからと断りましたわ」と安芸城。


「? じゃあ、人を待たせているんじゃないのか?」


「察しが悪いですわね。ほら、行きますわよ」


 さぁさぁと俺の背中を押して外へ出ようとする安芸城。どうやら、俺は身に覚えのない約束をしていたらしい。

 うん、本当に意味がわからない。


 ホテルの一角で女子たちが騒がしい声を上げているのも無視して、彼女はとても楽しげな様子で宿泊先のホテルから連れ出し……押し出していくのだった。





「それで? 約束とかしていたつもりはなかったんだが、安芸城さんは何で急に俺を連れだしたのかな?」


 ホテルから出てしばらくしてからも彼女は俺を押し連れることをやめることは無かった。

 ようやく手を放してくれたのは風情のありそうな橋の上。あー疲れたと橋の欄干に両肘を置き、今更自らの行動をはしたないと恥ずかしがっている彼女に問うてみる。


「……少々はしたない行動でしたわね。その、お友達と出かけることに少し浮かれていたようですわ


「……まぁ、友人と思ってくれていることは嬉しいけど」


 正直な話、俺から彼女に話しかけづらかった分――とはいっても自業自得みたいなものだが――彼女の方からこうして接してきてくれたことは嬉しかった。


「あなたのおかげで私にも友人は増えましたわ」


「俺のおかげかは知らないけど、前のピリピリしていた時と比べれば考えられないよな」


「けれど、あなたは……その、初めてできた特別なお友達、ですので」


 「こうして一緒に出掛けたいと思ってしまいましたの」と、彼女は冷やかすつもりで言った俺の言葉を丸っと無視して言葉を続けた。

 まさか、カウンターが飛んでくるとは夢にも思っていなかった。


「そいつはどうも」


 それだけ言って橋の下を流れる川を眺める。きれいな川だ。

 科学技術があまり変わらずとも、こういう自然環境に関してはよくなっているようだった。


「……それじゃあ、せっかくだし何か食べに行くか。ラーメンでも食べるか?」


「まだお昼には早いと思うのですが」


「そうか。なら、ところどころで摘まむか」


 あっちに行くぞ、と欄干から離れる俺の後ろを安芸城は「行きますわ」と着いてくる。

 こうやって一緒に回りたいと言ってくれる女の子がいるんだ。自由行動を許されているのだし、今日一日この俺自らが考案するボッチの食べ歩きツアーをやってやろうじゃないか。


 なお、二人になったためツアー名は没となった。悲しいなぁ。


 彼女のためにも、こんな午前中から重いものはNGだろう。となると、手軽に食べられるものを中心に回るのが吉と見た。お昼はもうすでにラーメンを食べることが確定しているため、あまり無理強いしないようにしなければなるまい。


 その分、当初予定していた食べ物全てを制覇はできなくなる。しかし、それはまたいつか京都に来た時にでもチャレンジすることにした。

 今目の前にいる友人の為にも、楽しい思い出とやらを作ってやろう。



「とりあえず、最初は軽く、卵サンドでも食べに行くか」


「エスコートはお任せしますが、それを軽いとは言えませんわよ?」


 あれ、軽くないの? 





 それから俺たちは二人でいろんな店を巡った。

 途中、お昼ご飯にラーメンを食べたのだが、「初めて食べますわ」という安芸城の衝撃発言には度肝を抜かれたものだ。


 流石お嬢様である。


 普段何を食べているのか聞いてみた所、家のシェフが最高級のうんぬんかんぬんと言い出したあたりでラーメンが来たので聞くのをやめた。

 とりあえず、住んでる世界が違うってことが再確認できたわけだが、そんな彼女が何故うちの学校に転校してきたのか少し気になってしまった時間でもあった。


 まぁ楽しんでくれているのに、そんなことを聞いても野暮というものだ。


 よほどおいしかったのだろう。隣で笑顔になりながらクレープを頬張る安芸城を見て、こちらも連れまわした甲斐があったと嬉しくなる。


「まだ食べられそうか?」


「ええ、もちろんですわ! ……と、言いたいところなのですが、これ以上となればおいしく食べられないかと。無理をしても名都さんには申し訳ありませんし、しばらくは止めておきますわ」


 名残惜しそうに最後の日と口を食べ終えた安芸城に、すぐ近くにあった川沿いのベンチで休むことを提案する。

 安芸城もちょうど休みたかったようで、その提案はすぐに受け入れられた。


「今日はありがとうございます、名都さん」


 目の前でゆるやかに流れる川を見ながら、徐に彼女はそう言った。


「そいつはどうも。楽しんでくれているようで何よりだよ」


「ええ。とてもいい思い出になりましたわ」


 「私に気を使ってくれた、とても良いエスコートでしたわよ?」と、なかなか嬉しいことを言ってくれるではないか。

 思わず頬を緩めて笑ってしまった。


「思えば、こうして誰かと楽しむことなんてありませんでしたから」


「そうか。なら、この後も目一杯楽しんでもらわないとな」


「……聞かないんですの?」


 そう言ってこちらを向く彼女の顔は、少し驚いたような表情をしていた。前の学校の事でも聞くと思っていたのだろうか。


「聞いたところで、何かできるわけでもないからな。話したかったら聞き役には徹するけど、それだけだよ。まぁ、興味がないと言えば嘘になるがね」


 「それに」と続ける。


「今は楽しむ時間だ。湿っぽい話は、またいつか暇な時に気が向けばでいいだろうに」


「……まったく、素直じゃないうえ優しいんですのね」


 困ったように笑う安芸城は、「そういうところですのよ」と言う。

 どういう所なのか詳しく聞いてみたいものだ。


「そうだ、何か飲み物は飲むか? 自販機で買ってくるぞ」


「そうですわね。ならお金を預けるので、コーヒーをお願いしてもよろしくて?」


 財布を取り出そうとする安芸城。しかし、俺はそんな彼女に待ったをかけた。


「いいよそれくらい。ここで休憩しててくれ」


「あら? ですが、奢るお金はないと――」


「奢らないと言ったな。あれは嘘だ! ……という訳で言ってくる。140円のコーヒーの味を教えてやろう!」


 時間をかけても仕方ないため、駆け足気味に自販機へと急いだ。

 幸い、少し離れたところに自販機を見つけたため、財布から200円を取り出してコーヒーを購入した。


「ん!? 『ちゃんこ鍋ジュース』! こんなところにもあるのか……」


 途中、コーヒーと違う並びにあった『ちゃんこ鍋ジュース』を見て驚き、はたして夏の屋外にいるのに購入するべきかどうかを悩んだ。

 しかし、俺の後ろに人が来たのを感じて、すぐに購入しようと財布から追加の小銭を取り出そうとした。



『悪意』



「っ!?」

「動くな」


 突然【直感】が働き、俺の背後から悪意を感じ取った。

 しかし、反応して動こうとしたものの遅かったようだった。


 完全に気を緩めて油断していた。


「いいか、大人しく言うことを聞け。でなければ、あのお嬢様の命はない」


 「当然、お前もな」と何か硬いものを背中に押し当てられた。


「まさか、今時自分がこんなことに巻き込まれるなんて夢にも思ってなかったよ」

「余計なことを喋るんじゃねぇ。……まぁ、お前はあのお嬢様とお近づきになりすぎたんだ。恨むなら、あのお嬢様と自分を恨みな」


 意外にも返事を返してくれたことに内心驚きつつも、自分が今置かれている状態について考える。


 まずこいつの言葉からして、安芸城関係であることは間違いないだろう。

 彼女自身が狙われる理由としては、彼女の実家絡みだろうか。身代金とかの要求なら、一般家庭の俺なんかよりも大企業の娘である彼女が標的として最もなはずだ。


 それ以外の目的は、今のところ俺には思いつかないな。考えても、彼女の身柄を確保することで喜ぶ奴がいるかも、程度である。


 次に俺を捕まえる意味であるが、これは安芸城に対する人質だな。

 異能レベル5である彼女がそう簡単に捕まるとは考えにくい。彼女なら暴れることだってできるし、その間に異変に気付いた周囲が人を呼ぶこともできる。


 そうされない為の俺、ということか。

 彼女も、異能レベル3で通している一般中学生男子がこいつらに抵抗できるとは思えないだろう。


 俺の無事を約束する代わりに大人しくついてこい、といったところか。

 俺の力の一端でも彼女がこんなことにならなかったと考えると、少しばかり申し訳ない気持ちになってくる。


「こっちだ」


 未だに顔を見ていない背後の男に急かされるようにしてどんどん人気の少ないところへと歩いていく。


 しばらく歩いて何度目かの路地裏を曲がったところで、手を縛られた安芸城と数名の怪しげなフードを被った男たちの姿が見えた。


「!! 名都さん! ご無事でしたか!」


 駆け寄ってこようとするが、縛られた手の縄を持った男に止められてしまう安芸城さん。

 男に対して忌々し気な目を向けている安芸城に何もされてないよと伝えると、彼女はあからさまに安堵の息を吐いた。


「よし、行くぞ」


 安芸城と共にいた男が、周りを確認するように見渡したかと思えばそんなことを呟いた。


 いったいどこに行くのかと考えたのも束の間。


 気づけば、俺たちは見知らぬ建物の中にいたのだった。

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