10.扉と怪物
本日は二話投稿します。
まずは一本目、どうぞ!
班員たちの後を追い、扉が発生した場所まで急ぐ。
その際、空間収納でしまっていた変装グッズを取り出し、俺だとわからないように偽装することを忘れない。
コスプレとかしてみたいと思って願った【変装】であるが、そのクオリティは漫画の怪盗のようなレベルだ。
今回の様に誰でもない誰かに変装すればもう誰も俺だとは認識できないだろうし、誰かに似せて変装したとしてもそう簡単にはバレなくなる。
まだ一度も言ったことがなかったが、コミケなどがあったのなら一度何かのキャラにでもなっていってみたかったものである。
お察しの通り、いつ扉が発生するかわからないこのご時世において、コミケは危険だとされて中止になってしまったのだ。
閑話休題
さて、変装を終えたことで動きやすくなるだろう。
避難場所に俺がいないという点はあるが、瞬間移動の連続使用で空を駆けて先ほどの場所に戻れば、避難場所に向かっていたと言い訳ができる。
異能を使ったとしても100mしか移動できないと思っている教師陣には、それで怒られることは無いはずだ。
手近にあった建物の上へ瞬間移動で移動し、扉の方角を見る。
すると、異能の余波などで騒がしい場所へ向けて身を隠しながらも近づいていく四人組の姿があった。
「見つけた」
幸い、まだ現地には到着していないようで、今引き返せば最悪の事態は防げるだろう。
俺はすぐさま彼らの目の前に瞬間移動で飛び、その行く手を妨げた。
「うわっ!?」
先頭にいた男子が突然目の前に現れた俺に驚いて尻もちをつく。
他の者も、俺に気づいたようで尻もちまではつかないものの、皆一様に一歩足を引いた。
「……ヒッ!」
まぁそれも仕方ないのかもしれない。
何せ今の俺の姿は、真っ黒のローブで体を覆い隠してフードを被る骸骨の仮面をつけた怪しい奴なのだから。
ここが路地裏ということも相まってより一層その不気味さを増している。
「こ、殺さないで……!!」
尻もちをついた子が腕で顔を覆い隠すようにしてそういったのだが、それは些か失礼ではないだろうか。流石にそこまで危ない奴になったつもりはない。
とはいえ、予想以上ではあったもののビビらせることには成功したようだ。
「この先は怪物が出ている。避難指示があったはずだが……お前たちはいったい何をしている」
威圧するように言ってみれば、彼らは互いに目を合わせて挙動不審な様子だった。おおかた、誰かが話してくれるのを待っているのだろう。
しかし、いつまでもここに長居していては危険なため、さっさとこの場から避難させることにする。
「興味本位で危険な場所に来るとは何を考えている! さっさと避難場所へ急げ!!」
「「「「ご……ごめんなさぁぁぁい!!」」」」
身を翻して走り去っていく四人の後姿を眺めながら、とりあえずはこれで大丈夫だと心の中で安堵する。
そして振り返ったその先からは、未だに戦闘音が続いていた。
どうやら、予想以上に苦戦しているようだった。
「そんな大物でも出たのか……」
気になった俺は、瞬間移動で空高くへと移動する。
移動直後は重力に惹かれて落下を開始するのだが、戦闘区域近くの建物を視界に捉えてまた瞬間移動で飛ぶと、眼下で行われている戦闘に目を向けた。
「なるほど、キメラか」
どうやら扉から出てきた怪物は『キメラ』だったようだ。
三メートルはある獅子の体を中心に、山羊の頭と蛇の尻尾を持つ怪物で、その口からは毒霧を吐き出すのだとか。更に、頭が三つもあるため死角もなくタフネスときた正真正銘の化け物だ。
一撃で沈める火力でもなければ討伐は難しいだろう。
「こりゃ、あの四人がいたら死んでいたかもだな……」
改めて避難させて良かったと感じる。
対処している探索者は全員で7人。うち四人は中学の修学旅行に同行してくれた者達だ。
だが、肝心要の火力要因であろう炎の攻撃があまり効いていないように見える。このままでは、応援が駆けつけるまでに被害が広がってしまう可能性も出てきた。
「……やるか」
怪我人が出るよりはいいだろうと考え、俺は今の場所からさらに距離を取るためにまた飛んだ。
今度は、キメラの姿が肉眼でようやく見える場所まで退避してきた。
逃げることを決めたわけではない。
ただ、あのキメラを倒した後の事を考えてここまで来たのだ。
「『キメラの核』」
そうしてこの手に『取り寄せ』たのは、黒く濁った掌サイズの珠だった。
これが怪物たちの持つ【核】である。
扉から出てきた怪物が共通して所持している、怪物たちの最大の弱点。これを破壊されるか、もしくは抜き取られた怪物たちはたちまちその活動を停止してしまうのだ。
仮説では、この核は怪物たちの生命の源であり、この珠の中に渦巻く黒く濁ったエネルギーが動力源だと考えられている。わかりやすく人で例えれば、この珠が心臓で中のエネルギーが血液、という感じだ。
また、このエネルギーは石油などに代わる新エネルギーとして現代社会で活用されていたりする。そのため、探索者は怪物退治の際にできるだけこの核を壊さず回収するように言われているなんて話を聞いたことがある。
余談ではあるが、この核。相当高く売れるのだとか。
「……まぁ、仕方ないよな。」
あのキメラがいきなり倒れたことも不思議に思われるかもしれないが、何よりも一番換金率の高い核がないとなれば大騒ぎになるだろう。下手をすれば、あの探索者の中で誰が盗んだのか、などと言い争いがあるかもしれない。それも、キメラの核となれば相当な根が付くだろうから余計にだ。
しかし、俺は取り寄せることはできても、この核を向こうまでバレないように届ける手段を持ち合わせていない。瞬間移動で俺ごと行けば、お前は誰だとなるに決まっている。
よって、この核は俺の空間収納に保存しておくことにしよう。
どこにあるかもわからない収納場所へ入るように念じれば、手の上に乗っていた核がフッと消える。
ちなみに、こうやって怪物の核を抜き出しての怪物退治はこれが初めてではない。
数度ほど、隠れてばれないように使ったことがある。対象はどれもゴブリンという怪物の中でも最弱に分類されるやつらであるため、その核は小さいものであるがこれらも一緒にしまってあるのだ。
「なろうと思えば、なれるんだがなぁ……」
空間収納に次ぐチート能力。
これがあれば、俺は対怪物という点において無双できるのかもしれない。だがそうやって有名になればなるほど、俺自身が異常だと誰かが気づき始めるかもしれないのだ。
やろうと思えば世界を救うことも、滅ぼすこともできるだろうこの力。しかし、もともとそんなつもりもなく手にした力だ。心根が小市民な俺には、そんな自信はない。
せいぜいが、こうしてこそこそと盗人の様に動くくらいだろう。
許可もなく勝手に異能を――厳密には異能ではないのだが――を使用しているため法的に見れば明らかな犯罪行為。しかし、それで死人を出すよりかはいいだろう。
せめて目に付く人だけでも。
「やっべ……! そろそろ行かないと」
ふと街中の時計に目を向けると、避難指示が出てからずいぶんと時間がたっていた。
避難場所の大学まで行かなければ、どこに行ってたのかと怪しまれてしまうだろう。
変装道具をすぐに収納すると、俺は瞬間移動を連続使用し、すぐに大学近くまで移動する。
息も絶え絶えになりながらも到着すると、担任から大丈夫だったかと心配されたものの怒られるようなことは無かった。
「名都さん!」
「ん? 安芸城か。そんなに慌ててどうした」
息を落ち着かせてクラスメイトの手段の側に待機していると、慌てたように安芸城がやってきた。
「探しましたわ! 今までどこにいらっしゃったんですの!?」
「大学に来ても見つからないので心配しましたわ!」という彼女に、たったいま到着したことを伝えて謝っておく。
心配してくれていたようだった。
「ありがとうな。安芸城さん」
「……ええ。いろいろと言いたいことはありますが、無事で何よりですわ。あまり、この私を心配させないでくださいまし」
「その、お友達ですし……」とだんだんと小さくなりながらもそう言った彼女に、改めて謝った。
なお、俺が追い返した四人に関しては、俺の他にも彼らが扉の方へ行くのを目撃した者がいたらしく、学年主任の教師に酷く説教されているようだった。
当分はそうやって反省してもらいたいものである。
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