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1.流星群と転生と

また懲りずに新作。

私はいつになったら完結作品を書くのやら。


ともかく、熱が冷めてしまわないように頑張って続けます。



なお、本日はあと二話ほど更新します。



 いつも平凡で、普段と変わり映えしない一日を過ごしていた。しかし、そんな状況を変えようと自分自身で何か行動を起こしたわけでもなく、心のどこかで「どうせ無理だろうと」決めつけて諦める、そんな毎日。

 そんな風に無意味にだらだらと、毎年のように夏休みを過ごしていた時だっただろうか。


 自室にテレビなんて上等なものはない。あってもリビングだが、今は昼ドラでも見るのに親が使っている最中だろう。いつも通り机の上に置いてあったラジオを付けた。チャンネルは……適当でいいだろう。


『では、明日の未明には流星群が見られる、と』


『それもただの流星群ではありません!! 世界中で観測できるほどの規模何です!! まさに大!流星群と呼んでも過言ではないでしょう!!』


 ラジオの声から漏れてくる専門家の興奮した声。

 

 専門家がここまで言ってるのだ。その流星群はかなりすごいのだろう。

 いつもなら気にも留めないようなその言葉に、珍しく耳を傾けていることに気づく。代わり映えのしない日常なんて考えていたからか、無意識に楽しみだと感じているようだった。


「……物置に、望遠鏡とかあったな」


 流星群を見るのに望遠鏡がいるのかどうかよくわからないが、星を見るのと同じだろう。

 今から寝れば、まぁ寝過ごすこともないはずだ。


 物置のどこにあったかなと思考に吹けようとするが、引っ張り出すときに分かるだろうとベッドにゴロリと寝転んだ。

 窓を開けて扇風機でもつけていれば、こんな夏の昼下がりでもそこまで暑くなることもないだろう。












 まぁ、そんな簡単に眠れるわけがなかったのだが。


 時刻はあと一時間もすれば朝陽が顔を出すであろう時間。つまり未明。

 眠れなかった俺は、時間もあったため望遠鏡を背に少し遠出した。目的地は町はずれの丘の上。ちょうど開けた場所がここにあるのだ。


 ただ、考えることはみんな同じなのか、星が良く見えるこの場所にちらほらと人が集まっていた。

 いずれこの場所にも流星群を見ようと人が波のように押し寄せてくるのかもしれない。そう考えると少しばかり顔をしかめてしまうが、見に来るなともいえる立場ではないため仕方ないだろう。しかし、喧騒の中で流星群を見るのも嫌気がさしたため、もう少し移動する。


 すると、丘から少し離れた場所に寂れた公園があった。遊具なんてもうボロボロで、一目見ただけで使われていないことがわかるブランコのみの小さな公園だ。


 先ほどの丘よりも見晴らしは悪いが、流れ星は大量に流れるらしい。ここでも見ることに関しては問題ないだろう。むしろ、一人で静かに見るにはここは最適ともいえる。


 分解して背負ってきた望遠鏡を再び組み立て直す。ピントは……今は合わせようにも無理な話だ。時間になるまで待っておこう。


 ずいぶんと風化しているベンチに腰を下ろすと、ここまで来るのに疲れていたのか無意識にため息を吐いていたようだ。ため息は幸せが逃げるというが、その言葉通りであったなら今頃世界中の人々は皆不幸になっているのではないだろうか。


 などと、くだらないことに思考のリソースを割いていると、視界の上の方を一瞬ではあったが何か光るものが通り過ぎたような気がした。虫だろうか。鬱陶しいと顔を振って見上げた俺であったが、次にはもう言葉なんて出てこなかった。


 もう夜明けまで幾ばくも無い夜空を、大量の光る何かが横切っていく。

 

 言うまでもなく、あれは流れ星であるのだが、一瞬俺はあれが何なのかわからず唖然とするしかなかったのだ。

 だが、すぐに流星群の事を思い出した俺は、そう言えばそうだったと暫くそれを眺めることにした。



「……っと、せっかく持ってきたんだ」


 その途中でわざわざ疲れてまで持ってきた望遠鏡の事を思い出した。今思えば、何故これを持っていこうと思ったのか。過去の自分の思考が全く持ってわからない。


 角度を調整し、今も尚流れ続ける流星群にピントを合わせる。幸い、どこを見ても夜空には星が流れているため、角度の調整は簡単だった。

 しかし、望遠鏡のレンズが捉える範囲が狭すぎて、光った何かが続けざまに通り過ぎていくのを見ているだけになってしまった。


「はぁ……持ってきた意味よ。これなら、目で見た方がよっぽどいいじゃないか」


 諦めようと接眼レンズから目を離し、再び夜空を見上げた。

 

 空を埋め尽くすほどの大流星群。やはり、望遠鏡を使うよりもこちらの方が感動も大きいものだ。


「……ん?」


 視界の端で何か光っているような気がした俺は、すぐそちらの方向に視線をやった。

 みれば、何やら強い光を放つ何かが空からこちらへと向かてきているような……



「え、あれって……まさか流れぼ――」



 享年23歳。

 短すぎる俺の人生の死因が、まさか天からやってくるとは、死ぬその時まで考えもしなかったと、人生の最後に記しておくことにしよう。











 さて、そんな考えもしなかった死因を、すでに死んでいる俺がどうやって知ったかというとだ。



「いやぁ、あれだけ降ってれば誰かには当たるかなぁと思ってたよ? うん。でもさ、そんな僕の想像を斜め上に飛び越えてくるって君どれだけ不幸だったんだい?」


 ケラケラと目の前で笑っている白装束に身を包んだ少年……少女? 声も見た目も中性的すぎて分からないが、とにかくそんな存在が何かの紙と俺を交互に見ていた。


 死んだ覚えはないのだが、彼…彼女? この存在によれば、俺は流れ星という名の隕石が直撃してお亡くなりになってしまったらしいのだ。


 訳が分からない? 俺もだ。


「しかも! 一個ならともかく、十個一気にって! わはは! 本当に人生で何してたらそんなことになるのさ!」


 あぁおかしいおかしいとまるで芝居がかったような身振りで天を仰ぐこの存在に対して、俺はよくわからないまま「さぁ?」と返していた。


 実際、人生で何をしていたのかと聞かれても、自分で平凡と言ってしまえるほどの人生しか歩んでこなかったのだ。

 特に語ることもなく、特に山があって谷があったわけではなかった。


 物語にしてしまえば、承も転も結もないつまらない作品になってしまうだろう。


「いやぁ、これだけ笑わせてもらったのは久しぶりだったよ! 気分を害したならごめんね?」


「……いや、まぁそれはいいんだけども」


「どうかしたかい?」


「死んだってのは? 正直、何もかもよくわかっていないんだけど……」


 そもそも、ここはどこなのだろうかと辺りを見回してみたが、特に何かがあるわけではない巨大な空間が広がっているのみ。

 

「そのままの意味。君は、死んだんだよ」


 望遠鏡とかどこに行ったのかと考えていると、先ほどまで楽し気に笑っていた存在は酷く真面目な顔で、気持ち悪いほど平坦な声でそんなことを言ったのだった。


「あんまり説明するのって得意じゃないんだよ。だから、君は自分が死んだってわかっていればいい。死因はさっき言った通りだよ」


「あ、ああ……」


 わかったかい? と押し付けるように言ってきたその言葉に思わず頷いた。


「うん! わかればよろしい!」


 満面の笑みを張り付けた存在は、「理解力のある子は嫌いじゃないよ」と嬉しそうだった。


 正直、何もよろしくはないのだが、またあの気持ちの悪い様を見たくはなかったためそのまま大人しく話を聞くことにする。


「でだ、流石に不幸すぎてかわいそうかなって僕は思ってしまったわけだよ。そこで! 愚かな人間にも慈悲深いこの僕が! 君をまた生き返らせてあげようと! そういう訳なのだよ」


「は、はぁ……」


「異世界転生? 何それ美味しいの? というわけで、生まれ直すのはまたおんなじ世界ね。そうだな……隕石十個の直撃なんていう記録を出した君には特別に十個の願いを叶えてあげようではないか! 僕ってやっさしー!」


 何が何やらわからない間に、勝手に話がどんどん進んでいく。

 しかし、この目の前の存在の中ではもう話が終わっているらしく、問いただすように「何が良い? 何が欲しい?」と迫ってくるのだ。


「えっと……」


「そんなに悩まなくても、こんなのがあったらいいなぁ、みたいなのを望めばいいんだよ。君、平凡な日常がちょっと退屈だったんだろう? いいよいいよ! そういうの! 退屈はつまらないものね!」


 心の中を除かれているような感覚を覚えた。


「日常を彩るちょっとしたスパイス。僕から送るこれは、その程度に考えていいんだぜ? 普段こんなのがあればいいなぁって考えてるものが現実になる。深く考えずに言ってごらんよ」


「……じゃ、じゃあ――」


 そんな甘言に乗せられて、俺はつい自分の願いを口にした。

 今も尚、自分が死んだなんて思ってもいないが、口にするくらいならいいだろう。本当にそれくらいの気持ちで、こうなればいい、こんなことをやってみたかったという要望を計十個そいつに言った。


「うんうん、いいねいいね!  ()()の世界ならとても楽で楽しそうな生活を送れそうじゃないか。十個も埋まるかなと思っていたけど、存外無欲に見えて欲深いもんだねぇ!」


 「まぁ、そういう子は大好きさ!」とにこやかに言ったそいつは、先ほど見ていた紙に何か書き込んでいた。

 しかし、満足そうに頷いた次の瞬間にはそいつは手にしていた紙をビリビリと破いていく。


「はい、これでおしまいっと! それじゃあ、頑張って僕の期待に応えてね!」


 塵となった紙をあたりへとばら撒くと、そいつは徐に柏手を打った。


「さて、今度は……隕石二つか。普通は凄いんだけど、さっきの子よりもインパクトはないなぁ」


 すでにこちらを見ていない存在は、また別の紙を取り出して覗き込むと、酷くつまらなさそうにそう言った。


 俺の前世の記憶は、ちょうどそこまでで途切れているのだった。

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待ってますからね! 

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