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17話

 結局、土曜、日曜と近場にあったゼロ磁場を当たってみたが戦果はゼロだった。

 俺は先生の板書を写しながらゼロ磁場のマップを想起させていた。


 今日からは県をまたいで行くことになる。

 このところ家を出ることが頻繁になっている。さすがに毎日夜遅く帰ると家族に怪しまれるだろうから明日の遠出はできない。


 残るは今日と祝日である水曜日。

 この二つに賭けるしかない。でも一体どうすればいいんだ?


 マーグネースについての情報はさすがにネットには載っていなかったが、ゼロ磁場についての情報はいくらか載っていた。


 載っていた所で解呪につながるヒントたるものは見つからなかったのだが。

 はあ。

 授業中であるにもにもかかわらず、俺は小さくため息を漏らした。


 どんよりとした気持ちで今日一日学校を過ごしていた。

 放課後、帰りの用意をしながら今日辿るルートを模索していく。


「綾辻くん」


 すると梶川から声をかけられた。自分の中に閉じこもっていたため突然声をかけられたことに思わず動揺してしまう。


「ああ、梶川か。どうした?」


 梶川は何かを見定めるようにして、俺の表情を除く。でもすぐにいつもの梶川へと戻っていった。


「今日少し一緒に帰らない?」


 急な誘い。今日行こうと思っていた方面が梶川の家と同じなことから断る理由もなかった。


「わかった。途中までなら大丈夫だ」

「決まりね」


 そっと笑顔を見せる梶川。俺たち二人は一緒に帰ることとなった。


 ****


「調子はどう?」


 学校から離れると開口一番にそう言った。それまでの会話はほぼ皆無だった。

 梶川にしては珍しいなとは思ったけど、この件についての彼女はいつもとは全く違う雰囲気になる。だからこういうのもありなのだと感じた。


「良好……とは程遠いな」

「そう。頑張ってよね」

「言われなくてもな」


 しばし、沈黙が続く。頑張るのは当たり前だ。なんせ結衣との約束があるのだから。

 でも頑張った所で解呪できるのかと言われたら無理難題だ。


 なんせ後二日しか動くことができないのだ。休日二日使って県にあるゼロ磁場を全て回りきることができた。これはかなりのものだと思う。結衣と同じく一、二年あればもしかすると解呪できるかもしれない。


 俺たち二人は無言の空間の中を歩き続ける。

 ふと、普段の梶川が恋しくなってきた。いつもみたいに笑いながら声をかけて欲しくなってきた。そうすれば、自分の心も少しは晴れるかもしれない。


 梶川は俺の心情なんて全く汲まず、淡々と道を歩いていく。


「梶川、マーグネースの解呪に成功した人ってどれくらいなんだ?」


 だから俺は自分で声をかけてみた。それはとても儚い言葉だった。


「マーグネースの解呪に成功した人は結構いるわ。とは言ってもかかった人を見つけること自体が困難だから正直マーグネースの被害がどれくらいのものかはわからないけど」

「そうか」

「方法はいたってシンプルだからね。自分がかかっていると分かれば、あとはゼロ磁場巡りをするだけ。でも、そう言ったとき人はみんな重い表情をしている」

「その間、恋人と別れなければいけないもんな」

「そうね。だから破局する」

「え!」

「誰もが、綾辻くんみたいに思いの強い子じゃないってこと。普通、何も理由を聞かされず、突然無視されることになったら嫌でしょ。別れる理由はそれで十分よ」

「なんでマーグネースについて言わないんだ」

「理由は簡単、呪いなんて今時嘘っぽいから。それにもしそう言った呪いがあったとしても世間では全く公表されてないのだからさらに嘘くさいはずよ。それが現実的に起こったら普通はメディアやなんやで大きく報道されるはずだから」


 確かに。こんな呪い信じるなんて今時珍しいのかもな。

 俺の場合、観覧車が止まったり、結衣が鉄パイプに巻き込まれて大怪我するなんてこれまた偶然に偶然が重なっている出来事が起こってるわけだから信じる根拠としては十分だった。


 でも結衣みたいに何が起こったわけでもなく、マーグネースっていう呪いにかかっていますなんて信じるのは本当に純粋な人くらいだろう。嘘にもほどがあると思う。


「なんでそう言った報道をしないんだ? ってそれこそ嘘くさく見えるからか」

「そうね。でも、他にも理由はある。綾辻くんはわかると思うけれど、ゼロ磁場って神社とかに多いのよ」


 それはなんとなくわかる。昨日行った所でもほとんど神社や寺みたいな所だった。


「もしマーグネースっていう呪いが本当にあるとわかったらみんな神社には行かないと思うのよ。もし、行って呪いにでもかかったりしたらそれこそ最悪じゃない?」

「それは確かに最悪だな」

「でしょ。で、そうなると神社に誰も来なくなる。それは古来より伝統を大切にするこの国にとっては都合が悪いのよ」

「なんとなくわかったよなわからなかったような理由だな」


 気づけば改札口についており、俺は持っていたICカードを通す。


「ふふっ。私もそう思うわ。一つ言えることはこのマーグネースという呪いについて解明できれば全ては綺麗さっぱり解決ってことだけ。だから私たちはマーグネースの呪いにかかっている人をより多くみつけなければならないってわけ」

「それもかなり大変そうな仕事だよな。梶川も『マーグネース』についての研究しているのか。なんかすごく頭脳明晰じゃないとできなさそうなことだけど」


 呪いを科学的に証明するってそれこそ無理難題そうな気がするが。


「それって遠回しにバカって言ってる?」

「いや、バカとまでは言ってない。優みたいにガリ勉オタクならまだしも普段の梶川がそんなことやってるのは想像できないからな」

「ああ、なるほど。そうね、私にはそういうの向いてないと思う。私が担当しているのは『情報チーム』の方だから」

「情報チーム?」

「ソルって言う機関にはね、大きく分けて二つの分類がされているの。一つはマーグネースという呪いを解明する『研究チーム』とマーグネースの呪いにかかった人をサポートおよび、そこから情報を得ていく『情報チーム』に分かれているのよ」

「なるほど、そういうことか」

「そう。ちなみに優は、今は『情報チーム』だけど、将来は『研究チーム』って感じよ」

「あいつまだ『研究チーム』じゃないのか」

「まあね。研究チームは大学を出てから。それまでは情報チームとして働くのよ。理由は二つ。一つは私たちが勉学的に未発達ってこと。もう一つは、私たち中高大学生は人と接しやすいってことよ」


 確かに中高時代っていうのは恋愛沙汰がその学校内で起こるからわかりやすいのかもしれないな。社会に出ると色々な過程を踏まえているから社内恋愛っていうのは珍しい部類に入るだろうな。


「研究チームもそうだけど、情報チームも大変そうだよな。つまるところ自分のクラス以外にも範囲を伸ばしたりしなければいけないんだろ」

「うん。マーグネースを知るには全校生徒の情報をできるだけ集めなければいけないから

ね。でも、やるしかないんだよ」


 梶川の言葉には確かな意志を感じることができた。この前の胸ぐらを掴んだときと言い、やっぱり梶川はこの呪いについて特別な思いがあるように感じ取れる。


「梶川さ……」


 電車を待つ間際俺はふと思ったことを梶川に告げようとした。


「ねえ、綾辻くん」


 だが、俺の言葉は彼女の言葉にかき消されてしまった。


「私も頑張るからさ。あなたも頑張りなさいよ。どんなことがあっても」


 向こうから電車の来る音が聞こえる。人ゴミとなった場所ではこの話はできない。だから俺は何をいうことなく梶川の言葉を飲み込むしかなかった。

 結局、その日の戦果もゼロで終わった。


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