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15話

「はあーーーーーーーー、やっぱりこれは精神的にくるものがあるね」


 智風との対談後、理子は机に突っ伏し力一杯息を吐いた。


「俺は本当に何もしていなかったが良かったのか?」


 その横で優は科学関連の本を読んでいた。


「あんたは隣にいてくれればいいのよ。もし何かあった時のためにね。それに口下手なあんたが喋ったらそれこそ取り返しのつかないことになるかもしれないからね」


 マーグネースの呪いというのは言ってしまえば、『理不尽な呪い』だ。何も知らず、相性最悪のゼロ磁場に赴いてしまったら、もう二度と人を好きになれない可能性があるのだから。


 かれこれ何人もの人がこの呪いの犠牲になってきている。それは理子も例外ではなかった。彼女の親もこの呪いにかかってしまい、不幸な人生を辿ってしまったのだ。

 だから彼女は幼いながらもマーグネースについての研究に励んでいた。少しでも、不幸な者たちが増えないようにと。


「智風はそんなようなことするようなやつではないと思うぞ」


 マーグネースの呪いについて話される時、大体のものはあまりの理不尽さに自暴自棄になってしまうことがある。その腹いせに目の前にいる人に八つ当たりしてしまうこともあるのだとか。


「私もそんなことないと信じていたけどね。でも胸ぐら掴まれたしー」

「それはマーグネース関係ないだろう。お前のやったことに無理があったんだ」

「十分承知してるわよ。でもね、結衣にはまたあんな表情をして欲しくなかったから」


 父親が亡くなったその日から結衣の様子には違和感しかなかった。友達と一緒にいた時の空元気さは目に見て取れていた。


 教室で一人になっては涙を流し、誰かが来ればそれをすぐに隠した。誰にも悟られない

よう懸命に努力していたのだが、バレバレだった。


 同じ境遇を辿ったものとして、理子は彼女の気持ちを痛いほど理解することができた。

 だからこれ以上彼女に対する不幸は無くしていかなければとそう決意した。


 理子だって、あのレジュメを渡して終わりというわけではない。結衣のそばにいつもついてあげては「自分の前では泣いていいよ」と結衣の痛みを分かち合おうとした。

 結衣にとっての安らぎの場所を作ろうと懸命に努力した。


「随分と仲良くなっているな。最初会った時はあんまり友達いなさそうなタイプに見えたが」

「それをあんたが言うか。現に今も友達いないあんたが」

「ほおっておけ。俺にも一応……一人くらいはいるさ」

「へえ、あんたも私と同じく義務的な何かで友達になったわけではないのか」


 優は科学本に視線を集中させ、今の話はなかったことにさせる。


「ふっ。正解ってわけね」

「う、うるさい」

「確かに綾辻くんって接しやすいものね。それに愛情深いし。私結構好きよ」

「自分の親友の彼氏を取るなんて最悪なやつだな」

「いや、手なんて出さないから。それに私がいくら頑張っても結衣の足元にも及ばないわよ」

「でも、だからこそ智風にも辛い運命がこの先待ち構えているのだろうな」

「その辺は大丈夫だと信じているわ。彼ならきっと結衣を幸せな道へと導いてくれるはずよ。そうでなきゃ今まで私がやってきたことがパーになってしまうじゃない?」

「勝算はあるのか?」

「全くないわよ。でも、これ限りは信じるしかないでしょ」

「確率は一パーセント未満。それが成せるのは『奇跡』以外の何物でもないな。科学的には証明不可能だ」

「そうね。でも、私思うんだ。マーグネースっていう運命すらも変えてしまうような呪いがあるのならば、奇跡を起こすような力もあるんじゃないかなって」

「科学ではとても証明できないようなことかもしれないな」

「結構ロマンあるわよね。私そういうの好きだから。固定概念すらもひっくり返す力みたいなの」

「俺はあんまり信用ならんがな。あんなこと言っていて正直なんだが、一パーセント未満の可能性を引き当てるなんて到底不可能だろう。ましてや、あいつの手の届かない範囲に良用のマーグネースがあれば確率はゼロになるのだからな」

「優はせっかちだな。確率がゼロになるような想像はしちゃいけないよ。人間はロマンを求めないとね」

「全ては智風次第ってところだな。あいつは諦め悪いところあるから最後の最後までしっかりやってくれるとは思うが、もしもの時のためにちゃんと予防は貼っておけよ」

「わかっているわよ。最悪の不幸だけは絶対取り除かなければいけないものね」


 梶川は携帯を取り出し、文字を打っていく。


「それとレジュメに書いていること以外の情報で一つ言っておいたほうがよかったやつがあったと思うが、それはよかったのか?」

「うん、あれは言ってしまったら逆効果が起こる可能性があるからね。下手に意識するよりは感覚に任せたほうがいいってことよ。それに結衣が無事だったもの。きっと綾辻くんも大丈夫なはず」

「だといいんだがな」


「私たちには信じることと励ますことくらいしかできないんだからそこでがんばろ」


 梶川は打ち終えると携帯をしまい、窓の方を覗いた。

 冷房の効いているこの空間はひんやりとしているが、外は曇っていて、どんよりとしている。

 もうすぐ梅雨の時期に入っていく。湿気が多く、あんまり気持ちのいい世界ではなくあってしまうだろう。それでも、心だけは流されてはならない。


 マーグネース解呪の先にあるものは想いの強さが薙ぎ払うものであるから。


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