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休息

 大烏との戦いから一夜が明け、迎えた翌朝。

 洞窟内で休息していたアニミスは目を覚ましてすぐに、ゆっくりとその身を起こす。極めて慎重な動きだったが……時々刺さるような傷みが走り、その動きが鈍った。痛覚があまりないアニミスでも、その顔が顰め面になるほどである。

 大烏との戦いで受けた怪我は、一晩ぐっすり寝た程度ではまだまだ治りきっていないようだ。皮と筋肉の『ズレ』は多少再生したのか全身を蝕むじわじわとした傷みは消えたものの、筋肉そのものはまだまだ痛む。未だ傷は癒えていないらしい。

 傷付いた筋肉では、大きな力を出す事が難しい。しばらく強大な敵との戦いは避けるべきだと、アニミスは自分の体調について理解する……理解したところで、ムカつく奴が現れれば今この瞬間でもケンカを買うだろうが。

 ともあれ怪我が酷いのでアニミスとしても今日は安静にしていたいのだが、腹からはきゅるきゅると元気な音も鳴った。

 怪我をしようが腹は減る。むしろ傷付いた身体を治すべく、たくさんの栄養を消費しているだろう。加えて苛烈な戦いを経たアニミスの身体は、また一段強くなろうとしていた。身体の再構成には、やはりたくさんの栄養が必要である。補給をせねばやがて身体に蓄えていた栄養が底を付き、生命を維持出来ない。

 以上の理由により、食べ物の摂取を行うべきである。痛むだろうがなんだろうが、その身体を引きずってでも食事に行け――――アニミスの本能は、アニミスの身体にそのような命令を出していた。本能のまま生きるアニミスも、今回の命令は流石に顔を顰める。

 しかしアニミスは、安静よりも食事を選んだ。

 幸いにして果実の生る木を見付けたので、今なら食事には困らない。味も良いので食べたいという意欲は湧く。さっと降りて、甘くて美味しい木の実をぱくぱく食べれば、後は洞窟に戻って幸せな気持ちのまま眠ってしまえば良い。これを何日か繰り返せばすぐに本調子、いや、大烏との戦いよりも更に磨き上げられた肉体となるだろう。

 アニミスは痛む身体を起こし、洞窟の外へと向かう。ユキネズミ達がアニミスの動きに従い、ぞろぞろと付いてきた。アニミスはネズミ達など気にも留めず、のしのしと外へと出る。

 今日の天気は、曇り。痛みすら感じる光を太陽がギラギラと放つ今の時期としては、あまり気温が暑くならずに済むので心地良い気候と言えるだろう。元気な時ならなんでも良いが、体調不良である今のアニミスにとっては有り難い。

 されどすぐには動かない。まずは周りの情報収集が大切だ。

 ネジレオオツノジカの情報収集は臭いが基本。そして麓の方から頂上へと登ってくる風は、色々な臭いをアニミスの下に運んできてくれた。アニミスは風の臭いを嗅ぎ、自分がこれから向かう場所の情報を得ようとする。

 そうした本能の行いにより、一つの『未知』を知る事が出来た。

 嗅ぎ慣れない臭いがあるのだ。ただし全く知らない臭いではない。昨日、大烏との戦いが決着した後……大岩の後ろに残っていた正体不明の臭いと似ている。微妙に違いのある臭いが複数混ざっているので、今回はあの時よりも数が増えているようだ。

 加えて以前、何処かで嗅いだ気がする臭いである。気はするのだが、全く思い出せない。余程昔の弧とのようだ。

 思い出せないので、アニミスはあまり気にしない事とした。難しい事を長時間考えられるほど、アニミスの脳は発達していないのである。

 抱いた疑問を頭の隅へと寄せてしまえば、もう足を止める理由はない。アニミスは普段よりも鈍い足取りで、慎重に険しい山道を下りていく。それでも大凡の動物よりも速い足は、山道を難なく下っていった。

 目指すは昨日勝ち取った、甘い果実の実る木がある山の中腹付近。

 勝利の報酬を今日も存分に堪能しようと、アニミスは頂きから降りていくのであった。













 自分の行く先に、母を殺した仇が居るとは微塵も思わぬまま――――




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