b1.姉と私
bパートの話・前話の世界です。
①「…お姉ちゃん。重いんだけど。」
「うん…。ちょっとゆめちゃんを補充中…」
「何の補充なの、それ…」
冷蔵庫を開けていた私の背後に姉はべったりくっついて、腕を回してくる。
勉強にひと段落着き、喉が渇いた私は水を飲もうとしていた。時計は確認してないがもう3時ぐらいだろう。
私は姉が何故こんな疲れて帰ってくるのか知らない…社会人になった姉は仕事の話はしないし、第一一緒に住んでるといえど生活時間が違う。
私は高校生だから割と比較的規則正しい生活をしてる。
「ゆめちゃんそれ、深夜3時に起きてる子を規則正しい生活してるって言わないよ〜〜。」
「…それは、テスト週間中だからいいの。」
少なくとも、姉よりましだ。
夜中突然帰って来たと思ったら朝にはもう出てっていってしまっていたり。
日中に家にいると思ったら夕方出ていって三日間程戻らなかったり、と言った具合なのだ。
「…ここで一緒に住む事にした時決めた約束事、忘れてなぁ〜い?…私の仕事に関して詮索しない事。」
疲れた頭は回ってないと思ったけどまわってたんだ。…もちろん覚えてる。
「ならいいよ。…おやすみ、私の妹。」
ふらぁ〜と私室に入って行ってしまった姉の背を見送る。
…姉の私室に勝手に入らない事も約束事の一つだった。
*〜〜〜*〜〜〜*〜〜〜*〜〜〜*
姉と住む事になったのは母が再婚したからであった。
新婚さんの生活を邪魔するのは嫌だったし、居心地が悪かった。
受験した高校は都内中央部にあって実家から通うとだいぶ遠いことから下宿でもしようかという案だった。
姉とは年もだいぶ離れていて仲が悪いわけでもなかったが、社会人になって何をやってるかも知らない姉から連絡があった時には驚いた。
…どうやら母とは連絡を取っていたみたいで、一緒に住まない?という話だった。
「都会はゆめちゃんが思ってる以上に怖い所だからさ、妹がそんなトコで一人で暮らすなぁ〜んて不安じゃない?
…おいで、ゆめちゃん。」
「うん。」
あぁ、この姉は。
…殆ど顔を合わせて姉妹として一緒にいる事の少なかったこの人は、とても鋭い人なのだ。心細さというものを私自身気づいてなかったのに。
目を閉じてはっ、と息を吐く。
見開いた目から見えるのは部屋の鏡に映ったあの子供の頃の姉の顔で。
特に母から二人とも瓜二つよね。と言われた目尻を指の腹で軽くなぞった。
「ゆめちゃん」
姉の優しい声が聞こえた気がした。
「お姉ちゃん…。」
姉の事など知らない事の方が多い。
それでもってやはり私達は姉妹なのだ…関わりが少なくとも。






