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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

月兎

作者: yasumaya

『幽霊や妖怪、魔法に超能力、呪い等は自身の自己暗示から生じる幻覚に近いものだと私は思っています。どれも科学的に証明しようして出来ていないのだから、それをあると考えるのは荒唐無稽なことだとーー』


プツンッと、どこかのお偉い人の語ることが遮られる。

まるで私は全て知っています。ですから私の語ることに間違えがないとでも言うかのような顔と語り口調に、少しばかり腹が立ってしまった。

全てを知っているのなら、その真実をこの世の真実を常識として広めればいい。そうすれば、不思議なことなんてなくなるんだ。みんな幸せになる。

もしかしたら、空気を食べてエネルギーにする方法があるかもしれないじゃないか。私はそう思った。

そんな彼らが語ることは、私の手に持っているボタン一つで遮られてしまう。

例え、政治家でも、芸能人でも、普通の人でも。彼らがどれだけ雄弁に語っても、どれだけ正しい事を語っても、どれだけ耳障りのいい事を語っても……語ることを許さない。

それは誰にだって出来ること……。


こういうふうに言えば、まるで私には人をボタン一つで操れる力があるように聞こえるかもしれない。

正直に言えばテレビの電源を切っただけだ。


私にはそんな便利な力はない。

欲しいと思ったことはある。

おそらくだが思うこと自体は誰にだってあることだと思う。

だが、さっきのテレビの人が言っていたようにそんな力なんて存在しないという。

そうだ。そんな力はない方がいい。ないに越したことはない。

欲しいなという欲求だけでいい。

現実になってみるとそうも簡単にはいかない。

私には不便で使えなくて、捨てたいけど捨てれない力ならある。

あいつは自己暗示と濁していたが、こう言いたいのだろう。


『いつまで厨二病を引きずってるんだよ。いい加減目を覚ませよ。そんなものは存在しない。ただの妄想にすぎないんだよ』


バカ言うな。

なら、私の……。

月宮 紗夜の眼帯に覆われた左目はなんだというのだ。


あのお偉いさんに思ったことを一言でと言われると、

「お前に何がわかる」

ただ、それだけだった。



超能力、魔法などというのは常識的には存在しないことになっている。

よって、それをどうこうすることの出来る人なんていない。

医者が治してくれるなら是非この目を治して欲しいものだ。


私、月宮 紗夜の右目には特殊な能力が備わっている。


幻覚を見せる能力。

見えないものを見る能力。

私はこう呼んでいる。


一つ目はその目を見せることで幻覚を見せてしまう。

基本的には人と目を合わせるで見せることが出来るのだが、目を合わせなくても勝手に見せてしまうことがある。

小学生の頃には物珍しさから眼帯を取ろうとする人達がいて、何度か取られたことがあった。

その時に取り返そうとして、無意識に左目を開けていたらしくそれを見た数人が幻覚を見た。

相手は子供だ。泣くは喚くはとその時はひどい目にあった。


二つ目は左目だけ見えないものを見ることができる。

私が見せた幻覚や霊的なものまで、誰かに見えているものはたぶんすべて見える。


見せる幻覚というのは恐怖が見え、襲われるというもの。

人が感じる恐怖が闇のように黒く、煙のような決まった形の持たないものとして現れ、襲いかかる。

一度見ると一定時間は見続ける。だが、大抵は襲われ幻覚に殺されると現実では気を失ってしまう。

そんなものを見ていた子供の私がどう思っていたかはわかるだろ?



こんな目は取るにも取れない。

目に危害を加えようとすると、目を合わせる合わせないに関係なく幻覚を見せてしまうらしい。

既に一度、手術をしようとした医者が餌食になってしまった。

聞いた話では、私の目に手を付けようとした時に様子がおかしくなり、何かに取り憑かれたようにメスを自分の腹に何度も突き刺したという。その医者はもちろん死んだらしい。

そんな不便で使えなくて、捨てたいけど捨てれない力というのはこう言うことだ。




とはいえ、本当にこの目で悩んでいたのは私が中学1年までのことだ。

高校生2年にもなれば慣れてしまった。

あって無いようなものになりつつある。

眼帯にも慣れた。

無くなる方法があるのなら全力で試すのだが、見当たらない、見当もつかないのだから仕方ないといったところだ。


─────────────────────────────


そんなことを考えていると4回と私の部屋をノックする音がする。

ノックする作法としては合っているのかもしれないが、2回でいいと思うのは私だけだろうか?

そう思いながら部屋の扉を開くと、私の専属の使用人である九条 由希が立っていた。


「お嬢様、夕食の時間です」


私は特に返事はせずに廊下に出て、由希姉さんの横につき、歩き出す。


「由希姉さん、ノックは2回でいいと思うんだけど」

「お嬢様、それではトイレのノックになってしまいます」

「だから、その誰が決めたのかわからない作法がいらないって話」

「おそらく、誰というよりは社会が決めた、というものだと思います。それに文句をつけても意味はありませんよ」

「そういう答えは求めてないんだけどな……」


彼女には何度も使用人ではなく、姉のように普通に話してくれと言っているが一向に変わる気配がない。

家ではお嬢様、外では紗夜様と使い分けてるが対して変わらないと思う。



食堂の大きな扉を由希姉さんが開き、中に入ると既に父と父の使用人が待っていた。


「遅れてごめんなさい。お父さん」

「いいよ。それより私はお腹が空いたんだ。董さんが作ってくれた料理なんだから温かいうちに食べよう」


食事の時は楽しくとはよく言うものの、私は食事の時は静かに食べたいと思う。それは私だけではなく父も同じらしく会話なんてない。

それはそうと、使用人の2人も一緒に食べれば、食器を洗う手間が少なくなりそうな気がしてならないが、待っているという決まりが彼女達にはあるらしく、いつも私と父の隣で待っている。



私の父親、月宮淳二には妻がいない。

私が5歳の時に離婚したと由希姉さんに聞いたが、覚えていない。

この家で料理を作れるのは使用人の2人で、基本的には父の使用人である彩世董さんが作っている。

由希姉さんは無駄に広い家の掃除の方をやってもらっている。

とはいえ、由希姉さんから聞くには母親はどちらもやらない……できない人だったという。

少なくとも私はそんな人にはなりたくない。

料理は出来ないが……。



─────────────────────────────



六月も半ば。雨の多いこの時期に珍しく晴れた日。由希姉さんは晴れたからといって掃除に精を出し、普段は行かない倉庫にまで掃除の手をまわしていた。

そこに私も暇なため、由希姉さんの手伝いとして倉庫の中に潜っていた。


「ここにあるものってどれだけの価値があるかわかる?」

「本物、偽物が存在するので、ここにあるもの全てに価値があるかはわかりませんが、偽物だとしてもそれなりに価値のあるものが多いかと思います」

「この訳のわからない模様の花瓶にも価値があるの……?わからないな……」

「そうですね。芸術家というのは感性が普通とはズレてるみたいですし。私にもその花瓶の美しさはわかりません」


何かわからない物が書かれている絵、文字の読めない掛け軸、一休さんあたりに出てきそうな虎の屏風と和の物ばかり。

家そのものが洋風の城みたいな家に建て替えられたため、ここだけは異様な雰囲気になっている。


物を出していくと、部屋の角の隅っこに小さな金庫があるのを見つけた。元々は黒いのだろうが、ホコリをかぶって灰色になっている。

何気なく扉を引くも、案の定鍵がかかっていた。


「由希姉さん、この金庫に何が入ってるか知ってる?」

「いいえ、金庫がここにあること自体知りませんでした。淳二様ならわかると思いますが、金庫に入れるようなものですのでそれなりに重要なものと思います」



ホコリにまみれてつつも倉庫の掃除が終わると、由希姉さんはトイレ掃除に向かった。

トイレ掃除を2人でやるのは流石に邪魔になるので、金庫のことをお父さんに聞きに行くことにした。


お父さんは普段書斎にいる。

そこでなんの仕事をして、こんなにお金を稼いでいるのかは何度聞いても教えてもらえないが、もう聞く気はない。

生活するお金があるならそれでいいということにしている。


「お父さん、入っていい?」


ノックをしてから聞くと、直ぐに返事が返ってきた。


「いいぞ」


書斎のなかは書斎というだけあって本だらけだ。

私もお父さんも本はほとんど読まないのに、なぜあるのか。

しかも置いてある本に統一性が感じられないところを見ると、見た目を重視したためかと思われる。


「なんだ、また由希さんの手伝いをしてたのか」


私はいま由希姉さんの服を借りている。

使用人の服を。


「その手伝いをしてて倉庫で金庫を見つけたんだけど、中に何が入ってるの?」

「倉庫に金庫?そんなものは私は倉庫に置いてないぞ。汚れるからな」

「黒い小さい金庫で、ダイヤル式の四つの数字のなんだけど本当に知らない?」

「四つの数字か」


そう言いつつお父さんは書斎の隣の部屋に入っていく。

すぐにクリアファイルを持って出てくると、中からボロボロで薄茶色になったメモを出した。


「この書斎の本棚のどこかに挟まってたんだが……。[月の兎、鍵]と書いてあるメモだ。なんの鍵なのかよく分からなくてな。もしかしたらこれがそうかもしれない。曖昧なことしか分からなくて悪いな」

「ううん、何もなかったからこれだけでも十分だよ。ありがとう」


お父さんに軽く手を振りつつ書斎を後にした。


─────────────────────────────


月の兎……。

月にはうさぎがいるという話がある。

日本では有名な話で、月のうさぎは餅をついてるとかなんとか。


「お嬢様!!」


声のした方を見ると、董さんが長く広い廊下をかけて来た。


「こんなにホコリだらけになって……また、由希さんのお手伝いをなさっていたんですね」


そう言いながら私の体に付いていたホコリを払ってくれる。


「お母様の様になられても困るのでやってはいけないとは言いませんが、身だしなみくらいは綺麗になさってください」

「私なりには払ったんだけど……」

「お嬢様、お風呂に入ってください。ホコリは払いましたがそれだけではダメです」


私は董さんに手を取られ、浴室まで連れていかれた。

私も後で入ろうとはしていたので、抵抗することはない。

抵抗せず、引っ張られながら浴室に向かった。


多分というか絶対に普通の家より大きい浴槽に入りながらヒントについて考えることにした。


月、うさぎ、餅つき……。

月はラテン語でルナという。それを語源とする英語では、ルナは狂気を意味するらしい。

狼男がわかりやすいもの。

私の眼の幻覚と恐怖、狂気の関連について調べた時の無駄な成果だ。

もしその方向で考えたとしても四つの数字は出てこない。

仮にあったとしても狼男の話が出てきた年とか?

それなら同じようなことはいくらでも探せばある。第一、兎が消えている。


月、兎、餅つきと言えば私には十五夜しか思いつかない。

十五夜なんて年によって日にちは違う。

特定の数なんて出るだろうか?



お風呂から上がり、髪を乾かしながら十五夜について調べてみると、「八月十五夜、中秋の名月」というものが出てきた。

これは旧暦で今では秋分の日前後の話らしい。

15日ではないのに十五夜という理由を初めて知った。



それと十五夜で調べると月見団子が出てきて団子が食べたくなった。

董さんに今度作ってもらおうかな……。

こし餡をのせたやつ。



倉庫にまた入るから同じ服でいいやと思い、服を入れた籠の中を見るが、使用人の服は洗濯されたのか無くなり、代わりに私服が入れられていた。


私服で倉庫に入るのはいささか気が引けたが、再び倉庫の中に入り、私が綺麗にした金庫のダイヤルを中秋の名月に合わせてみる。

0 8 1 5

小さいながらに重い扉がカチャと小さな音と共にひらく。


中にはずいぶんと古く色褪せた本が2冊置かれているだけだった。

もっと金目の物でも入っているのではないかと思ってたのだが……。


しかも、その2冊の本に書かれている文字が昔の巻き物ような字で日本語なのはわかるが、読めない。

だが、表紙には[呪]と書かれているような気がする。


まさか、昔の呪いの本だとでも言うのだろうか?

開いたら呪われるとか……。

呪いなんてないとは思いたいが、自分の眼のことがある。

流石にそんなことを考えた後では開くのを躊躇してしまう。



読める人に読んでもらってからにしようと、この本を由希姉さんのところへ持っていくことにした。


─────────────────────────────



由希姉さんはというと、掃除を終えて自分の部屋で着替えていた。

ノックをせずに彼女の部屋に入るのはいつものことで、着替えていた今も普通に入る。

もし、男と女であれば少しは面白い話なのかもしれないが、女と女で昔から姉妹のような感じの私達にはそんなに面白い話はない。


「お嬢様、どうしましたか?」


下着姿のままで聞いてくる。


「その前に服を着て」


見てて虚しくなる。

理由は……うん。



再び使用人の服を着た由希姉さんに古い本を渡すと、少しお待ちくださいと言って躊躇なく開き。

すぐに読み始めた。


由希姉さんの部屋には必要最低限の物しかない。

あるものと言えば、ベッドにクローゼット、机くらいだ。

由希姉さんが机で本を読んでいる間、私はベッドに腰掛けているだけで本当に暇だ。


ゴロゴロとベッドで猫のように転がると由希姉さんの匂いがしてとても安心する。

このまま寝てしまおうか……。



「お嬢様、お嬢様」


私の体を由希姉さんが揺らして私の意識が覚醒する。

時間を見ると30分ほどたっていた。


「ん……読めた?」

「はい、呪いの解き方についての本とその効果の大きさなどの考察が書かれたレポートのような物でした」

「なんでそんな物が金庫に入ってるんだろ?」


金庫に入れて保存するのならもっと実用性のある物や価値のある物でも入れておけばいいものを。


「金庫になぜ入っていたのかはわかりません。ですが、表紙に7と8と書かれてるところを見るとこの前の本があったと思われます」

「続き物ってこと?金庫には2冊しかなかったけど……」

「そして書いた人が月宮の4代目のお付きの人のようです」


父が月宮の直結らしいのだが、何代目なのかは知らないという。

途中から数えなくなったらしい。

本来はこの眼を持つ者が月宮の当主となってきたらしいのだが一時期、血をひくものが多くなり、この眼を持つ者も増えてきたため、直結がどこなのか曖昧になった。

そのため、指輪だったかを直結の印としているという話を聞いた。



一体その4代目のお付きの人は何のために呪いについて書いたのだというのだろうか……。

眼の力は私がいえば呪いと対して変わらないが昔は真実を見せる神の眼と崇められていたとか。

そう考えると呪いとは違っている。


「他になにか書いてた?」

「この本は金庫に入っていただけあってずいぶんと大切な物のようです。門外不出と書かれていますし」

「なら、残りの本も一緒にしまっていてもいいと思うけどな……」


考えられるとしたら他のところにも同じような金庫にしまわれてがあるのか、それともどこかに持っていかれたか。


「後は呪いの名前なのかところどころに[月兎]と出てきます」

「また、月の兎?」

「またとは?」

「金庫の番号のヒントが月の兎だったんだよね」


私と由希姉さんは2人でベッドに並んで座り、同じ格好で悩む。



うさぎ、うさぎ……。

月のうさぎ……。

なんだろ?


最初に口を開いたのは由希姉さんだった。


「お嬢様、私の考えが間違っていないかの確認の為に少し質問させていただきます。うさぎの目の色はご存知ですか?」

「うさぎの目の色なんて色々あるはずだけど?」

「では、月の兎の目の色は何色だと思いますか?」


月の兎なんて見たことが無い。

しかもそんな動物は存在しないと思う。


「少し質問を変えます。月の兎は何色の兎ですか?」

「白」

「では、白兎の目の色は?」

「……赤」


兎の目だけでは色々あるが、月の兎に黒や灰色の兎は出てこない。

白兎となれば赤い目。


では、私の右の眼の色は何色か。

それは1度だけ幼い頃に怯えながらも興味本位で見た記憶では赤。

そこまで真っ赤だったという訳ではないが、赤に黒を足したような色だった。


「この眼についての資料ってことかな」

「私の考えはそうです」


その可能があるなら探さなければならない。

残りの本を。


そしてついでに学校を休むこととかできないか……。


「由希姉さん、いつものように手伝ってくれない?この残りの本を探したい」

「もちろんです。ですが探す為に学校を休むのはダメですよ。言わなくてもわかっていることだとは思いますが」



やはり、それは無理そうだった。



─────────────────────────────

─────────────────────────────


これは学校での私の話

高校生になったからといって私の立場は変わることなく中学生の時からあまり変わり映えはしてはいない。

私の立場は少し頭がおかしい厨二病お嬢様というものだ。


最初の印象というのはずいぶんと根強く残り、今後の周りの評判に影響する。

私を初めて見た者で最初に目を惹かれる物は決まっている。眼帯だ。


眼帯をしている人というのは珍しくとても目を惹いてしまう。

そして眼帯をしている人にどのような人がいるか

病気だろうか?

と考える人は多い。

一方で厨二病か?

と思う人は少なからずいる。


そして噂として広がるのは厨二病の方だ。

話題として「あのクラスには眼の病気の人がいる」と言うより「あのクラスには厨二病の面白いやつがいる」と言う方が盛り上がってしまう。


だが、それだけなら興味本位で話しかけてくる人がいてその人が「あれ?こいつ厨二病じゃない?」と思ってくれるならそこで終わる話


私にはさらに使用人の存在がある。

別に由希姉さんが悪いとは少しも思っていないが学校の送り迎えを由希姉さんに頼んだのが間違えだった。

お金持ちの厨二病のお嬢様となると話しかけて来る人はほとんどいなくなった。

学校で話しかけてくれる人なんていない。

私の噂だけが一人歩きしてしまっている。

自分から話かけても面倒くさそうな顔をされてしまって躊躇してしまう。


それが学校での私の話。

嫌われてるとかいじめとかでは無くても私が学校に行きたくない理由だ。


クラスという集まりの中に1人でいる私は授業以外にやることなんてない。

部活だってやっていない。


朝に学校へ行って夕方にそそくさと帰える。


そんな環境に今は逆に感謝する。

帰ってすぐにあの本について調べることができる。

仮定でしかないが私の眼に関わる本の搜索ができるというのは実に嬉しい話だ。

もしかしたらこの眼が無くなる日も近いうちにくるかもしれない。


─────────────────────────────


学校が終わりすぐに由希姉さんに迎えに来てくれと連絡する。


校門で待つこと5分で由希姉さんがリムジンとか外車などの高級車ではなく普通の軽自動車で迎えに来てくれた。

前は高級車で来ていたがお嬢様だと思われないようにしたいからやめてくれと言ったからだ。


由希姉さんもいつもの使用人の服ではなく私服だ。それも同じ理由だ。



「いつもありがとう。由希姉さん」

「いいえ。使用人としての務めなので。紗夜様が学校に行っている間にも色々と調べてみたのですがあのような金庫は他にはありませんでした」


元々、あそこにすべての本が仕舞われていたとしたら今ない理由がわからない。

門外不出なのだから持ち出すことはないだろう。盗まれでもしない限り。


少し違うところから考えてみよう。

なぜ、倉庫に金庫があったのか。

どうして倉庫にだけ金庫があったのか。

他のところに金庫があった可能性はある。

由希姉さんもそう思って調べてくれたのだ。

もし、他のところにもあったとしたら

倉庫の金庫だけが残されていたのか……


家を改装した時に他の所がなくなってしまったのではないか?


「由希姉さん、家を改装してあの城みたいにしたのはいつ?」

「えーと、私が紗夜様と初めてお会いした時には既にあの家でした。母が働いていた時だとは思いますが。何でしたら、連絡してみてください」


カバンからスマホを取り、由希姉さんの母親の九条 早苗さんに電話する。

数コールの後に早苗さんが出てくれた。


「もしもし」

「もしもし、お久しぶりです。お嬢様」

「はい、お久しぶりです」


早苗さんは私が12歳になるまで使用人として働いていた。

じつに優しい方で美しい人だった。

時々、家に来てくれるがその優しさと美しさは歳をとっても衰えてはいなかった。

どうすればあんな人になれるのか知りたいところだ。


「どうしたんですか?」

「今の家になる前について教えて欲しくて」

「前とは改装する前のことですね。改装したのは紗夜様の曾祖父です。もともとは和一色でしが洋風の物にとても関心があった為、家もということで改装されたと聞いております」

「ならその前の家の時に置いていた物はどうしたんですか?流石に今の家には合わないだろうし」

「物は別の人に譲ったとか聞いています。譲れないようなものは今も倉庫に保管しているかと」


虎の屏風とかのことだろう。

ならば本も全て倉庫の金庫にあってもいいと思うのだが


「何かお探しなんですか?」


早苗さんは私の考えていることをよく読んだ行動をしてくれる。

昔から何かを頼もうとすると既に終わっていたり準備が出来ていたりする。


「えぇ、本を探していて。その本があると私の眼を治すことができるかもしれないんです」


早苗さんは少し黙る。

考えているのだろう。考えている時は電池が切れたロボットのように動きが止まる人だ。


「紗夜様の曾祖父の奥様が愛読家で様々な本を持っていたと思われます。改装した時に全ての本をしまうことが出来ず、一部の大切な本を図書館に保管していただくことになったはずです。他は譲り、余っているのが書斎に置かれている物です」

「ありがとうございます。もしまた何かありましたら電話しますね」

「えぇ、こんなわたくしに出来ることでしたら何でもいたします」


通話を切り、スマホを元の場所に戻す。


「由希姉さん、図書館に行って。そこにあるかもしれない」

「はい、わかりました」


と車の進行方向を変え、図書館へ向かう。

書斎の本が曾祖母の持ち物だったとは知らなかった。しかし、あの統一性の無い本の中に私の眼についての本は無い。

私と父と由希姉さんで1度だけあそこの本を整理した時に一緒にその関連の物も探したがそんなものはなかった。

大切な本というなら門外不出の本もそうだろう。

外に出したくないほど大切な本ということだ。


図書館に着くまであればいいのにという期待となかったら他にどこにあるのかという不安でいっぱいだった。


─────────────────────────────


私は図書館という所には来た事がなかった。

本は読まないし、勉強をするために1人でここに来ることもない。

中に入ると書斎とは比べ物にならないほどの本の多さに圧倒される。


どこを見ても本、本、本ばかり

本好きの人ならこれほどうれしい所はないのではないかと思う。

私は読まないのでうれしくはないが。


「由希姉さん、保管してもらっている本はどこに行けば読めるの?」

「私もあまり利用する機会がありませんのでわかりませんがカウンターに行けば教えてもらえるかと思います」


と言われるがカウンターがどこにあるなんて私にはわからない為、由希姉さんの後に付いていく。

先を歩く由希姉さんを見てこんな所で使用人の服なんて着ていたら目立って仕方ないのだろうなと思った。


由希姉さんがカウンターにいる人と話をしている間、私はおすすめの本のコーナーに置かれている本を手に取っていた。

本を読まない私でも知っている有名な人の本、表紙を見ただけでは手に取りたいと思うこともない本、世の中のおかしいことついて色々書いてある本

そして私が何気なく手に取ったのは[親子の絆]という親子のお話が絵本のように書かれた物だった。

幸せそうな親と子の絵が暖かい色で書かれている。

どうしてこれを手に取ったのかはわからないが読んでみるとずいぶんと偏った考え方の本だった。

親子は幸せでなければいけないとか、親は子を愛さなければならないとか


「バカバカしい」


口に出すつもりはなかったが無意識に声が出てしまったようで周りの人が見てくる。

恥ずかしさというより周りの人の集中を切らせてしまったという申し訳なさですぐに本を戻して由希姉さんのところに向かった。



「由希姉さん、どうだった?」

「今、確認してもらっているところです」


待つこと30秒程でカウンターの人が戻ってきた。


「確かに月宮家の重要書類としていくつかの本を保管させてもらっています。ですがそれらをご覧になるには月宮家であることを確認してからということでしたので身分証明書などはございませんか?」

「学生証ならあります」


学生証は学校に行く時しか持ち歩かないため休みの日とかに着ていたら1度家に帰らなければならなかった。


「はい、大丈夫です。お借りします」


いったい学生証で何がわかるのかと思う

氏名、学校名、住所、生年月日が書かれているだけなのだが私がどこの娘でとかまでわかってしまうのだろうか?


「では、お返しいたします。今、館長をお呼びしましたので」



今度は体感では5分ほど待たされた気がしたが1分ほどで館長が来た。


「お待たせしました。月宮 紗夜様ですね?」

「はい」

「私は館長の老川 美恵子といいます。御案内いたしますのでついてきてください」


私の印象では館長となると髭の生やした丸いおじさん、ちょうど成金の百円札を燃やして明るくなっただろと言っている絵の人みたいなのが出てくるのかと思ったが年齢の読めない綺麗な女性だった。


その人について行くと本の倉庫の様なところにつれてこられた。

さっきよりも棚と棚の間が狭くより多くの本があるように感じる。


「狭いので気を付けて下さいね」


と注意されるが私はそんなに太くはない。

引っかかる物なんて持っていない。持ち合わせていない。

私の想像していた館長ならお腹が引っかかって通れなくなりそうだが。


館長が止まったのは結構奥の方まで来たところだった。


「こちらです」


と指した所には月宮家と書かれており、古い本がいくつか置いてある。

もちろん手に取って読むのは私ではなく由希姉さんだ。


本を手に取らない私を見かねてか館長が話かけてくる


「ここに何冊の本があると思いますか?」

「さぁ、10万冊とか?」

「約80万冊ほどです。その中で私がちゃんと読んだことのあるのは10冊ほどしかないんですよ」

「あまり読まないのに館長をしてるの?」

「元々は私の夫が館長なんです。今は別の仕事をしてますが」


本のことをあまり知らなくても館長になれるというのは面白い話だ。

政治を知らずに政治家をやるのと同じように感じる。今の一部の政治家はそんなものか。


「館長をほっぽり出して別の仕事って何をやってるの?」


館長はメモ帳を取り出して何かを書く。

その書いたメモをちぎり、私に渡さしてくる。

そこには電話番号と住所が書かれている


「私の夫はここにいます。もし時間があれば寄ってあげてください。月宮の人が来たら私を紹介してやってくれと言われてましたので」


その住所を調べると「老川相談所」なるものが出てきた。


「相談所?」

「そのようなんですが私もよくわからなくて。普通の人は受け付けてないらしくて、幽霊とか魔法とかそういう不可思議な類だったかな?」


確かに普通の人は受け付けていません。と書かれている。

どこかのラノベのようだ。

少なくとも私は普通ではない。私の眼のことを相談できるのだろうか?


─────────────────────────────


由希姉さんが一通り確認し終わったのは暗くなった頃だった。


それまでずっと館長と話をしていてずいぶんと仲が良くなったと思う。


「どうだった?なにかわかった?」

「これが紗夜様がずっと探していた物だったかと聞かれましたら、はいと答えますが流石に頭の回転が追いつきません」

「でしたら休憩室に行ってコーヒーでも飲んで落ち着いて整理してはいかがですか?」


と館長の提案に乗り休憩室へ向かった。

本当は本も持っていきたかったがそれは出来ないらしい。

私が読めるわけではないが。



コーヒーは館長が奢ってくれた。

私と仲良くなったしるしにと


休憩室には誰もいない。

そもそも図書館自体にほとんど人がほとんどいない。閉館時間も近い、ましてや夕食時だ。


由希姉さんはコーヒーを飲みながらメモ帳に色々と書いて頭のなかを整理している間、本を読んでいる時の様に話をすることはなく見守っていた。



「紗夜様、お話してもよろしいですか?」


由希姉さんが口を開いたのはコーヒーも飲み終わり、閉館時間手前だった。


では、と由希姉さんが話し始めた。



その話は月宮の初代が始まりだ。

その頃は月宮という名前ではなかったが初代が当主としていた家系が大きな権力を持っており、それを力で奪おうする者達がいた。

ある時、未来に月宮と名乗る家系とそれを反対する家系の二つの家系で大きな争いがあっていたという。


ただの争いであれば良かったのだが少し違う。

相手の家系には呪術師なる者が数名いたそうだ。

その呪術師のうちの一人が内部から崩壊させようと当主に呪いをかけた。


呪術というのはあまり成功率が高くないのだがその呪いが成功してしまった。

その呪いが「月兎」

月には狂気の力があるとされ、相手を狂気に陥らせる幻覚を見せる赤い眼を持たせるというものだった。

当主にその呪いをかければ当主の側近をはじめに内部から崩壊し始めるだろうというもくろみだったがうまくはいなかった。


逆に勢いに拍車をかけた。

月宮の初代とその側近の人たちは当主に呪いがかけられたとなれば士気が下がってしまうと考え、その呪いを神からの授かりものだということにすることで士気を上げることに成功した。

初代は常に目を瞑り、1人でやってくる敵を前に目を開きその呪いの効果を発揮した。


初代の子供、二代目にも同じ眼を持って生まれる。

呪いは血脈に関係し子供にも受け継がれてしまったのだ。しかし、それも呪いではなく神の眼だと言い隠し通した。

その頃から月宮と呼ばれ始めたという。

月は呪いの中にあるように狂気、幻覚を意味するとしてそう呼ばれたという。


そして争いは二代目が20歳になる前に終わりを迎えた。


だが、呪いは解けていなかった。

呪いの解き方については初代も探したがそれは見つからずにいた。本来は次の世代に受け継がれてしまう呪いのため、解き方の模索も引き継いでもらうべきだったが神の眼として隠していることもあり二代目には告げることなく、初代は死んでしまう。それではこの呪いは永遠だと思った初代の側近は書物として呪いについて残した。


その書物を見つけた四代目辺りから呪いに異変が出始めた。

元々は目を合わせなければ効果のなかった眼だったが合わせることなく幻覚を見せてしまい始めた。

そのため四代目は呪いについて徹底的に調べるが呪いを消すことなく死んでしまう。


その徹底的に調べた功績が家で見つけた本だという。



「ここまで調べたのにも関わらずになぜ、呪いが解けていないのかは書かれてはいませんでした」


解けない理由があったのか

時間がなかった?物がなかった?

なにが原因だろうか…


何はともあれ、今の私には揃えれない物はよっぽどでないと無いからどうにかしたいが。


「あの…私が聞いてもいい話だったのでしょう」


と館長が聞いてくる。


「大丈夫だよ。仲良くなってくれたしるしかな」


別に聞かれても何も無いし構わない。



「解く方法は書いてないの?」

「はい、昨日見つけた本の中にあったものを試したとはありますがどれが効果があったか、あると思われるというのは書かれていませんでした」


ならば私が試していくまでだ。

その効果などを書いた物を私が作ればいい。

と思った時に館長が入ってくる。


「でしたら。私の夫に相談してみてはいかがでしょうか?」


もらったメモを思い出す。

普通では相手がされないという相談所。

月宮の人が来たら紹介してくれというのだから何かはあるのだろう。

人を選んで相手をするような人だ。もしかしたら何か知っているかもしれない。



「そうですね。今日は遅いので明日行います」

「何かあるんですか?紗夜様」

「館長の旦那さんがちょっと変わった相談所をやってるみたいでそこに明日行ってみたいと思ってね」

「ですが、このことで関係ない人に知られるならまだしも、巻き込まない方がいいのでは…」

「それについてはお気になさらず、ここに置かれている本をほとんど読んでいるはずなので呪いについても知っているはずので何かできるかと」



行ってみないことには何があるかはわからない。

どんな人かもわからないのだ。

知らないことを知るのは楽しい。


私の目のことに関係なく、いつしかそう思っていた。


早く明日が来ないかと遠足の前の日のような気持ちでその日は寝つきも悪かった。


──────────────────────────────────────────────────────────


いつもと変わらず放課後をむかえる。

本当になにも変わらない。

違うとすれば私の感情くらいだろう。

いつもなら学校が終わったことに対する安堵とかだが今日は楽しみだという感情だ。



由希姉さんを呼び、昨日は学校帰りにそのまま図書館へ向かったが今日は老川相談所へ向かう。


その途中で昨日もらったメモに書かれた電話番号にかけてみると数コールで繋がる。


「もしもし、老川相談所です」


出てきたのは男の人ではなく女の人だった。

図書館の館長の旦那さんが出てくるとばかり思っていたのたが。

助手とかだろうか。


「月宮 紗夜と言います。老川 美恵子さんに紹介して頂いたのですが」

「美恵子さんですか?少し待ってて下さい。 雅也さん~ 月宮 紗夜さんという方が美恵子さんの紹介で」


電話の向こうで慌ただしい音が遠くで聞こえてくる。すぐに男の人に代わって出てくる。


「今代わりました。老川相談所、老川 雅也です」

「今からそちらに行ってもいいですか?」

「えぇ、こちらもずっと待っていたので例え用事があっても後にまわします。お待ちしています」



そこまでしなくてもとは思うが優先的に相手をしてくれると言うのなら甘えさせてもらおう。

くれるというのに遠慮する大人は多いがその方が失礼ではないかと思う。

私はまだ子どもなのだろうか?


─────────────────────────────


着いたところはそれはもう探偵事務所のような建物だった。

外見と中身の歳が違う探偵が出てくるアニメの事務所みたいな感じだ。

窓には名前は書いてないが。


階段を上がろうとすると中から人が出てくる。

赤っぽい目が印象的な男の人と可愛らしい女の子の2人。


「ありがとよ。雫也によろしく伝えといてくれよ」

「あぁ、わかった」


男が返事をし、女の子は小さく手を振るだけ。


狭い階段で途中ですれ違うのは難しそうなので下で待っていると彼らは急いで階段を降りて私達に悪いなと告げる。

傍に置いてあったバイクにかけていたヘルメットを女の子に被せている彼らを横目に階段を上がると彼らが出てきて開いていた扉を閉めようとして出てきた男の人と目が合う。


「お、眼帯のあんたが月宮 紗夜か?」


電話の時の丁寧で固そうな口調とは違って親しみやすそうな口調で聞いてくる。


「そうです。あなたが老川 雅也さんですか?」

「おう、そうだ。中に入りな」


と手招きする。


中の内装は外の見た目を裏切らずに探偵事務所みたいになっている。

奥には社長イスとデスクを置き、その上にはノートパソコンがある。その手前には向かい合わせのソファの間に背の低いテーブル。

ただ違うとすれば置物が独特のものばかりだ。

聖杯とかというトロフィーのような形の物や丸い大きな透明の水晶、Tの上に輪がついた十字架のような物。

一番目を引くのは頭蓋骨で頭のところには魔法陣が書かれている。


「なんですか、これ…」


たぶん誰もが思うことだろう。

私の場合は口に出して言ってしまったが。


「老川相談所は普通の相談所ではないんですよ。魔術、呪術、心霊に関係したことを専門とする相談所なんです」


と奥からお盆の上にマグカップを4つ置いて持ってきた女の人、多分私と同じか少し上くらいの人だ。


「こいつは俺の助手をやってる。目谷 紗々来だ」

「よろしくね」


と笑顔で言ってくる。

よくもまあ、笑顔を作れるもんだなと思ってしまう。

私にはできないことだ。作り笑いでも引きつってしまう。人前でやることは今のところないが。


私もさっきは電話越しだったので自己紹介を、と思ったが由希姉さんが先に口を出す。


「こちらは月宮家のお嬢様、月宮 紗夜様です。そして私は使用人の九条 由希です」


その自己紹介に彼らは全く別々の反応をした。


紗々来さんの方は至って普通に、


「使用人っているんですね。でしたら月宮さんって呼ぶより月宮様と呼んだ方がいいですか?」


と聞いてくる。

それに対しての答えは決まっている。


「いえ、普通に月宮とか紗夜と呼んでいいですよ。というかその方が嬉しいです」



一方で雅也さんはまったく違った。


「やっぱり月宮の使用人は九条家か、ならもう1人の使用人は操世家なんだろ?」


顎に手を当てて、微笑んでくる。

どうして菫さんのことを知っている。

やっぱりとはなんだ?


私達が雅也さんに対して警戒心を持ったところに紗々来さんが入ってくる。


「雅也さん、またそうやって相談者に警戒心を持たせるような感じで話さない。ごめんなさい。このおっさんはこうやって毎回、相談者に警戒されるような情報を自慢のように話すんです。その情報はおそらく図書館に保存されてる本に書かていたものだと思いますよ」


そういえば館長も図書館の本を旦那さんはほとんど読んだと言っていた。

最初の印象とはずいぶんと差のある人だ。

親しみやすいということはなさそう。


「まぁいいさ。座れよ。あそこで保存してる本を読みに来たってことはそのお嬢さんの眼の呪いを解こうとしてるんだろ?」



向かい合わせのソファの一番奥に座らされた。

その横に由希姉さん、向かいに雅也さんと紗々来さん。

確かここは上座というのだろうか?

上座って何かあったら逃げ遅れそうなところだなと思ってしまう。


「まず、あんた達が調べたことを教えてくれ。俺が知っていることを話すだけだと時間の無駄になってしまう」


私ではなく由希姉さんが私達が調べわかったところまで説明する。

家で見つけた本の話、図書館の本のから得た話、呪いの解き方についてはわかっていないこと


その説明を聞いた雅也さんは頷く。


「だろうな。あんた達の家をいくら調べても呪いの解き方なんざ出てくることはないだろうな。わかった時点で解かれてるだろうからな」


わからないことを必死に調べている子供を見るような大人の目で見てくる。

子供から見れば嘲笑うかのような、大人から見れば暖かく見守っているような


「雅也さんは知っているんですか?」

「あぁ、月宮の呪いの月兎については結構調べたからな。ここは相談所だ。俺らに相談して一緒に悩んで答えを見つけるのが正しい姿勢だが先に俺が調べたかぎりでの答えを教えよう」


息を呑む。

そんな息を呑むなんてことが今までなかった為、この表現がどんなものなのかと思っていたがまさにそのとおりだった。

そして感覚的に時間が遅く感じる。

雅也さんの口の動きが以上に遅く見えてしまう。

早く、早くと思ってしまうではないか。


「その呪いを解く方法はない」



え?

無いだと

私が聞き返そうとする前に由希姉さんが聞き返す。

身を乗り出して聞き返す。


「どういうことですか?紗夜様の眼の呪いは解けないと?」


雅也さんは手を前に出してまぁまぁとする。


「理由は簡単だ。解く方法がなくなってしまったんだ。紗々来、用意していた本を持ってきてくれ」

「わかりました」


紗々来さんが奥のノートパソコンの隣に置いてあった本を手に取る。


「汚っ、投げていいですか?」

「あほ、大切なもんなんだ。原本ではないとはいってもな」


どうして投げるなんて発想になったんだ。

確かに投げれば早いが…


紗々来さんが摘むように持ってきた本を渡された雅也さんはその色が一部が変色した本で紗々来さんの頭をたたく。

いや、大切な本なのでは?

その本をめくり、あるページを開いてテーブルに置くと指を指す。


「で、ここだ」


指を指したのは昔の日本語、私は読めないやつだ。

代わりに由希姉さんが読んでくれる。


「この呪いは術者が寿命で死ぬこと完全なものになる。解く方法は術者を殺すこと、またはその子孫を殺すこと。たが術者はこの呪いのために既に去勢し子孫はいない。と…」


確かにそれは解く方法がない。解けてないということは寿命で死んだということだ。

そもそもその人は何年前の人だ。

去勢して子孫もいないとなると本当に打つ手がない。

だが、これは信用できる物か?


「この本は一体どこの物ですか?」

「呪いをかけた張本人が書いたやつだ。他の所を読めば彼しか知らないようなことまで書かれている。呪いをかける瞬間の話とかな。仕事の報告書みたいなものだ」


本を手に取って見ている由希姉さんの方を見るとわかりやすい表情ではないが悔しそうな顔で頷いてくる。


「家で呪いの解き方の本を見つけたそうだな。だけど解けてない。その呪いは暴走したり、異常は起こしてないか?」

「はい、本来は目を合わせると幻覚を見せるものらしいですが今はときおり私がその人を見るだけで見せてしまうことがあります」

「それは呪いを合ってない解き方をした影響だ。呪いというのは解き方を間違えると悪影響を及ぼすことがあるんだ。だから色々と試すというのは危険なことで運が悪ければその眼帯も意味をなくすぞ」


尚更、解けないではないか

正しい方法が潰えた今、私に手を出すことはできない

今ままで色々と調べてきたがそれらは今回ほど奥深くまで眼のことを知ることが出来なかった。

だから何度も調べては方向を変えとやってきたのだ。

流石に今回は違う。

答えに行き着いて行き止まりだ。


抜け出す道があると信じていた目的地には何も無かった。


何も無いどころではない。

次の道も変えれる方向も見えない。



いつかは無くなると思っていたから…

今までこの眼を残してきたのに

残す方法は自分の潰すくらいか……


「絶望しているところ悪いんだが、一つ聞きたいことがある」


私は自分の思考の中に埋もれてしまっていたみたいだ。

雅也さんの声で現実に浮上してくる。


「なんで、その眼を捨てたいんだ?俺ならそんなもったいないことはできないぞ」



絶望しているところにこの仕打ち



「持っていないからそう言えるんです!!」


私自身が驚くほどに声を大きく出してしまう。


「この眼が無ければ私の生活はもっと明るかったのに… 友達だって出来て部活もやってて、もっとちゃんと出来たはずなのに!!」


「その眼を使った言い訳か?」


反論できない。

自分でもわかっていたんだと思う。

この眼を言い訳に使っていることを


「友達とかなんか作ろと思えば作れるだろ。向こうから接してくるのを待っていたんじゃないか?そんなんじゃだめだ。もっと自分で動きやがれ。お嬢様だからといって甘えるな」


雅也さんからの言葉は私の心を深くえぐっていったような気がした。

返しのついた言葉の槍で突き刺し引き抜いていった感じに


「こんなことを言う性分じゃないんだがたまにはいいだろう。相談所らしくてな」


紗々来さんは雅也さんの方を見ながらクスクスと笑う。


「珍しくいいこと言いますね」

「うるせぇ」


由希姉さんは私の隣で頭を下げる。


「ありがとうございます。私達ではあまりそのようなことは言えないので」


雅也さんが冷めたコーヒーを一口飲んでから私の方を見てくる


「で、大きな声を出してスッキリしたか?」

「はい」


たしかにスッキリした。

なんか絶望していたのが過去の出来事で今は少し前向きに生きていくことができてるみたいな感じだ。


「で、その眼を活用してみないか?」

「え?」

「その眼を使うんだよ。俺のところには魔術、呪術なんかの依頼がくる。今は俺と紗々来が解決してるんだがその眼を使って解決に協力してみないか?」


今までこの眼を使うなんて発想がなかった。

怖いのだ。

相手に恐怖を与える怪物を見せるこの目が

だから無くなって欲しかった。


だが、それは叶わない願いだった。

無くならないなら無くならないなりの対応をと言ったところか。

人を脅す狂気の眼を隠すのではなく使っていく。

それはそれでいいかもしれない。

面白いかもしれない。


「…今すぐには承諾出来ないけど前向きに考えてみる」

「おう、それでいい。ついでに九条のねぇさんもどうだ?」


ついでに、とはひどい言い方だ。


「私は紗夜様の使用人です。紗夜様の行くところならついていきます」

「ならいいさ」


というか雅也さんははじめから私に協力してくれと言うつもりだったのだろうか?

月宮の人が来たらここを紹介してくれと言うくらいなのだから。


─────────────────────────────


その日の夜、私は夕食後に書斎に向かった。

この前みたいに使用人の服ではなく普通の服で。


今回も3回ノックする

やはり、2回で十分ではないだろうか?


「入っていい?」

「いいぞ」


中でいつも通りの所にお父さんは座っていた。


「なんだ?」


私はここ最近のことをすべて話した。

特にどうと言って欲しかった訳ではない。ただ聞いて欲しかった。

学校であった楽しかったことを親に話す子供のように要領を得ない話し方だったとは思うが色々と


由希姉さんと一緒に掃除をしたこと、見つけた本について、学校での私の立場について、図書館の本の多さに驚いたこと、私の眼の呪いについて、図書館の館長と仲良くなったこと、老川相談所で雅也さんに言われたこと

そして、老川相談所で自分の眼を使って協力、手伝いをしたいことを


その全てを何言わずに聞いてくれた。

時に頷きながら、時に驚きながら。



元々、表情が豊かではない人なのだが全てを聞いた後に大きな声で笑った。


「ありがとう。よかったよ。私はあまり子育てのやり方がわからなくてね。子供とどう接してあげればいいのかわからなかったんだよ。でも十分に紗夜も成長してくれてるみたいでよかった。最後の相談所については好きにしなさい。自分でやりたいことがあるならそれに挑戦して行くとこが大切だからね」

「わかった。聞いてくれてありがとう」


──────────────────────


再び学校での話

今日は少し早く学校に来た。

いつもと変わらない校門を通り過ぎ、いつもと変わらない玄関で靴を変え、いつもと変わらない廊下を進み、いつもと変わらない教室に入り、いつもと変わらない席につく

何にも変わらず教室にただ一人。


それから5分もたたないうちに一人教室に入ってくる。

隣の席の女子だ。

いつも教室に最初に来ているようで私を見て「えっ?」といった顔をする。

すぐに何も無かったかのように席につくとカバンから本を取り出す。

彼女は活発な方の人間ではなくどちらかというと文学少女でおとなしい方だ。


まぁ、まずは彼女から話しかけてみようか。

どんな顔をされるかはわかっているがめげずに話しかけてみよう。


それが私なりのはじめの1歩目だ。


前に投稿したやつを少しいじったものです。

内容としては私の妄想を文書にしたようなものでしかないのであしからず。

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