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イスファンディヤール戦記  作者: 北の旅人
再興編
14/55

王都帰還

「パライタケネの戦い」でカユーマルス軍は壊滅的な被害を受けた。


エリマイス兵1万2000、オイラート兵5000。死傷者の数である。混成軍も大きな被害を出したが、生き残った者も四散し、実質的に全滅したと考えてよかった。9万5000の軍勢のうち、6万7000も失ったのである。通常、全軍の3割を失えばその軍は壊滅したとされる。3分の2以上の兵を失ったカユーマルス軍は軍隊としての機能もまた失ったといえた。


特に騎兵の損失は痛手だった。最も右に配置されオイラート人のドルジに率いられた5000の騎兵はカムラン隊を敗走させた後、それを追撃した。しかしそこに待ち受けていたのはカリア歩兵3000の隊列だった。カムラン隊は反転してドルジ隊に襲いかかり、予備隊として待機していたミラード隊が背後を突いた。3方向から攻撃されたドルジ隊は大混乱に陥った。指揮官のドルジが討たれた後はさらに混乱が広がり、オイラート兵は逃げ出し、踏みとどまろうとしたエリマイス兵は次々と討たれた。こうして、カユーマルスは騎兵のほぼ全てを失ったのである。


軍勢をまとめたカユーマルスはシーラーズ城に立て籠り、オイラートやヒュルカニア、アルカディアに救援を求めた。しかし、彼らはカユーマルスの思い通りには動かなかった。オイラートは相変わらずハカーマニシュ各地を暴れまわり、ヒュルカニアはパルティア支配に固執した。アルカディアは援軍の約束を反故にし、それどころかエリマイス本国を狙うかまえまで見せた。


ここに来て、カユーマルスは遂に撤退を決意した。だが、全てを捨てることはしなかった。アレイヴァにアーブティン率いる5000の兵を置き、属国として支配したのである。アレイヴァはほぼ全兵力をハマト遠征に徴収されており、なすすべもなくこれを受け入れるしかなかった。


エリマイス軍の撤退を受け、イスファーン軍は易々とスーサに入城した。スーサ市民は歓呼の声でイスファーン軍を迎えた。「ハカーマニシュ万歳!」、「イスファンディヤール王子万歳!」などの歓声の中に、「マウソロス王の再来」という言葉が混ざっていたことは特筆すべき点であった。


王都スーサを奪還したイスファーンは、休むことなく軍勢を各地に派遣した。ハカーマニシュ王国内に跳梁跋扈するオイラート軍の討伐のためである。時にはイスファーン自らが出撃することもあった。欲望に目がくらみ、部族や小集団単位でばらばらに行動していたオイラート軍は各個撃破されていった。戦術家としては優れていたバハードゥルだが、大局的な戦略眼は持ち合わせていなかった。バハードゥル自身の部族も圧倒的多数のイスファーン軍に敗れ、北を目指して逃げた。イスファーンは容赦のない追撃を行い、多数のオイラート兵を討ち果たした。


一連の戦いにおいてイスファーンの指揮下で戦ったハカーマニシュ人貴族や将軍たちの中には、イスファーンに畏敬の念を抱く者も出始めた。特に若い世代にそれは顕著であり、イスファーンが属国の王子であることなど関係なく心酔していた。イスファーンもこれらの者たちと親しく交わり、彼らを再編したハカーマニシュ王国軍の指揮官とした。これは属国の王子に過ぎないイスファーンとしては明らかに越権行為であったが、イスファーンの功績の大きさと非常事態であることが考慮され、批判の声は少なかった。


こうして、ハカーマニシュ王国のほぼ全ての領土を取り戻したイスファーンは、祖国にして権力基盤であるパルティア奪還に乗り出した。歩騎各1万のパルティア軍とハカーマニシュ兵4万、合わせて6万の兵を率い、一路ダーハを目指した。


パルティア国内に入ると、ヒュルカニアに敗れ各地に潜んでいたパルティア兵が集まってきた。彼らの総数は6000を越えた。3倍以上の兵力差にヒュルカニア軍はあっけなく敗北し、王とその息子たちは全員が戦死した。勢いに乗ったイスファーン軍はそのままヒュルカニア全土を征服した。


ヒュルカニアからダーハに凱旋したイスファーンは、市民たちの大歓声に迎えられた。市民たちは声を限りにイスファーンとその将兵を讃えた。感動のあまり涙を流す者までいた。


ダーハでイスファーンは父王の葬儀を執り行った。数日後、最低限必要な処置を全て終えたイスファーンは数人の重臣たちに後を任せ、スーサに向かった。


スーサに戻ったイスファーンをある知らせが待っていた。


ハマト王国軍に守られたナスリーン王女がハループを発ったという。

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