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ある日の猫  作者: 星乃夢


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第四十七話 三種の鴉?



 春風の香りが湿り気を帯びた重さを持ち始めた。霞んでいた空の太陽が厚い雲に覆われていく……。時折吹く風も強さを増してきた。


「今日の予定は変更じゃ……アオ、戻ろう」

 軽やかにステップを踏むアオに向かって、後ろを歩いていた黒猫が低く呼びかけた。

 黒猫の言葉が耳に届いた瞬間、アオは立ち止まり振り返る。

「どうしてですか……もうすぐ着きますよ」

 立ち尽くすアオに構わず、黒猫はくるりと方向転換して、もと来た道を戻っていく。

 

(せっかくボスに会えると思ったのにな……)

 肩を落としたアオは、重い足取りで黒猫の後を追う。

「あの……何かありましたか」

「ふむ、お前には見えんかったか?行く手を阻むように()が差し込んだんじゃ……」

「影……ですか?」

 

 影にも種類があるらしい。そして、影の()()が重要なのだと黒猫は言った……。

 透明から薄墨、暗く深さが増すほど危険度が増す……と。

 アオは、全身に電気が走ったように身を固くした。


(それって……かつて、千紗の家に来たという黒い影……それが、黒猫がいう危険な影だったのだろうか)

 

 アオは忘れていたのだ……その影の事を知るために外の世界に飛び出したことを……。

 そして、知恵深い黒猫に出会ったこと。

 千紗の家に黒猫を連れて行って、ボスやミイと話すようにお願いすること……。

 

 (それから……何だっけ?)


 アオが立ち止まって、思い出している間も黒猫はゆっくり歩き続けている。

 アオは……黒猫の元に駆け寄った。

 

「あの……やっぱり戻らずに家に行ってもらえませんか」

「……」

「お願いします!」

「とりあえず……今日は……やめておこう」

「そんな……どうしてですか?」

「それは……道の上から二羽のカラスが眺めておったからじゃよ。一羽だったならまだしも……」



 黒猫がいうには……知能の高いカラスは、時に神様の使いである神聖な鳥として動物だけではなく、人間にも知られているらしい。

 大きな体で体力もある……ゆえに、遠く離れた神へと、天の啓示を届けるために、別の神様の所へ長距離を飛ぶことも可能だからだ。


「じゃあ、カラスは大きくて、黒いだけで怖くないんですね」

 アオは、嬉しそうに黒猫の金色の目を覗き込んだ。

 

「それは、どうかな……。以前、お前が怖がっておったのは、なぜじゃと思う?何か理由があったか?」

「あぁ、この前の事ですね。理由ですか……いや、特に……何となく怖かっただけです」

 黒猫は、長い尻尾を左右に揺らしながら……やはり歩き続ける。


「お前の、その……『何となく』が大きな意味を持つんじゃよ。神様の使いを『何となく』……恐れるか?」

「いいえ、もう怖がらなくて良いんですよね……なんで怖かったんだろう」

「アオ、それが答えじゃよ……分かるか?」

「答え?」  

「そうじゃ……理由もなく『何となく』怖いのは、神様の使いじゃないからじゃ」


 黒猫の禅問答のような話に、アオの頭は混乱し始めた。

 

「カラスには……暗い影を持つカラスも存在する……()の使いとして……黄泉や根の国を行き来するらしい。ワシらは……それを『何となく』……怖いと感じるんじゃよ」

「ええっ、二種類のカラスがいるって事ですか?」

「ハハハ……アオよ……三種類じゃ」

 黒猫は、可笑しそうにアオを見た。

 ……どちらにも属さない野生の……いわゆる普通のカラスが大半だ、と黒猫が笑った。



 いつしか、使われなくなった農具入れの前に二匹は到着していた。

 剥がれた板の隙間に、黒い塊が……続けてグレーの塊が吸い込まれるように入っていった。 

 そして……無造作に積み重ねられた木箱の藁の中に潜り込んだ。


 アオは、ゴロゴロ喉を鳴らしながら黒猫の背中に頭を乗せた。

 

「もっと、お話を聞かせてくださいね……眠くなってきちゃったけど……」 


 

 

 

     

 

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