第四十六話 春の訪れ
霞んで柔らかい太陽の光と暖かさを増した風が時折木々を揺らす音……季節が移り変わっていくのを感じるだろうか……。
知ってか知らずか……いつものように窓際で、お昼寝をする猫たちがいる。数週間前と変わらないようでいて、変わったもの……それは、窓ガラスが少しだけ開けられたことだった。
「……匂いが変わったな」
「うん、春の匂いだ……それと、花粉のにおい、クシュン」
「ハハッ、お前……いつもこの時期くしゃみ出るよな」
モーのくしゃみにキズナが笑う。
「ボスは、くしゃみ……しないですね」
「俺は……それよりも眠いな。この時期に限らないけどさ」
猫団子の中から、モーが抜け出し窓ガラスの隙間に鼻を近づけたり、外の風景を眺め始めた。
「前回の猫生(人生)の時も、この時期くしゃみしてたんです……獲物を狙ってる時、よく失敗したもんです。懐かしいな……」
「そっか、野良の時か……。それにしても、前回生まれ変わりに失敗したのに、よく覚えてたな」
「そりゃあ、前回の時はびっくりしましたよ。ボスが言う通り、生まれ変わったけどボスが居なくて……思えば、ずっと探していました。ボスに会いたくて……」
モーの前回の一生は、キズナが白猫だった時の仲間として(前々回)の記憶を持ったまま、野良猫としてキズナを探し続けた事と風景を切り取る事を楽しんでいたらしい。
「ボス……この時期に詠んだのを聞いてくれますか」
……前回……
花曇り
想いが空に
滲みゆく
遠くの空に
思い馳せつつ
……今回……
花曇り
ものも想いも
消えゆきて
移ろいゆくも
また楽しけれ
「お前、なんか風流だな……。でも、気持ちが変わったのか……気のせいか」
「ボス!気づいてくれましたか、嬉しいです!」
「おいおい、何を興奮してるんだよ。他の奴らが目を覚ますぞ」
嬉しそうに喜ぶモーの姿にキズナも目をほそめていた。
その頃、外の世界では……。
暖かさを全身で受け止めようかとするように手足を伸ばす黒猫を見ながら、アオが小さく呟いた。
「……どうしてるかな」
寝転んだままで黒猫が薄目を開けた。
「……どうした?家が恋しいのか……」
「家じゃなくて……ボスです。外の世界の方が思い切り駆け回れるけど……やっぱり……」
「そうか、そうか……。お前さんの言う、わしらと話せるという人間も気になるし、訪ねてみるかの……」
「本当ですか、嬉しいです。ありがとうございます!」
アオは耳をピンと立て、しっぽを大きく動かして、寝転んだままの黒猫を見つめた。
走る準備をするかのようにアオが手足や背中を伸ばし始めた。そんなアオの様子を見ながら黒猫もゆっくり座り直す。
そして……。
二匹は、同じ方向を見ながら、春の風を大きく吸い込んだ……。




