第四十四話 挨拶
ゆっくりと慎重に歩く琴子の斜め後ろには、キズナとミイが護衛するように距離を保っている。
玄関ドアが見える位置まで、静かに廊下を進む。
すると……やはり来ていた。例の幽霊……ややこしいな。
ちょうど、玄関ドアの所で、中の様子を伺っている幽霊と琴子の視線がぶつかった。
意外なことに、幽霊が驚いて焦っているように見えた。
キズナとミイは、互いに顔を見合わせて首をかしげた。
『アイツ……今まで、俺たちの事が見えてなかったよな?』
『そうね……関心がなかっただけかしら?』
「あの……何か、お困りですか……」
琴子が小さく囁くように、その幽霊に尋ねてみる。
そして幽霊と琴子は、時間が止まったかのように、無言で見つめ合っている……。
キズナとミイは、琴子の足元に座り、他の猫たちは廊下の奥で、聞き耳を立てている。
「どうぞ、お気をつけて……」
琴子がそう言うと、幽霊は丁寧に頭を下げて、ドアを開閉する仕草をして、いつものように消えていった。
『……!?訳わかんねぇ』
『ちょっと、キズナったら……』
琴子が言うには……最近幽霊になった人が、お世話になった人の所に挨拶に来ていたのだそうだ。この家に千紗が引っ越す以前の住人を探していたらしい。
『なんだ、そうだったのか』
『律儀な人(幽霊)なのね』
「えぇ、そういう人は、多いわよ。残念なのは、挨拶に来た幽霊が見える人が少ないって事かしらね」
『そりゃあ、そうだな。せっかく挨拶に来ても、無視される訳だろ』
キズナが同意するように、ブンブンと尻尾を大きく振った。
『……でも、それでいいのかも……』
「ミイちゃんは、すごいね。そうなの……悲しいけど、それで自分の居場所はこの世じゃないって、気づけるのかもしれない……」
『じゃあ、無視されて一人ぼっちになるのか?寂しそうだな……』
「……たぶん、大丈夫よ。ほとんどの新米幽霊には、ベテラン幽霊がお迎えに来てくれるみたいだからね。お迎えが必要ない幽霊もいるし……人それぞれって事かしらね」
『俺たちとは違うな……人間って、やっぱり変だな』
『変?……私も……幽霊になった事があるわよ』
『……!!』
「えっ……!?」
驚く琴子とキズナを残し、廊下で驚く他の猫たちの前を走り抜け……ミイは部屋の中へと飛び込んでいった……。




