第四十三話 心の目
「こ、と……だま?」
「そうだよ、言霊と言ってね……」
幼い頃に田舎の祖母から教えてもらった言葉の一つをふいに琴子は思い出した。
………言葉には、不思議な霊力が宿っていて、声(音)や文字を通して、心が伝わるのだと………
幼かった琴子には、祖母の伝えたかった事が何なのか、よく分からなかったが、自分の気持ちが相手に届くのだろうと理解していた。
シンプルだったはずの自分の気持ちを相手に伝えるということが、歳を重ねるごとに……本音と建前や社交辞令といった社会的環境では複雑にならざるを得なくなった。
終いには、自分の気持ちが自分にも分からなくなってしまっていた……そんな時に出会ったのが、千紗だった。
千紗とは、多くを語らずとも……いや、目で語り合っていたのかもしれないが、嘘偽りが苦手な琴子の心と同じような柔らかさを感じたのだった。
心や気持ちは、視覚的に見ることができない。
でも、見えないからといって、存在しない訳では無いのは……そう、幽霊も同じだった。琴子にとっては、生者も死者も同じように見えたり、感じるからかもしれない……。
「にゃーん(ちょっと話せるか?)」
キズナの鳴き声に、物思いにふけっていた琴子が、現実に引き戻された。
「あら……どうしたの?」
「にゃん……(私も聞きたい事が……)」
キズナの横にはミイが並んで座り、二匹と一人が見つめ合った。
キズナとミイは、最近玄関先にやって来る人影について説明し終わると、琴子を見上げた……。
「……そうだったのね。今度は、私も視てみるから、その時間は、声をかけてね」
琴子は、生活に支障が出ないように……普段は、幽霊を視たり感じないようにスイッチのようなものを切っているらしい。
それでも、強烈な念を持つ幽霊だと強制的に視させられるらしいが、滅多に居ないとも言った。
琴子が言うには、生きている人と幽霊の違いがあまり無いらしい。
つまり、身体があるか、無いかの違いはあるが、その時その場所等に思いを馳せる(念)や気持ちの強さ(執着)が……視える人には視えるのだという。
肉眼ではない……心の目で視るのだと……。
ふと、琴子が玄関の方を眺めた。
『にゃーん(あっ、来たか?)』
『にゃん(つい、話に夢中になってたわ)』
琴子にならって、キズナとミイも玄関に注意を向ける。
「……行きましょうか」
琴子を先頭にして、二匹が玄関に向かって歩き出した……。




