第四十二話 冬日和
『……そろそろ来るぞ』
『えぇ、分かってる……』
玄関マットに並んで座るキズナとミイは、閉まったままのドアを注視している。
音もなく、ドアを開けて、閉める動作をする人影……が、入って来た。
キズナとミイの姿は目に入らないようで、ドアの取っ手の近くから、中の様子を伺っている。しばらくすると、またドアを開けて、閉める動作をして……出て(消えて)いった。
もちろん、実際のドアは閉まったままだった……。
『あいつ……また来たな。いったい何がしたいんだ?』
『そうね。もしかしたら、誰かを探してるのかもね……』
『誰かって……千紗か?』
『何となくだけど……千紗より前に住んでた人じゃないかな……』
数ヶ月前からほぼ毎日、その人影がやって来るようになっていた。
初めのうちは、キズナが威嚇し、追い払おうとした。そして、ミイが人影に事情を聞こうとしたが、やはり何の反応も示さなかった。
今では、時間になると玄関マットに座って、人影を観察するだけという……新たな日課になりつつあったのだ。
『千紗じゃないなら、まぁ、いいか』
キズナが日課を終えて、立ち上がった。
変わって、外の世界でのアオは、道路にたくさん落ちている丸いものを手で転がしては、それを追いかけ……遊んでいる。
少し離れた所にいる黒猫は、冬晴れの風を微かに感じながら、念入りに顔を洗っていた。
『アオは……元気じゃの、楽しいか?』
『はい、丸くて、よく転がります。木の実ではなさそうですが、たくさんありますね』
『それはな、豆と言うんじゃよ。人間が叫びながら、その豆を投げつけて……投げられた人間も楽しそうなのじゃよ。人間の面白い行事の一つじゃな』
アオと話しながらも、周囲の様子を把握するかのように黒猫の耳は四方八方……いや、全方向の音を聞き取ろうと、忙しく動き続けている。
ふと、黒猫が動きを止めて、ある方向を見つめ始めた。
すると、立ち並ぶ家の陰から、透明の人影がゆらっと現れ、薄日の中に解けていった……。




