第四十一話 普通?
低い太陽に向かって、濃い灰色の雲がカーテンのように空と地上を隠しながら近づいていた。冷たい風も強くなってきて、枯れ葉を吹き飛ばす。
使われなくなった農具入れの剥がれた板の隙間に、グレーの塊が吸い込まれるように入っていった。
『ただいま戻りました。外は寒いですよ』
『おぉ、アオか。年寄りには寒さが、体にこたえる季節じゃ』
無造作に積み重ねられた木箱の中から、黒猫が飛び出し、身体についた藁の粉をブルブルっと振るった。
暖かい黒猫の鼻と冷たいアオの鼻を一瞬くっつけて挨拶した後、アオは黒猫の温かさが残る木箱へと入っていく。黒猫も手足を伸ばすが、身震いしてアオの後を追った。
『さっき、千紗の家の近くを走ったんですが、カラスがいて近づけませんでした』
『……それは、どんなカラスじゃった?』
『えっ、どんなって……黒くて大きくて……普通のカラスでしたけど』
『そうか、普通のなら心配ないの』
『えっ、えっ?……普通じゃないのが、いそうな口ぶりですよね』
『なぁに……先日、空に龍神を見かけたから、ちょっと気になっただけじゃよ』
だが、アオの好奇心に火がついたようで、黒猫に質問が止まらない。黒猫は、ゆっくりと……おとぎ話のように話し始めた。
『八咫烏という三本足の大きなカラスは、太陽に住んでおるそうじゃ。神様の使いだと言われておるが……日本だけではなく、世界中に伝わっている有名な神様の使いなのじゃよ』
『ええっ、三本足!?どうやって歩くんだろ……ワルツのリズムかな?』
アオは、想像しているのか……楽しそうにしっぽをブンブンと振っている。
『でも……そんなに大きなカラスなら、目立って直ぐに見つかっちゃいそうな……』
『ふむ、奴らは賢いからのぅ。普通の鳥が怖がるような、空のずっと高いところを飛ぶのじゃよ。だから下からは、ただの小さな粒にしか見えんのじゃ』
『へぇ……じゃあ、僕が見たあの黒い点も、もしかしたら……』
アオは、さっき見上げた空を思い出し、しっぽを止めて考え込んだ。
そして、黒猫が見かけたという龍神は、川の流れや雲の中を泳ぐ(飛ぶ)ように移動する……簡単に言えば、水に関連する神様ということらしい。
『じゃあ、龍神が雲の形になって、空を飛んでたんですか?』
『そうじゃ……アオは、筋状になってた白い雲を見なかったか』
『はい、気が付きませんでした。残念だな、見たかったです』
これらの不思議な存在を、見える者と見えない者に分かれるが、たまたま黒猫は見えるのだと言った。はたしてアオは、どちらなのか……。
狭い木箱の中でアオは、聞いたことも考えた事もない神様の話に夢中になっていた。黒猫のお尻にアオが頭を乗せて……まるで黒とグレーの大きな塊のように見えてきた。
体が温まってきたアオは、ゴロゴロ喉を鳴らしながら眠り始めた。
外では、みぞれが降り始めたようだった……。




