第四十話 安堵
昼間は弱いながらも暖かい光が、山の陰に隠れるように太陽が沈み始めた。途端に冬の乾燥した空気が冷え始め、薄雲を温めるように茜色に染めあげていた。
千紗の家の中では、主がいないながらも琴子と猫たちが共同生活を送り始めた。
「ミイちゃん、元気になったみたいね……」
琴子がキズナと一緒に窓辺に座るミイを見ながら小さく独り言を言った。
「にゃ、にゃーん(私が心配し過ぎただけだったのよ。パパは大丈夫だと分かったの)」
ミイが琴子の独り言に応えた。すかさず、キズナが問いかける。
『おい、ミイ。なんで分かるんだよ』
『……いろいろと……方法があるのよ』
『便利そうだな。教えてくれよ』
『ん?……まだ無理かな。またいつかね……』
『なんだよ、勿体ぶるなぁ……まぁ、いいけどさ』
ミイとキズナのやり取りを聞いているのか、聞いていないのか……一塊になって寝ている猫たちの耳がピクピクと動いていた。
「私もそっちに行っていいかしら」
琴子がゆっくり静かにミイとキズナの所にやって来た。
「ミイちゃんは、人間の言葉が分かるのよね」
「にゃーん(俺だって少しは分かるぞ)」
琴子に向かってキズナが応えた。
琴子は、猫たちの言葉や気持ちを感じ取れる。千紗が猫たちと心で会話するのと似たような感覚らしい。千紗のように言葉が直接心に届くわけではないが、琴子には彼らの発する感情が見えるような……感覚的なものだと言った。
「そういえば、生まれ変わりの話をしていたけれど、記憶もあるの?」
「にゃーん(えぇ、大切な事だけを覚えているの)」
ミイが言うには、普通は動物が生死を繰り返しても『心残りや執着』を持たないので、記憶を持つ必要性がないのだという。その日、その時を精一杯生きる、ただそれだけだから……。動物に限らず、人間も同じなのかもしれない……。
大切なこと……それが何か……。ミイは、言葉を止めた。




