第三十九話 冷たい風
「急だけど、ごめんなさいね。琴子さんにしか頼めなくて……猫たちの事をお願いします。詳しい事は、向こうに着いてから連絡しますから……」
千紗がスーツケースに服を投げ込み、手当たり次第に詰め込みながら、琴子に頼んでいる。
戸惑った様子の琴子と猫たちを残して、千紗は慌ただしく玄関に向かい出て行ってしまった。
呆気に取られた様子の猫たちと琴子は、これからしばらくの間、千紗の家での共同生活を送ることになったのだ。
『なぁ、千紗は大丈夫か?』
『多分……パパに何か……何かがあったみたい』
ミイが心配そうにキズナに答えた。
『前から気になってたが、離れてるパパの様子が、なんで分かるんだ?』
『それは……。……』
『……ん?なんだよ、秘密ってか?』
ミイの様子を察したキズナは、そっと静かにその場をはなれた。
ミイだけの時間と空間を確保するために、キズナはほかの猫たちにそっと耳打ちをする。
『おい、お前ら。騒いだり遊びたくても、ミイから寄ってくるまでは……大人しくしてるんだぞ、分かったか。頼むぞ』
猫たちは、窓辺にいるミイを見てから、キズナに向かって黙ったままで、大きく頷いた。
ミイは、相変わらず窓の外の世界……空をじっと見つめたまま座り続けていた。青空には、白い雲が筋状に数本流れている。ミイが心の中で呟いた。
『……龍神が……どこに?』
洗濯物を干し終えた琴子が、ゆっくりした足音で居間に近づいてきた。一塊になっていた猫たちの中から、キズナがスッと立ち上がった。
「にゃーん(千紗から連絡は?)」
「ううん、まだないの」
「にゃーん(パパに何かあったとミイが言ってたんだ)」
「えっ、そうなの?何故分かるのかしら……」
その時、琴子のどこかが震え、唸り声を出し始めた。
琴子が慌てて、ポケットからスマホを取り出し、耳に押し当てた。
そして、話しながら足早に居間から出ていく琴子の後ろ姿を、キズナは座ったまま注意深く見つめている。
『あの四角い板が出す唸り声、どんなヤツが出しているんだろう。まぁ、体は小さなヤツだな』
冷たい風が枯葉を巻きながら、あちらこちらに枯葉の小さな塊や小山を作っている。
外の世界……黒猫のねぐらで、アオは黒猫と一緒に身を寄せ合い、丸まりながら夢を見ていた。
最初の記憶……野良猫でボスに出会ったこと、ボスの命令通りに生まれ変わりで白猫になったこと、ボスやミイが守る千紗との出会い……そして、自分も千紗を守る為に外の世界に飛び出したことを……




