第三十八話 琴子と話
千紗が出かけている間に、琴子はバッグの中から四角い板を取り出した。
『あれって、千紗が持ってる四角い板か。人間は板が好きなのか……あれ、時々うるさい音を出すから苦手だ……』
キズナが独り言を言った。
テーブルの上に板を置いて、琴子はほとんど動かなくなった。
リビングでは、それなりの緊張感を持っていた猫たちだったが、琴子の動きがなくなった事で、心に余裕ができて……今度は、興味や好奇心が募っていく。猫たちは、まるで……だるまさんがころんだ……をやってるみたいに、音もなく少しずつ琴子に間合いを詰めていく……。
相変わらず琴子は、沈黙したまま時々板の上に指を滑らしていた。
テーブルの下、琴子の足元でミイとキズナが話す。
『静かだな……何をしてるのか。いや、何もしてねえのか?』
『フフ、あれは人間が使う機械よ。昔千紗と暮らしていた頃は、家に一つあったわ。今じゃ、一人一人が持ってるみたいね。人間が印(文字)を見たりする時も使うみたいよ』
『ふん、よく分からないが、琴子と話せるかな?』
『私が通訳しようか?それとも、キズナが聞きたい事を代わりに話す?』
「にゃーん(ちょっと話せるか?)」
キズナの鳴き声に、琴子がテーブルの下をのぞき込んだ。
「あら、どうしたの?邪魔だったら寝室に行こうか?」
「にゃーん(いや、そうじゃなくて、話をしたいんだ)」
「何の話かな?」
ミイが咄嗟に会話に加わってきた。
「にゃん(ユーレイについてよ)」
『おい、ミイ。まただ……いきなりだな』
ミイとキズナは、琴子と話し始めた。
千紗は、見える時と見えない時がある事。黒い影は、千紗が幼い頃から同じ夢を見ていた事。最近になって実際に影の存在をミイとキズナも目にした事。その少し前に、千紗の先祖のお婆さんが忠告に来ていた事などを琴子に話した。
琴子は、幼い頃から人と同じようにユーレイも見えていたので、不都合を感じ普段見ないようにスイッチを切る(見えない)ようになったという。黒い影というのも、琴子の見え方では、古いユーレイの方が黒っぽく見えるが……そもそも見え方は人それぞれだから、断定的な事は言えないらしい。そして、先祖の守護霊の忠告に関しては、素直に従った方がいいだろうと言った。それに、琴子自身困った事がある時は、墓参りやお寺に行くようで、今度千紗も誘ってみようかなと言った。そして、驚いたのが、千紗が猫と話せる事やユーレイが見えた事を一切琴子に話しておらず、また琴子の方も千紗には霊感の有無の話はしていなかったという事だ。琴子が言うには、相手との信頼関係が強固だと感じていても、ユーレイの話をした途端去っていく人が多く、打ち明ける事に勇気がいるからなのだと……寂しそうに言った。
『なるほど……人間は、いろいろ大変なんだな。ユーレイに関しては、俺たちは見えたり感じるが、そういうのを一切感じない猫もいる……その点では、人間と同じだな』
「見えない方が絶対いいよ……見えても不便な事ばかりだからね」
琴子と話している間に、他の猫たちがテーブルの間近までやってきていた……。
その時、テーブルの上の板がブーブーと振動し始めた。
『きゃー』
『えっ、何?』
『うわぁ~、逃げろ!』
驚きの連鎖だ。一匹が驚きのあまり真上にジャンプして飛び上がり、その動きにもう一匹も驚き……一目散に床を滑りながら、ドタバタと大きな足音で、嵐のようにリビングに退散して行った。
『おい、お前ら。何やってんだ……騒がしいヤツらだな……』




