第三十七話 ある秋の日
空は鉛色の雲に覆われ、涼しいというよりは冷たい風が吹く、ある秋の早朝……千紗は、首にスポーツタオルを巻いて静かに家を出た。今日は、この辺りの運動会……普段なら出かける事もない千紗だが、今年は違う。1年間近所の班長の役が回ってきたからだ。
ミイとキズナは、千紗を元気づけるように千紗に寄り添っている。
『千紗、そんなに気にするな』
『そうよ、すぐに終わるでしょ。待ってるからね』
『ミイ、キズナ、ありがとう。人が多い所は本当に苦手なの……考えるだけでも疲れちゃって……』
『だから、考えなくていいんだよ。外の世界が苦手なら……家に帰る時間が近づいてくるって思えば待ち遠しく感じるんじゃないか』
ミイとキズナは、千紗の足元に体をくっつけた。緊張で冷たくなっていた足に、ほんのり温かい体温が伝わって来た……。
「うん、ありがとう。元気もらったよ。行ってくるね……琴子と仲良くしててね。無理しなくて良いからね。行ってきます」
『千紗、大丈夫かな?』
『大丈夫に決まってるだろ……帰ってきたら、みんなで盛大にお帰りの儀式をしようぜ』
ミイとキズナは、出掛けた直後なのに……もう帰宅後の事を考えていた。
しばらくすると、目覚めた琴子がゆっくりした足音でやって来た。猫たちは、窓際の定位置から琴子を注視している。ミイとキズナは、立ち上がって近寄る……。
「にゃーん(千紗は出かけたぞ)」
「あ、あなたボスのキズナだよね。昨夜千紗から聞いてるわ。運動会だってね……大変そうね」
「にゃーん(千紗は人混みが苦手なんだ)」
「うん、私もそうよ。だから、千紗の気持ちが分かる気がするわ」
琴子は、千紗の事を他人事ではなく自分の事のように考えている……千紗とよく似ているのかもしれない。
「にゃん(聞きたい事があるの)」
ミイが琴子に尋ねた。
「にゃん……?(ユーレイ……見える?)」
ミイの単刀直入な質問に、キズナは驚きミイの顔を見た。『ストレートすぎだろ……』
琴子は、気にすることなく答えた。琴子は、霊感スイッチを持っていること、霊感の事は変に思われるから内緒にしてること、琴子自身は神社よりもお寺派なのだそうだ……。
近くの草むらでは、2匹の猫が寒そうに体を低くして話していた。
『黒猫さん、いよいよ明日からねぐらがこちらに変わりますね。引っ越しのお手伝いをさせてください』
『そうじゃな、手伝いか……』
アオの申し出に黒猫が、しばらく考えて言った。
『これからは、寒くなっていく……お前さんさえ良かったら、ねぐらを一緒に使おう。どうじゃ?』
『えっ、いいんですか?寒い時期の野良って大変だから……家に戻ろうか、いろいろ考えて、迷っていたんですよ。嬉しいな』
『寒さか……身に染みるからな。お前さんとなら、楽しく過ごせるかもしれんな……』




