第三十六話 近況報告
不意に注目を集めてしまったキズナは、動揺を隠して冷静を装っている。そんなキズナの姿をリビングの離れたところから見ていた仲間の猫たちが囁く。
『おっと、ボスが動揺しているんじゃない?』
『そりゃ、いきなり人間に注目されたら、緊張もするわよ』
『ハハッ、でも、あれ見て……しっぽがフワフワしてきてるわ』
『シーっ、ボスの事を笑っちゃダメよ……フフ』
千紗は、椅子からゆっくり立ち上がって、テーブルの下に潜り込むようにかがんで、キズナの体を優しく撫ではじめた。
『キズナ、話があるのね。そっちのけにしちゃって、ごめんね』
『千紗……いや、いいんだ。それよりも、その琴子っていう人間にも聞いてもらいたい事があるんだ』
『そうなの、みんなで話し合いたいの』
慌ててミイも言葉を続けた。
最近は、いろいろと慌ただしくてゆっくり話が出来なかったこと……ユーレイや黒い影について、キズナが千紗に報告する。
『俺たちは、家の中でユーレイを見かけたら追い払っているし、交代で家の中を見回っているんだ』
キズナがミイに確認を求めるように一呼吸おいた。
『それに、私も千紗が見えない時や後ろのユーレイがいる時も……特に千紗が落ち込んでいる時は影が出てきやすいから注意してるの……』
ミイが付け加えた。
『俺たちが出来る事は限られている。そこで、脱走したアオに助っ人を探してもらっていて……その人間(琴子)が来た日に、アオが連れてきてくれたんだ』
キズナの話を二人の人間と元野良猫の仲間たちが静かに聞いていた。
「……えっ、ちょっと待って。アオが脱走したのも、誰かを探しに行くためだったの?」
千紗が思わずキズナに聞いた。
『いや、違う。あいつは野良猫の頃から全力で走り回るのが好きだったから、ドアの隙間に外の世界が見えて、何も考えずに飛び出しただけさ。その後は、俺の考えで地域猫を探していたんだ』
「……そうだったんだ。アオが外の世界の方がいいから出て行ってしまったのかと思っていたから……それで、アオは大丈夫なの?」
『ピンピンしてるよ、全身灰色で頭に黒い油染みつけてさ……アオだと気付かないかもな。あいつ、毛づくろいしねぇからさ』
キズナからアオの様子を聞いた千紗は、安心したように、止まっていた手を動かし始めた。キズナをゆっくり撫でながらも、千紗は黙って何かを考え込んでいるようだった。
『何だかアオの近況報告になっちまったな。千紗がアオの心配をしなくていいって事は伝えられたし、他の話は……また今度ゆっくりするか』




