第三十三話 客人
その日は、朝からいつもと様子が違った千紗が、やっと帰ってきた……今度こそ、お帰りの儀式ができるのかと思っていた。猫たちは、期待を裏切られてふてくされている……そう、もちろん物陰に隠れながらだが。
「大変だったわね。私の服、あなたの方が似合うかも」
「いえいえ、本当に助かりました。その上図々しくお邪魔してしまって……」
「何言ってるの、水くさい。困った時はお互い様って……昭和のノリだわね」
千紗の服を着た女の人は、疲れ切った顔で申し訳なさそうに肩を丸めていた。二人は、笑い合ったり、時には深刻そうに小声になったりしながら、しばらく話し合っていた。話の間も、小さな板がうるさい音を立てたり、板に向かって話しかけたりしていた。
先ずは、キズナ……続いてミイが音もなく物陰から出てきた。その他の猫たちは、暗くて狭い物陰に安心感を覚えて、眠り始めた。
『誰かな?知ってる?』
『……ん、間違っているかもしれないけど……ここに引っ越す前のアパートに住んでいた人に似てるような気がする……』
人間の言葉を少し理解できるミイがキズナに伝える。やはり、その女の人はアパートの住人……上の部屋が火事……消し止められた……全部が水浸し……ということらしい。
キズナは、ミイの言葉から、今朝の千紗の様子に納得した。
『千紗は、俺たち猫だけじゃなくて、人間でも……困っているのを見過ごせないんだな』
『そうね、自分の事は後回しだもんね』
『でも、困ったなぁ。せっかく黒猫さんが来てくれたから千紗と話したかったな』
『しょうがないよ……千紗は、人間だもの。人間を優先しなきゃ……』
どうやら、その女の人は、琴子というらしい。俺らには人間の年は分からないが、千紗と同じくらいに見えた。千紗と同じように静かにゆっくり話す人だ。……自信なさげなのが気になるが……
千紗が、使ってない部屋から布団のセットを出してきて、寝室に持っていった。その後、寝室に二人で入っていった。しばらくの間は、ボソボソと二人の話し声が聞こえていたが……やっと静かになった。
キズナとミイは、既に物陰から出て部屋の隅にいたが、他の猫たちがそろそろと様子を伺いながら物陰から出てきた。みんな大きく伸びをして、あくびもしている。
ボスを先頭にフードと水の場所に行列だ。順番に食べるので、後のものは近くで座って待機だ。ひと通りの流れをこなして落ち着いた猫たちだった。
今度は、部屋に戻って琴子の荷物やら、座っていた場所をチェックし始めた。
……人間と違って、猫も大変なんだよ……




