第三十二話 誰?
窓の外には、明るい昼下がりの日差しを全身に受け、黒い毛がキラキラ輝く美しい黒猫と、本来真っ白の毛皮が灰色になっても気にしないアオが、並んでちょこんと座った。
「黒猫さん、あれがボスと仲間たちです」
アオが紹介をする。窓際のカーテンをくぐって部屋の中の猫たちがぞろぞろと集合してきた。
「よくおいでくださいました」
代表者らしくキズナが言葉を発し、ミイは、すぐ横に控えている。
他の猫たちは、ガラス越しとはいえ、間近に他の猫が座っている事に興味津々だ。じ~っと観察するものやクンクン匂いを嗅ごうとしたり……新入りは、緊張するのか尻尾の毛がフワフワしている。
「お前さんがボスかね?随分と大所帯じゃな」
「はい、キズナです。横にいるのがミイです。ここは千紗という人間の家です。ここにいる奴らは、ミイが千紗に拾われた頃に、野良猫だった俺の仲間たちなんです」
「野良猫?こんなに仲間が?」
「あっ、言い忘れました。俺たちは、記憶を持ったまま生まれ変わっているので……正確には前世の仲間なんです」
黒猫には生まれ変わりの話が初耳だったようで、驚いて言葉をなくしてしまった。隣のアオが心配そうに、黒猫とキズナの顔を代わる代わる見て、発言して良いのか迷っている。
「前世……面白いね。面白いと言えば……その人間が、猫と話せると聞いてやって来たんだが……」
「申し訳ないです。千紗は、今は居ません。今日は朝からバタバタしてまして……」
「そうか、残念じゃな。ではそろそろ帰るとしよう。会えて良かったよ」
キズナは、黒猫がもう二度とやって来ないのではないかと心配になった。本来の話したいこと……幽霊とは違う黒い影の存在の話がしたかったのだ。
「近々、この辺りのねぐらに移られるとアオから聞いたのですが……もし良ければ、またここに来ていただけませんか?」
「その通りじゃよ、秋はこの辺りに移ると決めておる。アオも面白いヤツだと思ったが、お前さんたちも面白いな。今日は会えなかったが、この家の人間も気になる……また来るよ」
キズナは、黒猫の返事にほっとした。アオには、黒猫に今までの生まれ変わりの経緯や影の情報について詳しく話しておくように、と次の指示をした。
やって来た時と同じように、黒い塊と灰色の塊が、低くなってきた太陽に向かってゆっくりと歩き去った。
日も暮れて真っ暗になって、虫の声が聞こえ始めた。
玄関の外から、鍵についた鈴が鳴る……が、またしてもいつもとは違う。
キズナたちは、その違いを既に察知していて部屋の中で動きを止めていた。
「さぁ、入って……」
「ごめんね、急に。図々しくお邪魔しちゃって……」
千紗と一緒に誰かがいる。家の中に誰かが入ってくる……と確定した瞬間。フローリングの床に滑りながらパニック状態になった猫たちが散り散りにダッシュで物陰に隠れてしまった。
……また、お帰りの儀式ができなかったな……




