第三十一話 なんて日だ!
明るい窓際のいつもの場所で、お昼寝をしていたキズナの耳に、聞き慣れない足音が近づいてきた……誰かが走っている?寝ころんだ状態で、聞き耳を立てていて……慌てて飛び起き玄関へと向かう。
『千紗だ、千紗が走ってる?』
その足音がドアの前で止まり、鍵についている鈴の音をチリンチリンと鳴らしながら鍵が動く。今朝慌ただしく外出した千紗がドアを開けて入ってきた。
玄関マットの上には、急いで駆けつけてきたキズナが立ち……その後ろをミイがついて来たが、他の猫たちはまだ部屋の窓際で立ち上がっただけだった。
帰宅の様子がいつもとはちょっと違うが、ミイとキズナ、他の猫たちがお帰りの儀式をしようとする……が、スルリと千紗がお帰りの儀式を避けて、そのまま寝室に入っていった。
『えっ、どういうこと!?』
『さぁな、今朝の様子も変だったが……それ以上に慌ててるなぁ』
『何かあったのかな?』
ミイとキズナが顔を見合わせていると、出遅れた他の猫たちも玄関にやってきた。
『あれ?』
『千紗が帰ってきた?』
『お帰りの儀式は?』
ミイの頃から、千紗がお帰りの儀式を回避した事は、ほとんどなかった。どんなに急いでいたとしても、千紗の都合ではなく猫の気持ちを優先して、お帰りの儀式を受けてくれていたから……猫たちも、ただならぬ千紗の様子に不安を覚えた。
寝室では、ガサゴソと物音がする……タンスの引き出しを開閉し、衣類をバッグに詰め込んでいるようだ。
「……これで足りるかな?」
千紗の独り言が聞こえ、早足で扉に近づく音……素早く開閉し、また早足で玄関に向かっていった。
『もしかして……またお出かけ?』
『だろうな』
呆気に取られた猫たちは、千紗の様子を目で追うだけで動きを止めている。
予想通り、千紗はそのまま玄関まで行き、靴を履いて……鍵の鈴を鳴らし、靴音が遠のいていった……。
『……?』
『ハハッ、今のは……何だったんだ?』
みんな訳が分からなくて顔を見合わせ……ぞろぞろと窓際に戻っていった。それぞれがいつもの場所で毛繕いを始めた……その時。
窓の外に、灰色のものが近づいてきた。
『ボス!……千紗は……居ますか?……』
アオが荒い息を堪えながらキズナに尋ねた。
『ん〜、今出掛けたところ……だ……』
キズナが言い終わる前に、アオが踵を返し全速力で、もと来た方向に走り去った……。
『……?』
『えっ、何?』
『……アオ……お前もかぁ。勘弁してくれよ』
『今日は何なの?千紗も、アオも』
『もう知らない!お昼寝するぞ』
気を取り直して、それぞれがが毛繕いを再開する。水を飲んで戻ってきたミドリが大きな声を出した。
『ボス!あれ、見て!』
『今度はミドリ、お前まで……何なんだ?』
窓の外を見るミドリの後ろからキズナが覗くと、灰色と黒い塊がゆっくりと近づいているのが見えた。
『ボス!お待たせしました。黒猫さんが来てくださいましたよ』




