第三十話 黒猫
辺りはまだ暗いが間もなく日が昇るのだろう。名残惜しそうに星が瞬いている。
新聞配達のバイクが走る音で目を覚ましたアオは、放置された自動車の下から出て大きく身体を反らせて伸びをした。ちょこんと座り、顔を上げてまだ冷たい夜明けの空気を吸い込んだ。
『さぁ、今日はお寺の方に行ってみようかな』
アオは、もう一度軽く伸びをしてから、軽やかに飛ぶように駆けていく。大きく手足を動かすが身体はほとんど水平を保ち、長い尻尾でバランスをとる。家の中では味わえない外の世界だからこそ、猫独特の身体能力の高さを存分に味わえる……この自由さがアオは大好きだ。
フン、フンと鼻息を荒くしたアオは、あっと言う間にお寺に到着した。誰かに追いかけられて全速力で逃げまわっていた頃のスリルと躍動の感覚が懐かしく蘇る。
お寺の生け垣の隙間を見つけると、スルリとくぐって、アオは舗装された通路にゴロンと横たわり息を整える。
しばらくの間、アオは寝転がりながらも辺りの様子を伺い、黒猫の匂いや気配を確かめる。どうやら黒猫は、お寺のどこかにいるようだ。
アオが立ち上がり、ゆっくり歩き始めた頃明るくなった空から、太陽の光が差し込んできた。
『よぅ、若いの。何か探し物か?』
不意に黒猫が話しかけてきて、びっくりしたアオは、反射的に背中を高くして尻尾の毛が逆立ってしまった。
黒猫に対して敵意がない事を分かってもらうためにも、アオは身体を低くして視線を合わさないように静かに答えた。
『黒猫さん……あなたに会いたくて来ました。びっくりしちゃって毛が、逆立ってしまいました……すみません』
『ハハッ、おかしなヤツだな。会いたいってワシにか?』
『はい、あなたを探し回っていました。この辺りのリーダーをされていますよね?』
少し落ち着いたアオは、黒猫の前にきちんと座り、黒猫に説明を始めた。
アオの野良猫時代のボスがキズナである事、生まれ変わりながら人間を守っている事、幽霊とは違う黒い影の存在がやってきた事などを細かく話した。
『なるほど……それで次の寝床の近くにあるお前さんのいう家に顔を出せって事だな?』
『はい、お願いできますか?その家の人間は、私たちと話が出来るので話が早いかと思うのですが……』
『人間と言葉が通じる?それは面白いな……だが、今までワシが人間に近づこうとしても、人間の方が逃げてばかりだったからな。お前さんがいう人間も逃げるんじゃないかな……』
『その人間は、千紗と言います。千紗は、人間だけど人間らしくない……というか。う〜ん、私には上手く説明出来ませんが、一度私と一緒に来ていただけませんか?お願いします!』
アオの熱意と黒猫自身が興味を持ったようで、千紗の家に行く事が決まった。
黒猫は、アオに先導されながら、縄張りの確認も兼ねてゆっくりと千紗の家に向かって歩き始めた。先導してるアオは、黒猫がちゃんとついて来てくれているかを何度も確かめながら歩く……。
…………走ればあっという間に着くんだけどなぁ。我慢、我慢。それよりも千紗は、家に居るかな?居なくてもキズナとミイが話してくれるから、きっと大丈夫だよな…………




