第二十四話 アクシデント
ピンポーンとインターホンが鳴った。猫たちは、一斉に耳をそばだてたり、立ち上がったりして緊張を隠せない。千紗が、ゆっくりモニター画面を見て応答ボタンを押した。
「はい?」
「すみません、〇〇というものです……」
「……?」
「……」
モニターで話さないので仕方ないという顔をしながら、千紗が玄関に向かう。その後ろを強い順に猫たちが並んでついてくる。
玄関マットの定位置にミイとキズナが座り、アオやミドリ、キンが廊下に立つ……新入りに至っては、一番遠くで部屋から顔だけ出して様子を伺っている。
千紗が鍵を開けて、ゆっくり玄関ドアを開けると、中に入ってきそうな図々しい態度の人間の男性が間近に立っている。
パーソナルスペースを広くとりたい千紗が後ずさった。猫たちは更に緊張感が増して、低く唸っているものや部屋の方に駆け出すものもいる。
特にキズナは、
『出て行け!千紗が嫌がっているだろ!!』
という意味で
「シャー、シャー……フー」
と威嚇している。
そして、キズナの後ろにいたアオが飛びかかろうとしたのか……逃げる方向を間違えたのか……いきなりドアの隙間から外に飛び出した。
「アオ!こっちだよ、帰っておいで」
と、慌てて呼びかける千紗の声を遠くに聞きながらも、アオは全力で走り去ってしまった……。
アオの逃走劇によって、みんながピリピリして、落ち着かない様子に気づいた千紗は、自分の動揺を隠そうとしている。部屋に戻って、猫たちの側に座った千紗は、
「さぁさぁ、みんなこっちにおいで。大丈夫だよ。びっくりしちゃったね」
と独り言のように呟きながら、猫たちの頭や体をそっと撫でる。やわらかな毛並みを撫でているうちに、千紗の大きく乱れた心の波も小さくなっていく……。
そして、思わぬアクシデントによって、千紗は心を閉ざしていた事を忘れたようで……久々に心の声でキズナに話してきた。
『アオ、大丈夫かな?帰って来れるかな?』
『アイツは野良猫だったから大丈夫だよ。外の世界で駆け回って、気が済んだら帰ってくるさ』
『でも……迷子になったりしないかな?』
『多分、大丈夫だよ……』
それでも心配な千紗は、緊張がとけて眠り始めた猫たちから離れ、何度も外に出ては近所の人に聞こえないように小声で呼びかける。アオが助けを求めたとしても、届かない距離にいるのではないかと……千紗は不安に思っていたのだ。
「アオ……アオ……帰っておいで……」
千紗は、家と外を行ったり来たりして、家の中では窓の外を何度も確認していた。
『アイツも腹が減ったら家の事を思い出して帰ってくるだろ……』
とキズナは大して心配していない。しかも、このアクシデントを、心の中ではラッキーだと思い始めていた。




