表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/30

第3章 旅の宿

第3章 旅の宿


 四台で伊豆スカイラインを走り終点の天城高原へ、そして伊豆高原まで降りて、海沿いを走って『網元料理徳造丸 魚庵 伊豆稲取国道店でランチ。

 この店は場所が便利で美味しいのでツーリング族やドライバー達に人気があり、金目鯛の煮物が美味いと敬純は思っている。

 「皆さん、速くて上手いんですね、ちょっとびっくりしました」

「ああ、みんなそれなりにベテランでこのコースは走り慣れているからね、僕はゆっくりと走っているから焦らなくても大丈夫、この二人は免許が惜しく無いらしくて飛ばすから、真似したらダメだよ」

 「いや待て、まだ今年は二回しか切符切られてないぞ、そしてそれも動画のネタになるから美味しいぞ」

「アホ、一度も切られないのが普通なの」

「でも250ccだと高速や長距離のツーリングは辛いわよね、『ゆかりん』さん大型持っているのなら、もう少し大きいバイクの方が楽しいわよ」

と真理子が言う

「そうですね、でもこのバイク事務所からの案件なんですよ、だから好きなバイクに乗れないんです」

「あー、そう言う事か」

 案件と言うのはスポンサー企業から商品やサービスを提供されて、そのPRをする事なのだが、

バイクが案件と言うのは有る意味不便でもある。


 ランチの後は下田、南伊豆を通って、各地の観光スポットで撮影したりして、今日の目的地の西伊豆・雲見温泉の『温泉民宿さかんや』に到着した。

 民宿を見て陽菜は少し固まった。

「やっぱり最初にこの民宿に来るとみんな同じ顔するよね」

と真理子は笑っている。

「そうね、君は怒り出したものね」

と雅俊が茶化す。

 部屋は二部屋とってあり、敬純は男性と女性で分けるつもりだったが、陽菜が

「私、渋川さんと一緒で大丈夫ですよ」

と言うので、そう言う事になった。

 バイクと荷物を置いて10分ほど歩くと海岸で、『雲見想い出岬』へ行くと夕陽と富士が綺麗に見える。

「やっぱり今回のサムネはここだね」

「あ、本当ですね、私もここの画像にします」

と真理子と陽菜は撮影をしている。

「なぁ、まさか……まさかだよな?」

そんな二人を見ていると雅俊に聞かれた

「え、違うよ、何も無いただの知り合いって言うか、先週知り合ったばかり、それにあの娘、うちの息子より若いんだぞ」

「いや、そうだよな、すまん変な事疑って」

「俺が彼女と二人で居ても親子にしか見えんだろう、アホか」

と敬純は苦笑いした。

 事実としては、親子ほど歳の差のある女性と付き合った事が無いとは言えないが、まぁその話は無しにしておいた。

 宿に戻り、夕食は少し広い敬純の方の部屋に四人分用意されるのだが、宿の外観や部屋の感じからは想像できない豪華な海の幸の料理に、陽菜は喜んでいた。

 敬純な最初の予想では、部屋に文句を言うかと思ったが、陽菜はこの質素な和室を気に入っている様だ。

「本当にこここの料理は美味しいよね、ウチは毎年必ず一回は来てるのよ」

と真理子が言うと、陽菜も相槌を打つ、

「美味しいです、私、実は千葉の漁師町の生まれなんです、だから魚は新鮮じゃないとダメなんです、でもここは本当に美味しいです」

 と会話しながらも、動画の撮影をしているのは二人共ある種のプロかもしれない、敬純と雅俊は

二人でビールを飲んでいて撮影など完全に忘れているからだ。


 食事が終わり、温泉にも入って、敬純はシャツに短パンと言うお気軽な格好になる。一応浴衣は有るのだが敬純は浴衣が苦手なのだ、そのまま畳の上にゴロンと横になる、敬純の家には畳の部屋が無いので、久しぶりだ。

 真理子と一緒に温泉に行っていた陽菜が戻ってきた、陽菜も浴衣では無くて、タオル生地の様な素材の

タンクトップとショートパンツ姿で、セクシーと言うよりは可愛らしい感じだ。

「お布団敷きましょうか?」

ここは布団はセルフサービスだ、陽菜は慣れた感じで布団を二組敷いた。

「もう少し離しますか?」

と言ってにっこりと笑う。

「ああ、その方が良いかもね、僕はイビキが煩いそうだから」

と言うと陽菜はまた笑い

「私、こういう感じの部屋のアパートで育ったんです、懐かしい」

「そうなんだ、今時純和風は珍しいね」

「母子家庭で貧乏でしたから、専門学校もバイトしながら行ったんですよ」

 そう言えば食事の時にビールを注いでくれる手付きが慣れてるので、

「バイトって水商売やってたの?」

と聞くと

「母がスナックをやってるので、中学の時から手伝ってました」

とまるで昭和のドラマみたいな事を言い出した。

『いや、その設定は流石に今の時代無理があるだろう』

と思ったが、話を聞くとどうやら千葉県の外れの漁師町ではまだそんな所があるらしい。

 その後もたわいの無い話をしながら

「そろそろ寝ようか、電気消すね。少し蒸すからエアコン弱で付けっぱなしだけど寒かったら言ってね」

「はい」

と言うことで、何も無く一日目が終わった…………筈だった。


「あの……」

隣に若い綺麗な娘が寝ていると思うと、目が冴えて羊を数えていた敬純は、直ぐに反応した。

「あ、寒い?エアコン消そうか?」

「いえ、隣に行っても良いですか?」

陽菜が突然聞いてきた、敬純は深く考えないで

「何、眠れないの? いいよ」

と言ってしまう。

 陽菜は敬純の隣に寝ると顔を敬純の胸に埋める様にしてきた。

敬純はその陽菜の髪を撫でてやる。

「私って魅力が無いですか?」

「そんな事無いよ、可愛いし充分魅力的だよ、僕が後15歳程若かったら、このまま襲っていたかもね、あ、でもここの部屋壁が薄いから、ここでは無理だね」

と答えた。

「良かったです、嫌われたかと思いました」

「もしかして既成事実でも作りたかった?、僕に何かして欲しいなら、そう言う事無しでも話は聞くよ」

 こんな事は昔から何度もあるので、敬純は慣れた物だった。

そこで陽菜は自分の今の状況と、これから何がしたいか、その為にはパトロンが必要だと思っている

と言う事を素直に話した。

「なるほどね、アイドル系ってそんなに嫌なんだ」

「はい、もっとちゃんとしたモトブログにしたいです、他の娘達みたいにキャンプしたりサーキット走ったり、色々したいです、なのに変なグッズを勝手に作られるし、先月なんて、案件のショップのイベントで握手会までさせられて、今度は歌とダンスのレッスンを受けろって言われて、だから本当に事務所を辞めようと思って、さっきお風呂で真理子さんに相談したら色々助けてくださるそうです」

『さっき風呂が長いと思ったら、そんな話しを温泉でしていたのね』

「だから、あのパトロンになって頂けますか?」

「ふふふ」

敬純はつい笑ってしまった。

「あの、私何か可笑しい事言いましたか?」

「いや、ごめんちょっと遠い昔の事を思い出してね、僕はバツ一なんだけど、その元妻と出会った時に、こんな会話したなぁと思ってね」

「え、そうなんですか?」

「うん、元妻はその頃レースクイーンをしていてね、あの世界は枕とか色々あるから、それが嫌で僕に……正確には僕の父の会社かな……援助して欲しいって言う事で近づいて来たんだ、まぁ綺麗だったしタイプだったから付き合って結婚しちゃったんだけどね」

「なんか、変な事を思いささせてすみません」

「良いよ、もう慣れている」

 そう言って陽菜を抱きしめると陽菜も抱きついてきた、そして唇を重ねた。

『まぁ、これで契約みたいな物かな』

 そのまま抱き合ったままで眠りについて、朝になり

「おい、起きろ朝飯この部屋に運ばれて……あ、お前……」

と部屋の扉を開けた雅俊に呆れられた。

「あ、おはよう、え? ああ、何もして無いって、寝相が悪かっただけ」

と誤魔化したが真理子は全て察した様にニヤニヤしている。

 布団を片付けて、顔を洗いに行って戻ってくると、ちょうど朝食が運ばれてくる所だった

「これぞ日本の朝食って感じだな」

「いや、俺は朝からこんなに食えない」

「うわぁ鯵の干物、懐かしい」

「そうね、最近見ないものね」

と、朝から盛り上がる。


 そして着替えて、朝のバイク点検、

「相変わらず真面目だね」

「当然だ、お前リアブレーキ、エア噛んでるぞ、帰ったら治せよ、仮にも元レーサーだろ」

「あ、やっぱり、変だと思ったが、まぁ良いかと思って、今度持って行くから直してくれ」

雅俊は元レーサーなのに整備の方は昔から全くダメだった、手先が不器用なんだと言っている。

「真理子さん、そろそろオイル変えてね、ちょっと黒くなっている」

「はーい」

「あの渋川さん、私のバイクは大丈夫なんでしょうか?」

「うん、昨日気がついたんだけど、クラッチ少し滑っているかもね、多分半クラの使い過ぎかな、坂道発進とか苦手でしょう?」

「あ、その通りです、気をつけます」

 出発前の点検は大事だ、二輪車はちょっとした整備不良でも命に関わる事故になるからだ。


 今日は海岸沿いの136号を走って『恋人岬』や『土肥金山』と言う定番観光スポットで撮影をして、『月ケ瀬テラスキッチン』で休憩と早めのランチ、ランチの間に真理子が

「いつでも連絡してきてね、何でも相談乗るからね、まぁ必要な物は全部渋川さんに頼って大丈夫よ、なんだったら住むところも面倒見てもらいなさいね」

と物騒な事を言う。

「やっぱりか、お前あまり若い女の子を泣かせるなよ」

と雅俊は誤解をしたままだ。明日は朝から仕事と言う高村夫妻とはここで別れて、二人はそのまま伊豆縦貫自動車道から東名高速経由で東京まで戻る事になる。

「楽しいご夫婦でしたね、奥様素敵でした」

「まぁね、面白いのは間違い無いけど……」

 その後は、二台で414号で『浄蓮の滝』、『河津七滝』、例のループ橋とスポットを回って河津まで、本来はそこからまた海岸沿いを走って伊東、熱海、小田原というコースで帰宅する予定だった。

 だが、敬純は途中で予定を変更した。祖父の代から馴染みにしている熱海の高級旅館『武蔵家』の露天風呂付きの部屋が空いていたからだ。

 ここは一見さんはあまり歓迎されないし、ましてバイクで乗り付けたら白い目をされる、だが敬純は

子供の頃からこの宿に来ているし、先代の女将さんとも若女将とも知り合いなので、何も問題無い。

 さっきランチの時にトイレに行くついでに、スマホで空きを確認をして電話で予約をしておいたのだ。

『だって、まだ何も(キスはした)してないのに誤解されたままと言うのは悔しいじゃないか』

と言うのが自分への言い訳だ。

 道の駅『伊東マリンタウン』で敬純は

「熱海で温泉に入って美味しい物を食べようか?、帰るの明日でも良いよね?」

と聞いてみた。

「え、良いんですか、嬉しいです」

と陽菜は『あさぎり牛乳』のソフトクリームを食べるシーンを撮りながら、そう答えた。


 熱海の温泉旅館に着くと、インカムで陽菜の声が聞こえてくる

「え、うそ凄い、この旅館凄い歴史を感じます」

と興奮気味に話ている。正面玄関前の門は確かどっかの元大名屋敷だか城だかの門だと言う話だ。

 馴染みの番頭さんに案内されて、バイクを停めて荷物を持つ、そのまま離れの部屋まで案内してくれる、数年前にフルリノベーションをしたので外観は昔のままだが、内部は大幅に変わっていて、多くの部屋が和風モダンに改装されている。

「素敵ですね」

と言いながら陽菜は撮影をしている、なので敬純は自分が映り込まない様に陽菜の後を歩いている。

部屋は、この旅館で一番大きな和室スイートで、二間続きの純和風の部屋だ、かけ流し源泉露天風呂が売りになっている。温泉は熱海七湯「清左衛門湯」源泉から供給されている。

 挨拶に来た若女将は、陽菜を見て

「ふーん、やるわね」

と言う視線を敬純に送って来た。

 昔、子供の頃一緒に遊んだ仲なので、敬純の家庭事情も良く知っているから、今更どう思われてもダメージは無いが

「友人のモトブロガーなんだ、宿の中とか動画サイトにあげても大丈夫だよね?」

と聞くと若女将は

「他のお客様が写ったりしなければ大丈夫ですよ、ではごゆっくり」

と言って部屋から出ていった。


 そんな訳で敬純は今、露天風呂に入り、『而今 純米吟醸』の冷酒が入ったグラスの乗ったお盆をお湯に浮かべて、陽菜と一緒に月見酒を楽しんでいる。

 昨日の料理とはまた違った意味で豪華な懐石料理の夕食を中居さんの解説付きで二人で食べる……当然陽菜はそれを撮影している……そして食後に少し真面目に、色々とこれからの事を話をして、お互いの関係を確認する事になる。

 陽菜は、このツーリングを終えた後に、以前撮影した動画をあげて、その後にライブで事務所を辞める事を告知すると決めたみたいだ、契約の更新をしないだけなので、違約金などは発生しないと思うが、バイクや撮影、編集機材は返却しないといけないし、今のアパートも事務所が借りた所なので出ないと行けない……と言う事で、部屋は余っているので陽菜は敬純の家に住む事になった。

そして当然の様にモトブログに使うバイクやその他の機材は全部敬純が面倒を見る事になった。

「僕からのリクエスト聞いてくれる?」

「はい、何でしょうか?」

「ツーリング用バイクはDucati一択ね、それとヘルメットはAGVにして」

「?バイクはまぁわかりますけど、ヘルメットは何故ですか?」

「僕は昔バイクのレースをやっていたって言ったでしょ」

「はい」

「レースだからクラッシュする事も沢山有るでしょ、それで仲間が何人も死んでいるんだ、で僕も同じ様なクラッシュをした事があったけどAGVのヘルメットのお陰で頭は打ったけど死ななかった、それだけだよ、国産のヘルメットの方が品質が良いと言う人も多いけど僕はそう思わないって感じかな」

「はい、わかりましたお任せします、それって私の事大事に思っていただけるって考えて良いのですね、嬉しいです」


 と言う感じで、難しい話をそれ位にして、今は露天風呂で二人で酒を飲んでいると言う感じだ。

そして当然の様に、この夜二人は儀式を無事に終えた。

 久しぶりに若い女性とそういう事をしたので、敬純は結構頑張った。

陽菜の方も満足をした様で

「素敵でした」

と甘えてくる所が可愛い……例え演技だとしても……と思った。


 世間的に見たら、敬純に若い愛人ができたと言う評価だろうし、陽菜の方はパパ活でパトロンを見つけたと言う感じに見られるだろう、まぁそれは仕方が無い。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ