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第29章 イベント

第29章 イベント


 陽菜を連れて、例のYAMAHAの店に行く。陽菜用のR6が完成したと連絡を貰ったからだ。

 真っ白な何も塗装もラッピングもされていないカウルに包まれたそのマシンを見て、陽菜は

「思ったより小さいんですね、乗りやすそうです」

と言うのが陽菜の最初の感想だった。

「お前が見所のある若いのが居ると言うから顔を見てやろうと思ったら、そのお嬢ちゃんなのか?」

と元会長が言うと

「渋川陽菜です、よろしくお願いします」

と陽菜が挨拶をする。

「なんだ、渋川って事はお前の娘か? あれ?お前息子しか居なかったんじゃなかったか?」

「ええ、子供は息子だけです、陽菜は僕の嫁です」

と敬純が言うと元会長は顎が外れるかと思うほど口をあんぐりと開けて……敬純は、本当にこんな表情をする人が居るんだと面白くなった……唖然としている。

 敬純は、店のスタッフに支払いをして、無言になってしまった元会長に頭を下げて、R6とスペアパーツ一式をスプリンターに積んで店を後にした。

「今度モテギのライセンス講習会があるけど、どっちのバイクに乗る?」

「うーん、どっちにしようかな、来年はこの子で走るんですよね? 早く乗ってみたいかもです」

「そうか、じゃこれを持って行こうか、大至急でラッピングを手配しよう」



 いよいよ、敬純の新チームの体制発表の日が来た。

横浜のインターコンチネンタルホテルのバンケットルームに関係者を集めてチームの紹介とライダー二名が紹介される。

 敬純はDUCATI JAPANの全面的な協力を受けて、広告代理店のプランナーと綿密な打ち合わせをして、MotoGPの毎年のチーム発表会ローンチイベントを参考に、日本らしく四名のレースアンバサダーも華を添えてのイベントとなる。

 DUCATI JAPANのリンドストレーム社長がステージに最初に上がり、スポットライトを浴びて、挨拶をして二人のライダーを紹介する。

 二人の選手No.15を付ける25歳の『杉原勇』選手とNo.35を付ける22歳の『吉田耕作』選手が壇上に上がる、二人とも大人の事情でまだレーシングスーツ姿では無く、ポロシャツとスポーツジャケットと言う格好だ。

 年上の杉原選手から先に簡単な挨拶と来年の抱負が語られて、ステージの中央に赤いカバーを掛けられた二台のマシンに二人が進んで、カバーを外した。

 新しいデザインのラッピングがされた二台のマシンが露わになると、会場から騒めきが上がる。

ここで敬純がリンドストローム社長に紹介されて壇上に登る。

「皆様、本日は『ASX 湘南スポーツライダーズ DUCATI』のイベントにお越しいただいてありがとうございます、私の経歴については、プレス用の資料をご覧いただければ幸いでです、最初にお詫びですが、本日飾られているマシンは、市販型のV4Rで、来年使用するワークス仕様のマシンではありません。

 では、等チームのメインススポンサーである、ASX インベストメントグループのCEO、『ラシード・ビン・ムハンマド・アール・マクトゥーム氏』からのご挨拶をお聞きいただきます。

 その名前を聞くと

「本当か、ドバイの王子だぞ」

と言う声が聞こえた。

 会場が暗くなり、スクリーンにアラブの伝統衣装に身を包んだラシード氏の姿が現れた、彼は日本語で『こんばんわ』と挨拶をした後に、朗々としたアラビア語で挨拶をした、その内容は日本語字幕で紹介刺される。

「我々はF3から初めてF2、F1とモータースポーツの部門で成功を収めている、この度日本のJSB1000クラスのレースに関われる事に大変喜んでいると共に大いに期待をしている、将来はこのチームが世界に羽ばたきSBKのステージに登ってくれると信じている」

と語った。

 敬純はその後、セカンド、サードのスポンサーの名前を紹介して、チームのテクニカル・マネージャとしてDOCATI本社から派遣される『Federico Menotti』を紹介した。

 彼も壇上に上がると、リンドストレーム社長と握手、敬純には日本風のお辞儀をしてから、二人のライダーと硬く握手をして、イタリア語で挨拶と抱負を述べたる、これは同時通訳でスクリーンテロップが流された。 彼の口から来年の鈴鹿八時間耐久レースにも参加すると言う事が表明されて、会場はどよめく。

 ここまでの経過で会場の誰もが、このチームの『本気度』を察した事だろう、その後は敬純の音頭で乾盃があり、立食パーティとなる。

 敬純がゲスト達の間を挨拶して回っていると、吉田耕作選手の父親から挨拶をされた。

 彼は敬純の五歳年下で、敬純が引退した後にレースの世界で頭角を表した人物で、96年の鈴鹿8耐で優勝、その後SBKやMotoGPにも参戦して、SBKのDUCATIワークスチームに所属していた事もある人物だったので敬純は驚いた。

「え、?吉田選手のお父上なんですか?、全く知りませんでした、いや道理で速いわけだ」

「息子には親の七光でレースをするなと常々言っていますからね、渋川さんが純粋に息子の才能を認めて採用していただいたと言う事で、親として誇りに思っています、本当にありがとうございます、息子をよろしくお願いいたします」

と言って、敬純と硬く握手をしてから、会場内にいる彼の長年の友人である亀山会長と並んグラスを傾けている。

 陽菜は今日は以前敬純が買ってあげたドレス姿で、会場の様子をレポートしている。

これは、公式チャンネルを通じて後ほど配信される予定だ。

 もうすぐ自分のチャンネルでのLive配信の重大発表の日が近づいているので、少し緊張気味かもしれない。

 ゲストで呼ばれていたいつものDUCATIディーラーの店長から

「あれ、来ましたよ、いつでも取りに来てください」

と声をかけられた、この『あれ』と言うのは敬純がオフシーズンのトレーニング用のオフロードバイクで

DUCATI初のオフロードバイクとなる『Desmo450 MX』の事だ。

「ありがとう、明日はまだ無理そうだから、明後日にでも取りに行くよ」

と言って、今日の感想を聞いてみた。

「マジで結構感動しましたよ、日本のレースでこんなシーンが見られるとは思って無かったですからね、

ウチのステッカーもちゃんと貼っていただいてありがたいです」 


 こうしてチームの発表会とライダー紹介を兼ねたイベントは無事に終了した、一息ついた敬純は、その翌週の土曜日V4RとR6を積んでスプリンターで『モビリティリゾートもてぎホテル』に向かう事になる。


 レースの時のイメージがあるのか、閑散としているモテギを見て陽菜は

「なんか寂しい感じですね、普段はこんなに何にも無いんですね」

「そうだね、まぁ富士だとレースの時だって、こんな感じだけどね」

そう言うと陽菜は楽しそうに笑っている。

 敬純は例によって大浴場に浸かって、陽菜は今日はパスだそうだ。

夕食はホテルの夕食ビュフェ、まぁまぁの量と味だった。

 翌朝はのんびりとチェックアウトして、コントロールタワーで受付、そのあとブリーフィングルームで陽菜の隣で座学のクラスが始まるのを待つ。

 クラスが始まると講師……顔見知りの元レーサー……が

「あれ、渋川さんじゃないですか、あの付き添いの方は、外で待っていて頂く事になっているんですが」

 と言われたので、敬純は参加証を見せて

「いや、俺も講習を受けに来たんだ、俺ここのライセンス持ってないからな」

「え、そうなんですか、いや、めちゃくちちゃ遣り難いな、勘弁してくださいよ」

と苦笑いしている。

 結局ランチ休憩を挟んで、座学が三回、実技走行が二回あって長い講習の1日が終わった。

ちなみに敬純は二回目のフリー走行で、2分の壁を2周目で突破して、1’55”台で走行を終了した

「渋川さん、このコース今日初めて走ったんですよね?」

「ああ、俺の現役の頃にはここまだ出来てなかったからね」

「いや、マジで驚きました」

 そして陽菜もST600クラスのR6で、ラスト3周で2分を切り最終ラップで1'58"台を出して終了。

「うーん、ストレートもう少し速い方が気持ち良いのに」

と文句を言っている。

 これで二人ともここのコースの走行区分『2Aクラス』で走れる様になった。


 帰りの高速で陽菜は、少し心配そうな顔で

「私、来年レースに出て大丈夫そうですか?」

「うん、そのバイクにもう少し慣れて、コースを走り込めば全然問題無いね、Panigale V2Sで走った事が良い経験になっていると思うよ、普通はST600のバイクでも初めて乗るとアクセル全開には出来ないけど、陽菜は最初から全開にできていたでしょ」

「はい、このバイク、ストレートは遅いけど、軽いのでコーナーが凄い楽です、あともう少し安定して走れればもっと良いんですけど、なんか滑ったり前輪が上がったりするんですよね」

「あ、言い忘れていたけど、そのR6はレギュレーションで電子制御が限定的なんだ、V2Sみたいにトラクションコントロール(TCS)やローンチコントロール(LCS)は使えないから、その分慎重なアクセルワークが必要なんだよね」

「えー、そう言うの先に言ってください、知らなかった」

「いや、全然問題無く乗りこなしているから大丈夫だよ」

 敬純は数週陽菜の後ろを走って、陽菜がほぼ完璧にR6を乗りこなしている事を確認している。

才能と言う面では、陽菜は敬純をはるかに凌ぎ、吉田選手と肩を並べる位だろうと思っている。


 そして陽菜にとっては運命の日がやってきた。

陽菜は、モテギでの走行シーンをサムネにして、ライブ配信を始める。

「今日は皆様に重大な発表があります、すでにSNSで話題になっていましたが、私の名前は『渋川陽奈』と言います、このチャンネルの『ゆかりん』と言うのは、以前所属していた事務所が最初に売り出そうとしていたタレントさんの名前だったんです、ただ彼女は二輪の免許を取る事ができなかった為に急遽私が代役として、事務所の用意した『ゆかりん』と言うキャラクターを演じていました。

 私の初期の動画と、事務所を辞めた後の動画のキャラが全く違う事に、疑問や不満を持たれていた登録者や視聴者の皆様には、深くお詫びをいたします。

 ここまでで、コメント欄は陽菜に好意的な物が多い、だが以前の『ゆかりん』のキャラが好きだったと

言うコメントも数多くある。

 そして陽菜は爆弾を投下する。

「また一部の方が言われていましたが、私が渋川敬純の娘であると言う話なんですが……」

そこで、陽菜は言葉を止めて、左の手をカメラの前にかざした、そこには敬純が送ったエンゲージリングとウェディングリングが輝いている。

「待って、嘘だろ?」

「やめてくれ〜」

「え、誰かと結婚していたって事、独身じゃ無かったの?」

とコメント欄は阿鼻叫喚になる。

「私は渋川敬純の娘ではありません、妻です、今まで誤解をさせる様な態度をして申し訳ありませんでした」

 コメント欄はほぼ炎上状態になった、

「渋川敬純って、この間の配信のチームのオーナー監督だよね?」

「そう、『サバトラ』ってチャンネルでゆかりんとツーリングのコラボしてた」

「あ、そうか、だから一緒にイタリアに行ってたのか」

「嘘だろう、だいたい歳の差幾つなんだよ、ありえない」

「いや、ゆかりんがサバを読んでいたって事じゃない?」

 陽菜は続ける

「今日で、『ゆかりんチャンネル』としての配信は最後になります、次回からは『陽菜のチャンネル』

と言う形で、来年私が挑戦するST600クラスのレースの話題や、旦那様のチームの話、それに今まで通りのツーリングのネタなどを配信したいと思っています、引き続き応援をお願いいたしますね」

と言って頭を下げて、手を振って配信を終了した。

 そして直ぐにチャンネル名を変更、アイコンも違う物に変えた、合わせてSNSも色々と変更して行く。


「敬純さんとうとう言っちゃいました、これでみんな居なくなっちゃうかな」

と陽菜は涙ぐんでいる。 

 コメントには明らかに歳の差婚を受け入れない、と言うか嫌悪するコメントもかなりあったからだ。

「僕は、仮想のキャラ『ゆかりん』より『陽菜』の方がずっと好きだよ、だから良い事だと思っている、これからも自分の好きな様に配信をすれば良いと思うよ、それで一時的に登録者が減っても、それは仕方が無いかな、また増やせば良いんだし」

 陽菜と敬純のスマホが同時に鳴る、陽菜の方は真理子さん、敬純の方は雅俊だった。

「おい、見たぞ思い切った事しやがって、良いかもう二度と陽菜ちゃんを泣かせるなよ、お前がちゃんと守れ、そうじゃないとお前とは縁を切るぞ、陽菜ちゃんは俺達にとっても娘みたいな物だからな」

と言う叱咤だが激励だがわからない電話だった、雅俊夫妻には子供が居ない、だから最初から真理子さんも陽菜の保護者の様な立場で接していたのはわかっている。

「真理子さんから、良く頑張ったって褒めてもらった、自分らしく生きなさいって、応援してるって」

と陽菜は涙目になっている。

そしてその後も例の陽菜の親友からも激励の電話があった。


 敬純の方はSNSを見ると、陽菜の方とは逆に、賞賛8、非難2位のコメントになっている。

特に比較的年配の男性のコメントは

「男の鏡」

「中年男性の星」

「嫁さん20なんて羨ましすぎる」

みたいな内容が多い、そして批判コメントは

「気持ち悪いです」

と言った女性からのストレートな物もあった。

 まぁ敬純は賞賛も非難もどちらも全く気にしていないので、どうでも良い。

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