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第25章 世界チャンピオン

第25章 世界チャンピオン


 決勝レースの日だ、宿をチェックアウトして……フロントで雅俊夫婦にあった。

「え、なんだお前らもここに泊まっていたのか?」

「ああ、木曜日から全然気が付かなかったなぁ」

 そう言いながら荷物を持ってパーキングに行く。

「なんだ、車買ったのか?」

「いやこれレンタカー、GT-RやMINIだと長距離は辛いから」

 そう言う雅俊達の車は、以前と同じPorscheのCayenneだが、色が違う。

「なんだ、お前の方こそ新車に買い換えたんだ」

「そうなんですよ車検に持っていったら良いのがあったって、勝手に契約しちゃったんです」

と真理子さんは不満そうだ。

「へぇー、あ、これハイブリットモデルのターボ?、お前車でも免許なくなるぞ」

「馬鹿、車の時は大人しく走っているよ」

雅俊の新車は『Cayenne Turbo E-Hybrid Coupé with GT Package』と言うハイパワー車で見た目はSUVだが、739PSで最高速300kmを超える化け物だ。確か価格は3000万近いと思う。

「お前、あくどく稼いでいるんだな、恨みを買うぞ」

「言ってろアホ、それより聞いたぞ、あれ本当なのか?」

「ああ、公式にアナウンスされたよ、来年は忙しそうだ、お前の所に若くて速い奴いない?」

「残念だが居ないな、東京では若い奴がバイクに乗らないからな」

 雅俊の所属する『World Wide Racing』 も名門で昔はYAMAHA系の準ワークスチームだったが

今の状況は敬純のチームと変わらない様だ。

「そうだよなぁ、全日本のSBJ1000のライダーリストを見ても、昔ならとっくに引退している様な歳の奴ばかりだからな、困った物だ、お、いかん混む前にゲートを抜けないと、また後でな」

 そんな訳で、敬純は混雑をしているメインゲートでは無く、関係者用のサブゲートを通り、またパドックに車を止めてコーヒーだけ貰いにプレハブに、今日の朝食は、本来の自分の観戦用シートの方で提供されるビュッフェを利用する、結構豪華なビュッフェになっていて陽菜は

「えー、私こっちの方が良かった」

と言っている、ヨーロッパ人の朝食は質素なのだから仕方が無い。

 この席でも陽菜は目立っている様で、注目を集めているのが敬純にもわかった。

二人で並んで窓際の席で、のんびと観戦する、お酒も飲み放題だが、帰路の運転があるので控える事になる。

「お前達どこに居るんだ?」

雅俊からのメッセが入った、返事をすると雅俊達は近くのVIPスイートに居るらしい。

残念ながらお互いの席を行き来する事はできないので、今日も別行動と言う事になる。

 MotoGPのWarm Upから始まる今日のプログラムも順調に進んでランチもまたビュッフェで食べて

「和食は殆ど無いんですね」

と陽菜は残念そうだ

 そしてメインレースが始まる。

三位争いは中々見どころが有ったが、それ以外は退屈なレースかと思っていたらラスト10週で63のバイクから白煙が上がるシーンも有った。

「はい、わかりました、そちらに行きます」

 残り9周で、どうやらDUCATIのワンツーフィニッシュになりそうと言う事で陽菜にお仕事の要請が来て、専用通路でパドック側に行く、すぐに広報スタッフとあって、陽菜は撮影開始。

 レースに勝つシーンをピット内から録る為だ。敬純もファクトリーチームのピットで最後のラップを見守る、レースは63番Francesco Bagnaiaが久しぶりの優勝を果たしたが、今年の世界チャンピオンは二位に入った93番Marc Marquezがこのレースで決定した。レースキャリアを終える程の事故からの復活劇で、6年ぶりに7回目のMotoGP世界チャンピオンを獲得と言うシーンをこの目で見られたのは敬純も陽菜も幸運だった。チャンピオン決定の特製シャツを二人も渡されて着る事になり、広報さんとピットの熱狂ぶりを録画中継している陽菜ももらい泣きをしている様だ。コース上で行われたチャンピオン決定のセレモニーも最前列で見学する事ができたのは良い思い出になった、そして敬純も陽菜もレース後のパーティに誘われたが、流石にそれは辞退する事にした。敬純はこのチームのゲストであって関係者では無いからだ。

 表彰式を終わって、陽菜のお仕事も終わり、広報さんやチームのメンバー達に手を降って帰路に着く。

51号の渋滞が酷かったが、快適な車なので問題は無い、常磐道に入ると渋滞も無くなり陽菜は疲れたのかうつらうつらとしている。

「眠かったら寝ても良いよ」

と言うと陽菜は無理にでも起きて居ようと敬純に話しかけて来る。

「凄かったですね、感動しました」

と陽菜が言っているのは、本当にそうだったのだろう、敬純も久しぶりに感動をした気がするからだ。

歳を取ると感動しなくなると言い『感情の老化』などと言われるが、敬純は自分がまだこんな気分になれる事に少し驚いている。


 途中一度サービスエリアで休憩して、11時過ぎには家に着いた。

明日はこの車を横浜まで返しに行かないといけないが、敬純はその足でAUDIのディラーに寄るつもりでいる。

 

 月曜日の朝、陽菜の手作りの朝食はやはり美味しい。

「味噌汁、味噌を変えた?」

「はい、前の味噌が丁度無くなったので、買い置きしてあった、『鎌倉味噌』を使ってみました」

「そうか、なんて言うか家の味に近くなった様な感じだね」

「敬純さんのお母様の味ですか?」

「いや、僕の家では料理は女中さん、あ、お手伝いさんか……の仕事だったからね、でも家の味みたいのはあったよ」

「やっぱり昔からお金持ちなんですね、私とは住む世界が違っている」

「何?今は一緒に住んでいるから同じ世界にいるでしょ」

「本当にそう思って良いんですか、私今敬純さんに捨てられたらもう生きていけません」

「何、急にどうしたの?」

「だって、この家に来てからずっと色々と楽しすぎて、夢見たいな事ばかりあって、それで当然

全部夢でしたってなったらどうしようかと」

「少し落ち着いて、全部大丈夫だから、なんで突然そうなったの?」

「昨日、モテギが楽しすぎて、良く眠れ無かったんです、それで自分の昔の動画を見ていたら、もう

絶対にこの頃には戻りたく無いって思って、それで、でももし敬純さんに飽きられたらどうしようかと思ったら、心配で心配で、ごめんなさい」

『あ、またこれはメンヘラが発症している』

「ここにおいで」

 敬純は陽菜を抱きしめてキスをした。そのまましばらく抱いたままで背中を撫でてやる。

「落ち着いた?」

「はい、もう大丈夫です」

「僕は、あの車返しに横浜まで行くけど陽菜はどうする?」

「一緒に行きます」


 約一週間世話になったAUDI Q8に乗って、横浜まで行き、ガソリンを満タンにして外車専門のレンタカー店に返却、そこからタクシーで帰宅、横浜駅からJRか京急で帰ろうとも思ったが結局楽な方を選んでしまった。

 そしてGT-Rで平塚にあるAUDIのディーラーに行く。

もちろん陽菜も一緒だ。

 セールスの人と話した結果、Q8では無くRS Q8の方が楽しそうで、車体色も赤が在庫であると言う事なので、それをオーダー、納車までには一月以上かかるとの事だが、仕方が無いだろう。

「あの車、気に入ったんですね」

「うん、これから車で遠出をする機会も増えるかもしれないからね」

 その足で、伊豆の別荘の進捗状況を見に行く事にする。そろそろ、色々と終わっているはずだからだ。

「こういう道を走るのは最高に楽しいんだけどなぁ」

久しぶりのGT-Rで箱根と伊豆を走りながら陽菜に話す

「バイクでここをまた走るの楽しみですね」

「そうだね、リフォームが終わっていれば良いね」

 別荘に着くと、まだ工事の車両が何台か周辺に停まっていて、どうやらガレージは終了している様だ

中に入ると、デッキ部分の工事をしていて、当初の予想より痛んでいる箇所が多くて時間がかかっているとの事だ、室何のキッチンや水回りは終わっていた。

「キッチンキレイになったね、これで料理が捗るかな?」

「はい、外のキッチンも良いですね、またあのお肉を焼いてください」

 陽菜は敬純が誕生日の時に焼いた骨付きのリブが気に入っている様だ。

「邪魔しちゃ悪いから、帰ろうか、途中で美味しい海鮮丼でも食べていこう」

「はい」

 今週の金曜日には仙台に行くので、それまでにしなくてはいけない事が色々ある。

そして、そんな敬純の元には、数人のライダー達からレース履歴書が届き始めている。

敬純は真剣にその履歴書を読んで検討を始めた。

 それと並行して、今所属しているチームの会長と話をして、今後の事を相談した。

敬純の希望としては、プロフェッショナルとしての活動をする為には、チームをプロ部門とアマチュア部門に分ける必要がありプロ部門は会社組織として運営したいと希望していると伝えた。

 つまりメカニックやサポートスタッフを雇って、本格的なレーシングチームとして運営する、アマチュア部門は、同じチームだが今まで同様の活動をする別部門と言う形にしたいと話した。

「凄いですね、本当にそんな事ができるんですか? あのその活動の資金はどうされるんですか?」

この会長、中谷は趣味でバイクのレースをやっている会計士だ、なので最初に興味を持ったのはそこだった。

「資金は余裕だよ、スポンサーは何社か当てがあるしね、それでどうかな賛同してもらえるとありがたい、そうで無いと新たなチームを設立しないといけないし、僕としては今のチーム名に愛着があるからね」

「そうですね、ウチのチームの黄金時代は30年以上前の渋川さんの現役の頃ですものね、わかりました喜んで会長の座をお返しいたします」

「ありがとう、中谷さんには引き続き副会長としてアマチュア部門の統括をお願いします、会社化する事でアマチュア部門の会員達にもメリットが出る様な方向で行きたいと思ってます」

 こうして、敬純は古巣のレーシングチームの会長に就任し、雅俊に依頼して『Shonan Sports Riders株式会社』を正式に立ち上げた、英語名は『Shonan Sports Riders INC.』となる。


 そしてチームの本拠地となる『ファクトリー』となる場所を探す事になる。

 知人の不動産屋……元々は父の知り合いで、敬純の昔の六浦東の家や、鎌倉の実家の処分、今の葉山の家の購入、それに先日の別荘の名義変更等と頼んだ所……に頼むと、葉山で数年前に廃業した軽自動車の販売店跡を見つけて来てくれた。

 ショールームと整備用のピット、広いパーキングと言う敬純の希望通りの物件だったので、即決で契約

居抜きでの購入になるので、直ぐに長男に連絡して、資金の移動を依頼した。

 「今度は何を買うの?」

と言う翔に、DUCATIの支援を得て、レーシングチームを会社組織として設立した事と、その本拠地として物件を購入すると言う事を話した。

「へぇ、面白そうだね、レーシングチームって事はスポンサーとかが必要なんだよね、俺の投資会社スポンサーになってあげようか? 今もF1チームをスポンサーしてるから」

「え、そうなのか、そんな投資会社の話は聞いてないぞ」

「あれ、言って無かったっけ?、ちなみに親父も社外役員になっているよ、ちゃんと報酬も払っているんだけど」

「いや、俺は知らんぞ」

「投資口座のポートフォリオを見てないの?毎月報酬入っているでしょ」

「悪い全然見ていなかった、まぁ増えてるなら良いかな位で……」

「まぁいいやF1の方は1000万€だから、その半分位で良いかな、チームの方の口座教えて、振り込んでおくから」

「ありがとう、助かるよ」

 敬純は€と言う単位の金額が良くわからなかったが、500万€と言うのは日本円にすると9億円と言う

とんでも無い金額だった。そして更に、次男の翼も翔から話を聞いたのか、自分の会社の広告予算から

200万$を拠出してくれた。更に弟の会社の広報も例のホイールの宣伝予算から1000万円と、これにより敬純のチームは正式発足前から潤沢な資金を得た事になる。

 

 そして金曜を迎えて、敬純は陽菜と一緒にスプリンターに二台のPanigaleを積んで、一路東北道を仙台へ、今夜の宿『篝火の湯 緑水亭』に向かう、途中の休憩を入れると六時間越えのドライブになる。

 それでも、昔の様にマニュアル車の乗り心地の悪いバンとは違い、スプリンターはバンでもかなり乗り心地が良いのでそれ程苦にならなかった、そして陽菜がポットに詰めたコーヒーと自分で焼いたクッキーを車内で食べれらる様に用意してくれていた。

「いつも、ドライブ中に何か出来る事は無いか考えていたんです、これ位しかできないですけど」

「いや、甘い物とコーヒーは助かる、クッキー美味しいね」

 ホテルに着くと

「うわ、大きいホテルなんですね」

と陽菜は驚いているが、敬純も驚いた、立派な庭園があり、バブルの頃には団体観光客でかなり流行っただろうと推測できるホテルだった。

 部屋も広くて綺麗で部屋の露天風呂も満足だ、以前は一緒に部屋の風呂に入らないと機嫌が悪くなった

陽菜だが、モテギ以来少し落ち着いたのか、大浴場・露天風呂に行こうと言っても大丈夫になっている。

 風呂から上がって部屋で夕食、『仙台牛ステーキ』と『活き鮑酒蒸し』がメインの豪華な夕食とそれに合わせたお酒で、最高の気分になった。

 ちなみに今回の旅も陽菜は『SUGOのサーキットライセンスを取りに行きます』

と言う動画にする予定なので、当然色々と撮影をしていた。

 レースの後、陽菜のチャンネルの登録者が大台の100万人を突破したので更にやる気になっている様だ、敬純の方は、色々と多忙になって来たのでチャンネルは放置状態になっている。

 食事の後はお酒を持って、部屋の露天風呂でのんびりとする。

明日は、朝9時半にサーキットで受付すれば良いので、少し遅めに起きて、朝食を食べてチェックアウトすれば大丈夫だろう、そんな訳で今夜は敬純は頑張った。

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