第24章 レース観戦は楽しい
第24章 レース観戦は楽しい
宿に戻って、今夜は大浴場の露天風呂に行く、陽菜の顔色からはあまり乗り気では無い様だ、明らかなに部屋の風呂に一緒に入りたいと言う表情をしている、だが、せっかくこの部屋に付いている露天風呂は何故か温泉では無いからだ。
そして、温泉から上がって、今夜の豪華な美味しい料理を食べて……ただここは海が無いのでどうしても肉と野菜と言う感じのメニューになるのは仕方が無いが、美味しい刺身や焼き魚に目がない陽菜は少し残念そうだ。
二人で布団に入って、お話タイム。
「今日の午前中は、あの眉毛さんと何の話をしていたんですか?」
「Ducati Corseのテクニカルアドバイザーになった、それとイモラで僕が乗ったSBK仕様のファクトリーマシンを一台提供してくれる事になる、来年はそのバイクで全日本に出る事になるかなぁ」
「凄いですね、でも大丈夫ですか、体が心配です」
「あ、乗るのは僕じゃ無い、僕はチームの監督と言う事になるのかな、だからこれから誰を乗せるか決めないといけないけど、若くて速い奴が居れば良いんだけどね」
「監督なんですね、良かった、心配させないでください」
「来年は、陽菜にもちゃんとしたレースに出て欲しいと思っているし、ウチのチームももう少し本格的にしないとダメなんだよね、そこが頭が痛い」
「私、何でも手伝いますから言ってくださいね」
「ありがと、そうだ、今日は登録者の人達と会えたの?」
「はい、たくさんの人に囲まれましたけど、広報さんがガードをしてくれていたので安全でした、真理子さん御夫婦にもお会いしましたよ、雅俊さんが『敬純はどうした』って言ってました」
「あいつ、今日の話を聞いたら驚くだろうなぁ」
「俺を乗せろって言いそうですね」
「それなら僕が自分で走るよ、まぁ本当の所を言えばあと20歳若ければ自分で走りたかったな」
「来年は無理ですけど再来年は私がそのバイクに乗れる様に頑張りますね」
「ああ、そうだねそれが一番良いかな、話題になるし……来年の話をすると鬼が笑うって言うけど再来年の話は誰が笑うんだろう?」
「敬純さん、そう言う諺みたいなの好きですよね、良く言ってますよ」
「そう?本人は意識して無いんだけど、さて寝ようか、お休み」
「お休みなさい」
と良いならがら陽菜はしがみついて来る
『本当に可愛いよなぁ』
そう思って目を閉じた
土曜日は昨日よりずっと混雑をするので、宿を少し早めに出た。
既にゲート前は混雑しているが、敬純は昨日チームスタッフとしてのパスをもらっていたので、関係者用のゲートから入る事ができた。パーキングもパドック内に停められる事になる。
今朝も陽菜と一緒にDucatiのプレハブで朝食、陽菜は昨日各チームのピットを回ってインタビューとかしていた様で、ライダーだけでは無く、メカニックやエンジニア達とも顔見知りになっている。
そして、彼らもイタリア人とスペイン人、みんな乗りが良いので変わる代わる、陽菜に愛の言葉を囁いて、陽菜が翻訳アプリで見て大笑いしているのを楽しんでいる。
敬純はこんな雰囲気が好きだが、昭和の体育会系を引きずっている、日本のメーカチームなら責任者辺りから『仕事中にふざけるな』みたいな感じになるのだろう。
広報さん達が昨日撮影していた陽菜の動画は、既に編集されて公式サイトに『ゆかりんのMotoGP』としてアップされていて、好評の様だ。見ると水曜日パーティの様子もUPされていて、こちらもかなり好評だ。同じ物が配信サイトの公式チャンネルにもアップされていて、こちらはコメントが書き込めるので。
「ドレス可愛いい」
「え、ヴェルサーチェ?」
なんて言うコメントが多い。
陽菜のチャンネルの方は自分のスマホで撮影したショート動画が何本か挙げられていて、こちらも
かなりの数の視聴数を稼いでいる。
今日も陽菜は二日目のレポートと言う事で、朝から忙しく働く事になるらしい。
昨日の夜の約束もあるので、今日は敬純は撮影の邪魔にならない程度に陽菜の側にいるつもりだ。
そんな訳で広報さん達と朝からカートに乗って、サーキットのあちこちに移動して撮影。
敬純は改めて陽菜の人気に驚かされた。
ランチ休憩の時に敬純はサーキットのコントロールタワー一階のオフィスを訪れた。
「はい、何か?」
職員はDUCATIのチームシャツとIDを首から下げた敬純を見て、少し緊張した
苦情でも言われるのかと思った様だ
「あ、すみません今日のレースとは全然関係無い個人的な質問なんですが」
「はい?」
「このサーキットの走行ライセンスはどの様にして取れば良いですか?」
「は?あのお客様が取られるのですか?」
係員は敬純の顔とIDを交互に見比べる、敬純の事は知らない様だ。
「ええ、僕ともう一人ですが」
「失礼いたしました、当コースのライセンス所得の方法は何種類かあるのですが、今年のプログラムは殆ど終了していまして、えーと11月23日に今年最後の『MCoMライセンススクール』がございます
WEBから登録できますのでそちらでお願いいたします」
と言う事だ
敬純は係員に礼を言って、オフィスを後にした。
陽菜はその間に、キッチンカーのエリアで『ナイアガラ食堂』の『鰻丼』と『宗谷岬 間宮堂』の『帆立のバター焼』を食べられて喜んでいた。
「美味しかったですよ、ランチちゃんと食べたんですか?」
「あ、うんパニーノを食べたから大丈夫」
陽菜と一緒に居る様になってから三食ちゃんと食べてしかも結構な量なので、敬純は最近意識して量を減らす様にしている。
ちなみに午前中の予選はトップに63番、二位が珍しくHondaの36番Joan Mir選手、三位は93番だ、スプリントレースが始まる3時までは暇なので、また陽菜のお仕事にお付き合い。
Ducatiブースの特設ステージでのDUCATIオーナーの女性達のトークショーが有り、敬純は見ているだけのつもりだったのが、ステージに登らされた。
「お父さん、『ゆかりん』さんを僕にください」
なんて掛け声がかかる位に、敬純、陽菜親子説は完全に浸透している。
昨日の発表を既に知っているレースファンからは
「来年頑張ってください」
と言う暖かい応援もあった。
一応の挨拶をしてステージを降りると、声をかけられた。
「渋川さん、少しお時間をいただけますか?」
「須走さん先日はお世話になりました、良いですよ、ちょうど僕は今暇ですから」
と言う事でコーヒーを飲みながら、話をする。
「昨日の件ですか?」
「ええ、ライダーの選抜はどの様に?」
「速そうな若手が居たら声をかけてみようと思うのですが、既に紐付き(各メーカーと契約している)の選手が多い様ですね。海外からの帰国組も視野に入れて、考えようと思ってます」
「現在の参加クラスは考慮されますか?」
「JSB1000クラスの選手はもう来年のチームが決定している様ですね、なのでST1000クラスの若手が良いかなと思ってます、須走さんどなたか心辺りはありますか?」
「いえ、ウチのはまだそこまでの実力は無いです、あのチームはどうされるのですか?」
「そこに悩んでいるんですよね、ウチは昔はYAMAHAの準ワークスでしたけど、今は地方選手権やクラブマンレースメインのアマチュアしか居ませんからね、メカニックも募集しないといけないし、このレースが終わったら、付き合いのあるディーラーに声を掛けて協力をしてもらおうかと思っているんです、須走さんは来年もHONDAで走るんですか?僕より歳上なのに凄いですよね、そう言えば一時はPanigaleで出場されてましたけど、どうしてHONDAに?」
「いやぁ、お恥ずかしい話ですけど、資金面でね、やはり国内メーカーの方が色々と安いですから」
「そうですよね、それはわかります、ああ、そうだ僕と後一人SUGOのライセンス取りたいんですけど、どうしたら良いでしょう?」
「確か講習会が10月4日にあります、参加されますか?って、渋川さんライセンス持ってますよね?」
「いや僕のはもう30年前に切れてますからね、再発行とか無理ですよね?」
「ああそうか、ずっと現役で走られていた訳では無いのでしたね」
「ええ」
「WEBの方から申し込みできますので、お願いします、最近はなんでも全部ネットが無いとダメで
私などは大変ですよ」
「はは、本当にそうですよね、頼りになる先輩が居て良かったですよ、また相談させてください、ありがとうございました」
敬純はそう言って席を立った。
もちろん須走の本当の目的はわかっているが、敬純も須走もそれを口にする事は無かった。
この日は他の全日本のレースに参加している選手やチームの代表何名かとも話ができた。
当然、みんなMotoGPを観戦しに来ているのだ。
『帰ったら忙しくなるだろうなぁ』
と思う敬純だ。
陽菜は今日のスプリントレースは『ドゥカティ ビクトリースタンド』でファン達と一緒に見る事になっているそうだなので、敬純も一緒にスタンドに移動した、ここは本来のメインスタンドでは無く、今は使用されていないオバールコースのストレート部分に特設されたスタンドだ。
12周で行われたスプリントレースは63 番が久しぶりに優勝、二位が93番と言う事で応援席のは大いに盛り上がり、特に93番が三位の37番、四位の36番との競り合いを制して前に出た時の歓声は素晴らしかった。
「レースって観客席で見る方が盛り上がって楽しいですね」
と言うのは陽菜の感想だ、陽菜のお仕事はこれで一応終了で、日曜日はもしDucatiの選手が勝てば、
表彰式の様子の撮影があるそうだが、それ以外は予定が無いそうなので、明日はせっかく購入したのに殆ど活用していないエグゼクティブスイートの観戦席でのんびりしようと思っている。
パドックに戻って、車に乗って宿に戻る事になる。
「この車どう思う?」
「乗心地良くて格好良いですよね、どこの国の車なんですか?」
「AUDIはねドイツの車、実はこの会社が今はDUCATIの親会社って事になっているんだ」
「そうなんですか、これ?高いんですか?」
「うん安くは無いね」
と言う会話をしながら宿に到着、すぐにまた温泉に行く。
温泉から出たら今回持って来ている MacBook Proを開いて昼間教えてもらったサイトに行き
仙台のSUGOのライセンス講習会を二人分予約、敬純の記憶ではこのサーキットにはサーキットホテルが有った筈だが、今は無くなっている、なのでサーキットから30分程の『篝火の湯 緑水亭』と言う
温泉旅館を確保、部屋は例によって露天風呂付きの特別室 星物語 『満天の夢』と言うちょっと恥ずかしくなるネーミングの部屋を選んだ、この宿は食事も美味しそうなので期待できそうだ。
次にモテギの『MCoMライセンススクール』を二人分予約、ついでにサーキットのホテルである『モビリティリゾートもてぎホテル』も予約、『グランルーム』と言うセミスイート的な部屋が取れた。
このホテルはサーキット内にあるのだが、MotoGPなどの大きなレースの時は一般の客の予約は受け付けていない。11月は当然レースでは無いので空きがある様だ。
そしてネットでググって筑波が11月5日、鈴鹿が12 月 26 日と言う事で
とりあえず必要なサーキットのライセンス講習会の予約は終了した。
あとは陽菜の来年用のST600クラスのバイクの手配だが、それは帰ってからになる。
一通り終わって、DUCATIの公式サイトを見ると陽菜の今日の動画が上がっている。
陽菜は最後に、
「明日は決勝レースです、皆様応援に来てくださいね」
と手を振りながら話して動画を終えている。
「陽菜偉いね、ちゃんとDUCATIの公式モトブロガーの役目を果たしている」
と褒めると陽菜は嬉しそうだ。敬純はその陽菜の表情に既視感があって、少し考えて思い出した
『サバ』……敬純が一緒に暮らしていたメスのサバトラ猫……が狩りをしてお土産を持って来た時の
得意気な表情と似ているのだ。
「陽菜って猫系?」
「え、なんですか急に、私は犬系だと思ってますけど忠犬陽菜公って感じです」
「へぇ、犬系なんだ、お手!」
「わん!」
陽菜はそう言うと躊躇わずに手を出した、そして
「もう、何をさせるんですか」
と膨れている。
「やっぱり陽菜は可愛いね」
「敬純さんのバカ!、あ、お疲れでは無いですか腰のマッサージしましょうか?」
「ありがとう、頼むかな」
と布団の上にうつ伏せに横になる、あ、待てよこのパターンはと思ったが遅かった、今夜はお勤めをする事になった。




