表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/30

第21章 MotoGP

第21章 MotoGP


 ルームサービスで朝食を食べて……イタリアの典型的な朝食、カプチーノとブリオッシュだけと言うのに陽菜は不服そうだ。チェックアウトして、迎えの車に乗り車で一時間程で

『Autodromo Internazionale Enzo e Dino Ferrari』通称イモラ・サーキットに到着。

直ぐに更衣室で着替えて、今回の『DRE Racetrack Day 』プログラムにヨーロッパ中から参加しているPanigaleのオーナー達と一緒にミーティングに参加、男性が9割で、皆裕福そうな感じだ。

 敬純と陽菜は特別参加の日本のレーサーと言う紹介で、先月撮影したStreetfighter V4SP2の動画が流れると、みんな驚いている、欧米人からはアジア人、特に日本人は若く見られる、日本でも高校生と間違われる位若く見える陽菜は、彼らの目には子供にしか見えないからだ。今回は撮影は全て広報スタッフがプロのカメラマンを使ってしてくれるので任せておけば良いので楽だ。

 そして、コースイン、陽菜にはスペシャルカラーのV4Rが用意されていた。カタログには載ってないカラーなので、今後発売される外装なのかもしれない。

 敬純達がいつもサーキット走行会で先導して居るのと同じ感じで、まずは追い越し禁止でゆっくりと三周の慣熟走行、それから好きに走って良いそうだが、コース上には指導員が一緒に走り、危険そうな人は

指示を出すのでそれに従う様にと言う事だ。

 「ここは富士と違って路面が滑るから、ハードブレーキをしない様にね、それと今日のタイヤは市販モデルのタイヤだから、優しく乗る事」

とだけ陽菜には指示をしておいた。ヨーロッパのサーキットは路面のμ値が日本のサーキットと比較して低い、だから鈴鹿やモテギ育ちの日本のレーサー達は直ぐに適応できずに『遅い』と言う結果になってしまうのだ、敬純はこの事を昔世界選手権GP500クラスで参戦した時に痛い程実感している。

 そして、このサーキットは敬純が昔走った頃とは全く別のレイアウトになっているので、敬純も最初はゆっくりと走る事にする。

 そして三周後に、少しずつペースを上げて行く、このサーキットのレコードはSBK仕様のバイクで

1'47"128と言う事なので、市販型のV4Rなら、現役のレーサが乗っても、そこから2〜3秒落ち位が限界だろう、敬純はそんな状態で1’51”と言うタイムを叩き出して、喝采を浴びた、陽菜も1’53"台で参加者の中ではトップ3に入って、先程まで子供の女の子が走るのかと言う目で見ていた参加者達から拍手をされている。

 そして、みんなでイタリアらしいランチタイム、ワインも有るが、飲んだら午後の走行は出来ないという地獄の様なルールだ。敬純も陽菜も当然『S.Pellegrino』スパークリング ミネラル ウォーターしか飲んでいない、食後のコーヒーを飲んでいるとライディングスーツを着た背の高い人物が挨拶に来てくれた

このサーキットで来年型のSBKバイクのテストをして居る、Ducatiのテストライダー『ミケーレ・ピッロ』選手だった、敬純の市販車での走りに感激したそうで、更に一緒に来たテストチームのマネージャーにテスト中の新型に乗ってみないか?と言うオファーを受けた。

 広報さんに通訳された敬純は二つ返事でOKして、午後一番の走行は、SBKバイクで走る事になった。

 このバイクの2025年型は全日本で水神選手が走らせているバイクの元になった物だ。外観は敬純のV4Rのサーキット仕様とほぼ同じだが、中身は全く別物だ。

 敬純はピッロ選手の後を着いて三周周回して、その後全力走行にトライしてみた。イモラサーキット用に完全にセットされたバイクは、三年前のコースレコードである1’47”128から、0.5秒遅いだけの1’47”628を記録して走行を終えた。現役のピッロ選手は当然の様に非公式ながらコースレコードを更新する1'46"325で走っている、どうやら2026年型の開発は順調に進んでいて、だから敬純に乗せてみる余裕があったと言う事だろう。

 流石に久しぶりの全力走行なので、メカニックの手を借りないとバイクから降りられない程疲労しているし、握力はほぼゼロになっている。

「いや、凄いバイクですね、素晴らしい経験をさせてもらいました、特に電子制御システムが凄い、このμが低いイモラで殆どタイヤがスライドしないなんて」

と感想を言うと、エンジニア達が

「ほう?」

と言う顔をした


「僕は、引退するまで日本の自動車メーカーのエンジニアでGT-Rの電制システムの設計をしていたんです」

と敬純が言うと、エンジニアの一人が、敬純の事をタブレッドで調べたらしく、2009年の4月にニュルブルクリンクでGT-Rが世界記録を達成した時の記念写真を見せてきた。GT-Rの前で並んで集合写真に写っているのは、当時38歳の敬純その人だった。

 そして更に92年GP500クラスでムジェロのレースで四位、スペイン七位、カタロニア六位と言う

懐かしい記録も探し出してきた、敬純が世界選手権GP500にスポット参加したのはこの年の三戦だけだ。

 若いメカニックやエンジニア達は、自分達が生まれる前の30年以上前から敬純がレースをしていたと知り、まだそれなりのタイムで走れているとわかって驚いている。陽菜だけでは無く敬純も若く見られていた様で、まだ40歳前だとみんな思っていた様だ。

 そこからはエンジニア達と二輪と四輪の制御システムの違いの話になり……こういう話題になるとお互いの怪しい英語でも意思疎通ができるから不思議だ、敬純にとっては実に楽しい時間となった。

 陽菜はその間も走行を続けて、最終的には参加者のトップタイムで終了して、全員と記念撮影をして

楽しそうにしていた。

 更衣室でスーツを脱いでシャワーを浴びて、装備一式の広報さんに返却して、敬純達はみんなに見送られて、一時間ちょっとのドライブで今日の宿、『リミニ』と言う街の『Grand Hotel Rimini』に到着。

部屋は『Regal Suites』ちなみに敬純はもう何年か続けてここのMotpGPの時はこのホテルに泊まっている。ここからは、『Misano World Circuit Marco Simoncelli』まで車で30分程だ。

 去年まではレンタカーで自走していのだが、今年は陽菜のおかげでVIP待遇なのがありがたい。

 いかにもヨーロッパと言う感じの外観のホテルなので、陽菜のテンションは上がりっぱなしだ。

「今日はものすごく楽しかったです、なんか敬純さんと知り合ってから、本当に夢の様な生活をしてます

まさかイタリアに来てサーキット走れるなんて」

「今日のみんなもチャンネル登録してくれるのかな?」

「広報の方が皆さんに説明してましたから、そうなると良いですね。海外の方も見てくれるなって嬉しいです」

「そうか、さてでは食事に行こうか、この街は魚介類が美味しいんだよ」

「うわ、凄い楽しみです」

今夜は『Ristorante Laura "Darsena Rimini"』と言うシーフドが美味しい店で

「Astice alla Catalana」オマールエビのカタルーニャ風

「Tartare di Tonno」 マグロのタルタル

「Risotto del pescatore」 リゾット・デリ・ペスカトーレ  

「Grigliata di Crostacei」 シェルフィッシュのミックスグリル

「Fritto di Calamari e Gamberi」 海老とイカのフライ

と言うイタリアンのシーフードフルコースと言う感じで、

よく冷えた白ワイン『Trebbiano di Romagna DOC』を合わせた。

 シーフード大好きな陽菜は

「イタリアンって肉ってイメージでしたけど、こんなにシーフードあるんですね、最高に美味しいです」

と喜んでいる。

「この街ってちょっと湘南に感じが似ているでしょ、僕は大好きな街なんだ。料理も美味いしね」

「明日はサーキットですか?」

「いや、まだ明日は普通に観光しよう、サン・マリノに行こうね」

「はい、楽しみです」

 部屋に戻って、今夜のお勤めを無事に果たす。


 翌日はホテルで手配した、サン・マリノへの観光ツアーに参加。

サンマリノ共和国は周囲をイタリアに囲まれた、世界最古の共和国と言われている。

国土は世田谷区とほぼ同じだ、ただMoto GPのサン・マリノグランプリが行われるミサノサーキットは

イタリアにある。

 そんな訳で観光客……多くはレースを見に来た人達の様だ……と一緒にティターノ山の頂にある3つの城砦を見て、アドリア海の景色を楽しみ、何故か存在する『サンマリノ神社』……神社本庁に登録されている本物の神社……にお参りして、ツアー客と一緒に街のレストランでランチ、地元のワインとピザが美味い、同席したアメリカ人の夫婦もMoto GPを見に来た様で、二人ともHONDAのシャツを着込んでいる、オレゴン州でHONDAのディーラーをしているそうで、スマホの画像を見せてもらうと、オフロード車を主に売っている様だ、彼らはMoto2クラスに参加している『Joe Roberts 』選手の応援に来たと言う話だ。

「お前達は、『オグラ』の応援か?」

と聞かれたので敬純が『Johann Zarco』選手を応援していると言うと、Zarco選手が今は『LCR HONDA 』チームに所属して居るので

「You're very savvy」

と褒めてくれた、日本語にすると『お主、通だな』みたいな感じだ。

 そしておばちゃんの方からは

「娘をちゃんとハイスクールに通わせないとダメよ」

と怒られた、陽菜の事を中学生か高校生だと思った様で、陽菜がパスポートを見せると大袈裟に驚いて

どうしたら若いままでいられるか聞いてきた、陽菜は

「Sushiを食べると良いですよ」

と笑顔で答えている。


 陽菜は土産物屋で何か買い込んでいたが、敬純は特に何も買っていない。

そんな感じで、楽しい観光は終わり、夜の食事をどうするかと考えていると陽菜は昨夜の店にもう一度行きたいと言う、よほど気に入ったのだろう。

 

 金曜日はまた広報さんが迎えに来てくれてサーキットに、 陽菜と一緒に敬純もパドックのDUCATIのホスピタリティテントやスタッフ専用のケータリングサービステントにも入れるパスを貰った。

 去年まではパドックやピットパスは貰ったが、ここまでの待遇では無かった、『DUCATI専属のモトブロガー』の陽菜に感謝する。

 広報さんと一緒にテントで朝のラテを飲んでいると、一昨日のイモラであった開発チームのエンジニア達が居た、

「おはよう」

と挨拶をして話を聞くと、レースに出ている6台のDUCATIのGPマシンのデータ解析の手伝いに来ているとの事だ、大変だなぁと色々と話をして居ると、ピッロ選手がLuigi Dall'Igna氏と一緒にコーヒを持って話に加わってきた。

 敬純は、一応立ち上がってダッリーニャ氏に挨拶をした。DUCATIのレース部門『Ducati Corse』を仕切る総責任者なので当然の対応だ。

 ピッロ選手から敬純の紹介を受けたダッリーニャ氏は

「GT-Rは良い車だ、私も一度イモラで走らせた事があるよ」

とお世辞の様な事を言ってから

「Suzukaの耐久レース、今年のDUCATIのチームはどう思う」

と聞いてきた。

 日本でDUCATIのワークスマシンを走らせているのは1チームしか無い、そこのチームはそこそこの速さはあるが、まだ全日本でチャンピォンを取るまでには至っていないし、鈴鹿の8耐で優勝するのは至難の技だと思う、なので敬純は正直に答えた

 HONADAやYAMAHAの日本メーカーが鈴鹿で速いのは、鈴鹿8耐に特化したマシンを作っているからで、しかも8耐で使用されるタイヤはこれも日本製のブリヂストンタイヤの鈴鹿耐久スペシャルで、レース時以外に入手不可能な上に、レース後には全て回収されると言う徹底ぶりだ、だから海外メーカーはタイヤのテストはぶっつけ本番でする以外無く、ゼロからデータを収集する必要がある、そんなハンディの中でDUCATIが勝つのなら、少なくともあと二台はワークスマシンを投入してデータ収集をする必要があるだろう、SBKでは下位グループにいるHONDAが鈴鹿で優勝できるのはそういう仕組みがあるからだ……と言う事を話した。

 その上で、ただいくらハンディがあってもSBKで圧倒的な戦績を残しているDUCATIなら勝てるチャンスはあるかもしれませんね、と言っておいた、これはお世辞では無くて本音だった。

 DUCATIは、エースライダー(今年は違うが)の『Francesco Bagnaia』選手以下、何人かのライダーが八耐参加を希望している様で、DUCATIとしては出るからには勝たなければいけない、だから

ダッリーニャ氏も真剣に考えている様だ。 ちなみに敬純は現役時代、まだTT-F1規格のバイクのレースだった頃にヤマハ・YZF750で外国人選手とペアを組んでセカンドチームで参戦して総合三位に入っている。 もちろんダッリーニャ氏もその事を知った上での質問だったのだろう。

「話せて楽しかった、また会おう、モテギにも来るのだろう? レースを楽しんで行ってくれ」

とそう言ってダッリーニャ氏は席をたった、敬純も立ち上がり握手して彼を見送った」

 「なんか難しそうな話をしていましたね、今の変わった眉毛のオジさん誰ですか?」

と陽菜が聞いてきたので、そのオジさんがレース部門の責任者だと教えてあげた。

 快晴の中、10時過ぎからFP1が始まり、トップタイムは地元イタリアでDUCATIを駆る

21番『Franco Morbidelli』選手、二位は陽菜が推しているYAMAHAの20番『Fabio Quartararo』三位は49番『Fabio Di Giannantonio』選手で、地元の英雄『Valentino Rossi』の『VR46レーシングチーム』は一位と三位で幸先の良いスタートとなった。ちなみに敬純はこのMorbidelli選手は好きでは無い。

 ピットの上のエアコンの効いたVIPルームで観戦するのは快適で、軽食や飲み物も用意されるし、DUCATIファクトリーチームのピット内にも入る事ができるので、陽菜は嬉しそうだ、ただ撮影は原則として禁止で、一緒にいる広報さんが動画などを撮ってくれる事になる。

 ここまで487ポイントを獲得して二位の弟Alexに大差を付けて、ほぼ今年のチャンピオンを確定した93番Marc Marquez選手は余裕の表情で陽菜との撮影にも笑顔で対応している、それに対して22年、23年と2年連続してチャンピオンだった63番Francesco Bagnaia選手は今季不調が続いているのでピリピリして近づく事もできない雰囲気だった。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ