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第2章 モトブログ

第2章 モトブログ


 翌朝、いつもの様にラテを飲みながら、ニュースサイトを見て、自分のチャンネルの確認をすると

なんと、普段の数十倍の再生数になっていた。

 普段は10件程度のコメントも山の様に付いている、見るとどうやら、どこかのモトブログ経由で見に来た人達だ、コメントにあったリンク先を辿って見ると、

『ゆかりんちゃんねる』と言う敬純が苦手とする女子系のモトブログだった。

その彼女のチャンネルに、ショート動画があって

『神イケオジに助けられました』

と言うタイトルがある。

見たら、昨日のパンクを修理してあげた女の子だった、しかも登録者は25万人越えの人気チャンネルらしい。

「このバンの持ち主の方をご存知の方がいらっしゃいましたら教えてください、助けていただいたお礼をちゃんとしたいんです」

と書かれていた、そして誰かが、敬純のチャンネルを教えた様だ。

 どうやらその彼女は敬純のチャンネルの動画を全部視聴(多分4倍速で)した様で、いくつかにはコメントが付いていた。

 敬純はそのコメントにハートマークーを付けておいた。

『まぁ、この程度なら、炎上したりしないから問題無いだろう』

と思って、ページを閉じた。

 ガレージに行き、整備用のリフトにPanigaleを載せて、外装を外し、前後のホイールを外して、オイルの交換等の整備をする。

 この様子もいつも動画で取って配信している。

「サーキット走行すると、想像以上にエンジンオイルは劣化します、なので毎回必ず交換するのがバイクの為です」

など他にもブレーキーパッドの確認や清掃など様々なポイントを毎回解説している。

 敬純のPanigale V4Rは元々の価格が500万越えで、2025年型の新車ならなんと750万を超えてくる。敬純はそれにBSTのカーボンホイール、bremboのレース用のブレーキシステム一式、Ohlinsのレース用サスペンション一式等、様々なパーツで何気に国産のスーパーバイクが軽く買える位のアップグレードをしている、なので、見る人が見ればそれなりに感嘆する事になる。

 

 外出用の服に着替えて、外したホイールをバンに積んで馴染みのバイク用のタイヤショップへ行く、事前にオーダーしてあったPirelli Diablo Superbike (SC2)に交換をしてもらう為だ、タイヤ交換は自分でできない事もないが、カーボンホイールなので、プロに任せた方が安全だからだ。

 この店とはもう長い付き合いで若い頃にはレースのスポンサーにもなってもらっていた。

だが、その先代のオーナーはもう亡くなっていて、今は敬純の同年代の息子、政明がオーナーになっている。

 政明は昔のレース仲間でもあったが、今は彼は腹も出てバイクはHarley-Davidsonに乗っている。

「お前もそろそろこっちの世界に来いよ」

と敬純に言うのが口癖だ。

「ああ、バイクに乗れなくなったらな、その時はHarleyのTrikeを買うよ」

と返すのもいつもの事だ。

 交換が終わるまでの間、キャッシャーの前のスツール椅子に座って店で出してもらったコーヒーを飲んでいると、こういう店には珍しい綺麗な若い女性が入ってきた。

 白いメッシュのライディングジャケット……多分敬純が知らない女性用ブランドなのだろう……にデニムのプロテクター付きのパンツ、ライディングブーツも履いて、グローブは左腕に抱えたツーリング用の国産システムヘルメットの中に入っている。どうやら数軒隣のファストフード店で時間を潰していた様だ。

『へぇ、ちゃんとした格好をしているんだな、その辺のHarley親父とは段違いだ』

この店に顔を出すHarley乗りの客には、今の季節にはもうTシャツ短パンの奴も多いのでそんな風に思っていると、

「おうR25のお客さんだね、終わってるよ、次からはもう少し早めにタイヤ交換した方が良いね、フロントはかなり減っていた、それと今時のバイク用タイヤはあまり修理できないから、道の端は走らない方が良いよ、誰が修理したか知らんが、危ない所だった」

と政明が、お客さんが綺麗な若い女性の為か珍しく饒舌だった。

「おい、説教臭いジジイは嫌われるぞ」

「やかましわ」

と敬純達が笑いながらそんな会話をしていると、その女性が

「あの、もしかして昨夜お世話になった『サバトラ』さんですか、表にバンが停めてあったので?」

と敬純に聞いてきた。

「??、あれ?もしかして?……えーっとなんだっけ『ゆかちゃんねる』の?」

「『ゆかりんちゃんねる』です」

と彼女は微笑みながら訂正してきた。

「そうか、早速タイヤ交換したのね、ここは腕だけは良いからね」

「おい、『だけ』ってのは何だ?」

とクレジットカードカードの処理を終えた政明が割り込んでくる。

「毎度ありがとうございます、またいつでもどうぞ」

と彼女には笑顔で言ってから

「お前のは二割増しにしてやる」

と言いながら、彼女のバイクR25をピットエリアからパーキングに出した。

「あの、今朝ほどメールを送ったんですけどご迷惑でしたか?」

「あ、ごめん、メールまだチェックしてなくて、後で読んで返事しますね」

と彼女とはそんな会話をして、別れた。


 家に戻って、ホイールを取り付けてバイクにカバーをかけて、書斎のMacの前に座ってメールを見た、ちなみにスマホでもメールは読めるのだが、実は老眼鏡を掛けないとそろそろ辛いので外ではあまりメールを見る事は無い。

「昨夜はありがとうございました、チャンネルを拝見しました、私もツーリングで美味しい物食べるの好きです、今度コラボしませんか?」

と言うお誘いだった。

 敬純は少し文面に悩んだが

「誘っていただいてありがとう、でも僕の様なジイサンとコラボしても、視聴者に受けないと思いますよ。これからも頑張ってくださいね、次の更新楽しみにしてます、あ、神イケオジってのは勘弁して、僕の視聴者からからかわれてます」

と返事しておいた。

 敬純はこの『ゆかりんちゃんねる』の女性の様に

『私は何も知りません、色々教えてください』みたいな態度全開で清楚系を頑張って演じてるのが丸見えの娘は好きでは無い、同じモトブロガーでも

『私、一応モデルです、性格悪いです、お金大好きです、案件ください』

みたいな娘の方が面白くて好きだった。


『さて風呂に行ってマッサージしてもらおう』

 歳を取ると、運動をしてから一日置いて筋肉痛が来る、なので明日は地獄の様な事になるのがわかってりる、だから今日なるべく色々と済ませる事にしている。

 配車アプリでタクシーを呼んで向かったのは茅ヶ崎の『竜泉寺の湯』だ、ここの温泉は腰痛やヒザ痛に効くと言う事で、その後にタイ古式マッサージを受けて、体の筋肉の張りをほぐしてもらうのが敬純のお勧めのコースだ。

 そして今その後は夜の食事に、一人でも入れるカウンター席の有る藤沢の海鮮居酒屋へ行き、美味しい刺身と日本酒を楽しんで、またタクシーで帰宅。

『今日は充実した日だった』

と例によって独り言を言って就寝した。


 火曜日の朝は雨だった、雨だと一日憂鬱な気分になるのは昔からだ。

いつもの様に朝のルーティンを終えて、メールを見ると、また『ゆかりん』からのメールが来ていた。

「ええ、イケオジなのは本当ですよ、コラボで無くても良いですから、ツーリング行きませんか?

伊豆方面で海の幸の美味しい店を教えてください」

と言う内容だった。

『あ、これは鴨だと思われたかな?』

 敬純はDucatiを2台にGT-Rが収まったガレージを動画で公開している、その他にも、たまにバイク仲間と自宅の庭のプールサイドでするBBQパーティの様子も動画にしていた。

まぁそれを見れば、お金を持っているジイサンだと言う事が簡単にわかってしまうだろう。

 敬純は実は若い頃はかなりモテた方だ、実家は曽祖父の代に設立された海外商品の輸入専門商社で、東証プライムに上場している、父が会長に退いてからは弟が社長、その弟は父の死去後は会長となっている。敬純は会社の経営には関わって無いが祖父や父から受け付いだ株券が有り、平均的サラリーマンの年収を超える配当収入がある、つまり、敬純は御坊ちゃまだったのだ、幼稚舎から高校までは慶應、大学は横浜国大の理工学部と言う事で、高校時代も大学時代も、ガールフレンドが途切れた事が無く、特に二輪のレースの世界でそこそこ名前が売れ始めると、世間では高値の花と言われる、レースクイーン達とも付き合う様になった。離婚した妻は『鈴鹿サーキット』クイーン3期生「花のクイーン」で、結婚後はモデルに転身して裕福なミセス向け雑誌の表紙を飾った事もある。

 そんな訳で、一般には地味とかオタクとか言われる理工系男子なのだが、敬純は実は思い切りリア充だった。当然社会人になってからも仕事は地味な研究職だが、私生活はそれなりに華やかな生活をしていた。だから、お金目当ての女性の扱い方は心得ている。

 だがそれはそれとして、この歳で若い女性から声がかかる等と言う事は水商売の女性以外には無いので

嬉しい思いもあった、なので敬純はあえてその誘いに乗って見る事にした。

「天気の都合もあるけど、今週は僕も友人達と伊豆方面にツーリングに行く予定です、一緒に行きますか?、でもライブ配信は勘弁してね」

と送ってみた。すると直ぐに返事が来て

「はい、よろしくお願いします楽しみにしてます」

と言う返事が直ぐに来た、なので

「海の幸の美味しい所で夕食を食べるので、一泊になるけど大丈夫ですか?」

と送ったら、また即答で

「大丈夫です、それとこれスマホの番号とインスタのアカウントです、どちらかで連絡してください」

と帰って来た。

 そんな訳で、古い友人の高村夫婦……この二人もDucatiのオーナーで、旦那の雅俊とは、遠い昔にサーキットで争った仲だ、その後ずっと音信不通だったのが、Ducatiオーナズクラブの会合で再会したのだった、雅俊は今はX Diavel S、奥さんの真理子さんの方はホワイトのSuperSport 950 Sに乗っている、元々夫婦でモトブログ 『夫婦で雨にも負けず』をやっていて、サーキット走行会などで敬純の事を撮影して動画に上げていた、それが結構視聴者にウケたので、敬純に動画配信を始める様に勧めて来たのもこの二人だった……に一人参加者が増える事をメールして、今回のツーリングは予定通り、いつもの宿に行く事を連絡した。

 二人からは、即答でOKだったので、敬純はのんびりとツーリングコースを考えて、先に宿の予約だけして、彼女に日程と簡単なコース、それに待ち合わせの場所を決めるメールをして、ついでに使用しているインカムの種類も聞いて見る。

 敬純が使用しているインカムと互換性があれば、お互いのインカムをペアリングして、会話をしながらツーリングが出来る、この機能が有ればスタンドに寄る時や、休憩が必要な時など色々と便利なのだ。

そして、直ぐに彼女から

「了解いたしました、楽しみにしています、私のインカムはJESIMAIKのX6Sです」

と言う返事が来た、敬純も偶然同じ『JESIMAIK』製を使用していたので問題無かった。


 予定通り今日は、筋肉痛が酷いので、撮り溜めてあった動画の整理してツーリング動画を上げた。敬純は遠距離に行く時には、バンにツーリング用バイクのMultistradaV4Sを積んで現地まで行き、ホテルや旅館に泊まってパーキングでバイクを下ろして、バイクで走って楽しい道をツーリングすると言うスタイルを取っている。これは先月、群馬県の「草津温泉」に行って、二泊して温泉と豪華な宿、それに国道292号の峠道を楽しんだ時の動画だ。

『こんな動画ばかりを見たら、もしかした超豪華なホテルとかを期待しているかな?それだったら可哀想かも』

と少し悪い笑顔になった。


 木曜日は朝から天気が良い、MultistradaV4Sには一泊なので純正のトップケースを付けている。

敬純は初夏のツーリング用のDucati Tour Summer C1の上下にSummer C3グローブ、スポーツツーリングブーツ Speed Evo C1 WP、そしてヘルメットはAGVのカーボン製システムヘルメットと言う出立ちになる、 仲間にはDucatiの走る広告と笑われるが、これが一番しっくりくるので仕方が無い。

 『ゆかりん』の彼女は藤沢に住んでいると言う事なので、早朝に134号の江ノ島付近で合流する。

敬純が待ち合わせ場所に行くと、時間前なのにもう彼女は来て待っていた。

そこで、インカムのペアリングをして、西湘バイパスからそのまま箱根ターンパイクで『バイカーズパラダイス南箱根』まで行く。後ろから彼女の走る所を見ていたのだが、少し危ない所が有るので、

「お節介かもしれないけど、ちょっと危ないと思うから、僕の言う通りに走ってみない?」

と聞いてみて、彼女が素直に受け入れたので、公道の峠のライン取りをインカムで教えながら走る。後ろについて気が付いた所を敬純が先導しながらインカムで解説して走る、今度はまた後ろに着いて確認して……

「そうそう、そこでアウトに膨らまない様に、膨らむと公道でアウトインアウトで走ろうとする馬鹿とぶつかる危険があるからね、コーナーに入る時もそう、アウトに膨らんでから入ろうとすると、対向車で

膨らんで来る馬鹿と貰い事故になるからね」

と安全な走り方を教えてあげた。

 『バイカーズパラダイス南箱根』に到着してバイクを停めると

「ありがとうございます、凄く勉強になりました」

と『ゆかりん』は深々とお辞儀をしてくる。

あざとい演技だとしても、この態度は好感が持てた。

 カフェに入って、敬純はコーヒー『ゆかりん』はソフトクリームを食べる……当然動画の撮影をしながら。撮影が止まったのを見て聞いてみた

「モトブログの女性って必ずソフトクリーム食べるよね、そういう決まりでもあるの?」

「え?男性の方も食べてますよ、ほらそこの方々も」

と彼女が言う方を見ると、オヤジライダー(多分敬純よりずっと若い)二人が並んでソフトクリームを食べていた。

「うわ、本当だ、でもあれは動画で見たく無いな」

と言うと彼女は楽しそうに笑っている。

 「悪い悪い、途中で事故ってたアホがいて、遅くなった」

と都内から来た友人の高村夫婦と合流した、小休止がてらお互いの紹介をして……彼女も夫婦もお互いのチャンネルの事は知っている様で、直ぐに打ち解けていた、そして彼女は

「ゆかりん事『佐伯陽菜』です」

と初めて本名を名乗った。

陽菜ひな??ゆかりんってどっから来た?』

と敬純は思ったが聞いていない。

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