表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/30

第19章 お盆と別荘と

第19章 お盆と別荘と


 世間はお盆休みの時期を迎える、休みが長い会社は既に長期休暇に入っている。 

珍しく弟の敬正から連絡があった。敬純と敬正は普段は殆ど交渉が無い、理系の敬純と文系の敬正では考え方が根本から違う様で、話が噛み合わない事が多かったからだ、そして敬正の方は、長男の癖に家業をほっぽり出して好きな事をしていた兄と言うマイナスな感情もある。

 最後に話したのは、母の葬儀の後に遺言書によって遺産を分割する手続きをした時だから、もう5年近く前になる、父の後を継いで弟が会長を務める『渋川商会』の株式を敬純は所持しているが、配当金を受け取る以外は、株主総会に出席した事も無ければ、経営に口を挟んだ事も無かった。

「兄貴、久しぶりだな、先日はGT-Rを貸してくれたそうで、感謝してるよ」

「珍しいな、お前がそんな事を言うなんて真夏に雪が降る、それで何か用か?」

「実は兄貴に相談があってね、本社まで来て貰えないだろうか?」

「それは構わないが、なんだよ、内容を先に言え」

「お袋から相続した南伊豆の別荘なんだけど」

「ああ、昔親父が建てた、カリフォルニアスタイルの別荘だな、それが?」

「最初はウチの子供達も喜んで行っていたんだけど、下の子供も来年大学を卒業して親元を離れる事になってね」

「そうか、もうそんな時期か、とりあえずおめでとう」

「ありがとう、それで女房とも相談したんだけど、女房はそもそも別荘が嫌いでね、旅行に行くならホテルに泊まりたいって人だから」

「お前は料理も家事もしないからな、当然だろう」

「まぁそれは置いて置いて、それで売ろうかと思うんだけど、せっかく親父が建てた別荘だろう、実家はもうお袋の時に売却してしまったから、なんか別荘まで他人に売るのもなぁと思ってね、あの辺は兄貴は昔良く車で走りまわっていたから、もしかして買わないかと思ったんだけどどうだろう?」

「今どんなコンディションなんだ?、幾らで売るつもりだ?」

「一応現地の不動産屋で相場を聞いたら1億5000万位らしい、去年までは毎年行っていたし、管理会社もしっかりしているから、コンディションは悪く無いと思う」

「そうか、ちょうどお盆休みでどうしようかと思っていた所だ、現地を見てそれから返事をするって事で

どうだ?、夜中に行けば道も渋滞していないだろうからな」

「わかった、鍵は用意しておくから、いつでも家まで取りに来てくれ、女房が居るから」

「ああ、明日にでも借りに行くよ、奥さん好物なんだっけ?」

「湘南の物なら、例の鎌倉のケーキ屋かな、お袋と唯一話が合う店だったから」

「ああ、あそこか、良しそれを土産に持って行ってやる」

「ありがとう」

「まだ買うって決めたわけじゃないぞ、見にいくだけだ」

「ああ、わかっている」

 とそんな会話があって、敬純は翌日鎌倉の『Grandir Ensemble』でケーキを購入して、その足でGT-Rで横浜の篠原台に向かった。

 陽菜には三日分の旅行の支度をする様に言って、家の食材をクーラーBOXに詰めさせておく。

敬正の家は、元々その妻の両親の家を二世帯住宅に建て替えた物で、横浜でも屈指の高級住宅街に在る。

 家の正面の車止めにGT-Rを停めるて、インターフォンを押すと、直ぐに玄関が開いて弟の妻が出てきた、敬純は元妻と仲が良かった義妹をあまり好きでは無いがそれはお互い様で、お互いに

「どうも、お久しぶりです」

「皆さんお元気ですか、これ土産です」

みたいな社交辞令を交わして玄関先で別荘の鍵を受けっとって、帰路についた。

 帰宅すると、陽菜のMINIに荷物を積んで、南伊豆に向かう。別荘は葉山からは道路事情にもよるが四時間ほどの距離りにあり、南伊豆の小さな漁港を見下ろす丘の上にあり、父がアメリカから取り寄せた建築材で建てられた、広いデッキにインフィニティ・プールがある建物だ。デッキの岩風呂風露天風呂は温泉では無いがに雰囲気は楽しめる様になっていて、良く付近をR32型GT-Rで走って、ここで風呂に入って仮眠してまた走ったりした思い出の場所だった。

 久しぶりに来て、漁師町を走って見ると、過疎で寂れてしまい、美味しかった定食屋も無くなっていて、日用品や食材が買える店も無い、というかもう町自体に殆ど人が住んでいない感じになって居る。

これはこの町だけではなく南伊豆全域の問題で、空き家と廃墟が地域の課題になって居る、この別荘がある別荘地も、今は空き家になってしまった物件が多数ある様だ。そしてそれは伊豆の温泉街も同様で、熱川温泉や長岡温泉も悲惨な事になって居る、つまり不動産の価値と言う事では、この別荘は敬正が言うほどの価値が無いと言う事になる。

 

 別荘に着いて、食材を冷蔵庫にしまい、少し離れた街道沿いのネパール・カレーの店に向かった、周辺にここ位しかもう食事ができる店が無いのだ、この店は何度かツーリングの途中に寄った事があるが、以前は綺麗な女性スタッフが居て、男性ライダー達が群れをなしていたが、今は居ない様だ。

 とにかく、車で峠道を20 〜30分走って周辺の町に行けば何軒かはラーメン屋や食堂は存在するみたいだがかなり面倒だ、敬純の元妻と同じ人種で家事が嫌いな義妹が行きたがらない訳が良くわかる。


 敬純の父は趣味人で、大型のクルーザー船を所持していた、当時は漁港にクルーザーを停泊させる許可を得て、逗子マリーナからここまでクルーザーで沿岸を航海して別荘を使用していたのだった。

当然だが、今はそのクルーザーは存在しない、敬純も敬正も船に興味が無かったからだ。

 そんな訳で、ネパールカレーを食べて、別荘に戻りガレージにMINIを停めて……よく見るとガレージはかなり傷んでいて、屋根には穴が空いている。

 別荘の中に入って窓を全開にして風を通して、エアコンを付ける、エアコンはちゃんと動く様だ。駿河湾と太平洋を見渡せるデッキとプールは昔のままだが、流石に建築されてから年数が経って居るので、デッキの先端は腐っている所もあるし、別荘の内部かなり古臭い印象になっている。

 ここをもし弟から買うとしたら最低でもガレージと水回りのリフォームが必要だろう、当然ネット環境も無いし、そもそも光ファイバーの回線が来ていない、『Starlink』の衛星インタネットサービスを使用すればネットには繋げる様になるが、そこまでする価値があるのかと言うと、少し考える敬純、だが

 「うわぁ、ここ素敵ですね、敬純さんのお家のプールも良いですけど、海の景色が最高ですね」

と陽菜は喜んでいる。

 キッチンの冷蔵庫には、いつのだか分からない缶ビールが数本入っていたのでとりあえず、ビールを持って、西の空に落ちていく夕日を眺める。

 外の露天風呂は掃除をしないと使えなそうだが、プールの方は大丈夫そうだ。

暑いので、服を脱いでプールに浸かると陽菜も一緒に入ってきた。

「ここは誰の家なんですか?」

と事情を話さないで連れてきたので陽菜は聞いてくる。

「ああ、昔僕の親父が建てた別荘、今は弟の物なんだけどね、買って欲しいって言われて見に来たんだ」

「そうなんですね、周りが寂れてまるで銚子みたいな感じですけど、良い所ですね、夏はここでのんびりするのも良いかも」

「そうか、陽菜はここが気に入ったか」

「はい」

 陽菜が気に入ったとなると話は別だ、弟と値段の交渉は必要かもしれないが、買うのもありかもしれない。

 結局そのまま三泊して、足りない食材や生活用品などはどちらも片道30分近いドライブで『サンフレッシュ 松崎店』『マックスバリュ下賀茂店』に行って購入して、なんとかなった。

 何よりもネットも何も無い環境で陽菜が楽しそうなのが一番だ。


 お盆の帰宅ラッシュが始まる前の14日に葉山に戻り、週が明けてから鍵を弟に返しがてら、値段の交渉をしに横浜の本社に向かう。

「どうだった?」

 スマホで撮った写真を見せて、問題点を挙げる、ガレージは全部作り直さないとダメ、デッキは一部腐っている、キッチンや風呂、トイレはリフォームが必要、エアコンは古いので交換、岩風呂はジェットバス機能が壊れているので修理か交換が必要、と言う事で、敬純は9800万なら買っても良い。

と弟に告げた。

「うーん、せめて1億」

と弟は煮え切らない。

「なんだよ、会社の方で問題でものあるのか?なんか変だぞ」

と聞くと弟の話では、長年ビジネスの中心だったスポーツ用品部門がここ数年、大赤字なのだそうだ、

「スポーツ用品って、ゴルフ、テニス、スキーだったよな」

「ああ、そうだ」

「そりゃ仕方が無いだろう、俺たちが若い頃と違って、今時テニスもスキーも誰もやってないし、ゴルフも人口は減るばかりで、ゴルフ場がどんどん閉鎖されている、俺の会社にいたカルロスさんじゃ無いけど

不採算部門はとっとと閉鎖しないと、傷が広がるぞ」

「ああ、だから今期で全部処理する予定だ、当然赤字決算になる」

「そうか、仕方が無いな」

「それで、俺の配当もボーナスも無いから、金が居るんだよ、女房が色々と煩くてな」

「あ、新作のバックとか、なんたらのコスメとかそれか、御愁傷様」

「兄貴は良いよな、姉さんが浮気して離婚だから、あいつも浮気しないかな」

「馬鹿、何しょうもない事言っているんだ、わかった一億で買ってやるよ、だからシャキッとしろ」

「助かるよ兄貴」


 そんな訳で敬純は長男に電話して、自分の投資口座から1億五千万程を移す様に依頼した。

「良いけど、何に使うんだ? そんな高いバイクあったっけ?」

「馬鹿、バイクじゃない、お前お爺さんの伊豆の別荘覚えているか?」

「ああ、子供の頃クルーザーで行った所かな、でっかいプールのある」

「そう、そこ、敬正がそこを処分したいって言うから、俺が買う事にした」

「へえ良いなぁ、親父それ俺も混ぜてくれ、半分出すよ、あそこ昔は毎年行くのが楽しみだったんだ、祖父ちゃんが釣ってきた魚を婆ちゃんが刺身や焼き物、煮物にして出してくれたよな」

「ああ、そうだな、そんな事もあった、じゃあ書類を作る時に半分お前の名前にしておく、ただリフォームしないと使えないから、使えるのはしばらく先になるぞ」

「了解、じゃ7500万ずつ振り込んでおく、あ、親父の投資ポートフォリオ最近見てる?」

「いや全然、なんで?」

「もう張り合いが無いなぁ、先月大台に乗ったよ」

「大台って?」

「おめでとう、金融資産100億超え、これで税務署からガッツリマークされるから」

「いや、待て、それは全然嬉しく無い」

「はは、じゃまたな」

 と翔はそう言って電話を切った、敬純には翔自身が今、どれ位の資産を持って居るのか見当もつかない。

 無事に別荘の受け渡しと名義変更も終わり、敬純は別荘で見つけた図面を元に施工元に連絡を取ってみたが既に会社は無くなっていた、なので大手リフォーム業者でアメリカンハウスを手掛けている会社に相談すると、それなりの金額はかかるが、リフォームを引き受けてもらえる事になった。

 特にキッチンや水回りは陽菜の意見を聞いて、プランを立てて施工してもらう。

陽菜は大喜びをしていたので、高い買い物をした甲斐があると思う。


 陽菜のチャンネルの登録者数が、とうとう50万を超えた。陽菜は既に『銀の盾』を持っていて、次の目標が100万人の『金の盾』になる、まだ一万人にも達していない敬純には夢の様な話だが、陽菜はここまで来ると実現できそうな感じになって居る。

 7回に分けてアップされた、ツーリング動画、北海道編も好評で、その間に挟んだ富士スピードウェイのクラブマンレースでレースアンバサダーをする動画は過去最高の視聴者数を記録した。

「うわゆかりん、こんな綺麗だった?」

「セクシーな衣装が似合っている」

「このイケオジだれ?」

「あ、この人が『サバトラ』元国際A級の人」

「顔、ゆかりんと似てない?」

「本当だ。目とかそっくり」

と、ここでどうやらサバトラ=ゆかりんの父親説が確定した見たいだ。

「何、このデッドヒート、これ全日本じゃ無くてクラブマンなんだよね」

「うおーすげぇ、そこで抜く?」

「元国際A級二人の争いってこんなハイレベルなんだ」

と敬純と雅俊の車載カメラの画像も使ったので、レース動画としてもそれなりになっている。

そして最後のシャンパンシャワーで動画は終了。

 予告として、ゆかりんサーキットライセンス取りますが入る、そしてそのサーキットライセンス取得編の動画も今までとは別の視聴者に受けた様で、かなりの視聴数になった。

 

 お盆休みの間、何もしていなかったので、陽菜は今は頑張って次の動画の編集をしている。

長野ツーリングと、サーキット走行会、それに挟んで『車買いました』と言うショート動画も上げるそうだ。

 そして、別荘のキッチンのリフォームプランに陽菜の意見を取り入れた事から、陽菜の態度が変化した。敬純への依存度が上がり、今までは週末だけだった『セクシーメイドコス』の日が、週に二回になり

コスチュームもメイドだけでは無く、更に怪しげなセクシーな物になっている。

 その格好で同じ部屋で編集作業をしているのだから、目の保養になるが気が散って集中できないのが唯一の問題だ。

 敬純は陽菜を籠の鳥にするつもりは無いので、外出の制限をした事も無いし外出用の車も有る。

だが、陽菜はスーパーに買い物に行くのも必ず敬純の同行を望むし、敬純が同行出来ないと言うと、悲しそうな顔をして

「では、いけるまで待っています」

と言う位になって居る。


 DUCATI JAPANから案件の報酬でもある陽菜用のライディンググッズが届き、敬純は陽菜と一緒に

Multistrada二台でバイカーズパラダイス南箱根まで向かう、現地に着いてから陽菜は送られてきた『Heritage C3』の白いレザージャケットと『Company C4ジーンズ』に着替える事になる。

『Streetfighter V4 』にはそちらの方が似合うからだ。

 サーキットを走り込んだおかげで、陽菜は峠でも見違える程上手くなっている、ただ敬純の指導通りに

コーナーの出口では控えめにアクセルを開けると言う事で、速度を抑えて走っている。

 待ち合わせ時間より少し前に着くと、現場には既に撮影用の特設ステージが組まれ、試乗車が三台と特別仕様のV4 SP2があり、流石にこのバイクは試乗用では無くステージに上に置かれている。敬純のあまり好きでは無い広告代理店の撮影や照明スタッフがスタンバッテいて、かなり本格的な撮影体制の様だ。

 敬純も過去に何度かDUCATI のバイクのインプレッションや、座談会に出ているので、バイクを停めるとすぐに、顔馴染みの広報担当が駆け寄ってきて

「渋川さん、おはようございます、今日はお嬢様をお借りします」

と挨拶をしてきた。もう誰もが陽菜を敬純の娘だと信じている様だ。

「僕は今日はただの付き添いだから、その辺で見てるからお構い無く」

とだけ言って、

「パワーあるから気をつけてね』

と、陽菜に手を降った。陽菜は係に案内されてライディングウェアを着替えに行った。

 今日はどうやら三人の女子モトブロガーが『Streetfighter V4 』に乗って、その後

トークショー形式で、その魅了を語ると言う感じらしい。

 他の二人は、一人はコスプレでバイクに乗ったり、レースアンバサダーもやっているタレントが本業の様な子とNINJYAで日本一周をしたと言う、これまたタレントの様な容姿の子だ、敬純はこの二人のチャンネルを見た事があった。

『三人集まっているとモトブロガーと言うよりはモデルの撮影会だなぁ』

と思ったが、当然敬純の目には陽菜が一番可愛くて綺麗に見える。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ