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第14章 A Day at the Races

第14章 A Day at the Races


 ランチから戻って来て車検と装備チェックの準備、バイクのアンダーカウルを外して、雅俊と一緒に2台で、車検場の前まで持って行く、敬純の装備一式が入ったキャリーケースは陽菜に引っ張って持ってもらう。

 敬純も雅俊も、車検係は全員知り合いなので、ほぼ顔パスで終了。まぁアマチュアのローカルレースなのでその辺りは緩いが、彼らも敬純達が不正な事をしないと言う信頼関係がある。

 無事に車検と受付が終了して、アンダーカウルを元に戻して、前後のタイヤにタイヤウォーマーをセットする、電源を入れるのは走行の30分前位だ

 レーシングスーツに着替えて、軽くストレッチングをしながら、タイヤウォーマーに電源を入れて、

時間まで待機、曇り空だが雨の心配はなさそうだ。 


 最初の30分は、一般走行で、これは富士のクラス区分で『S-2R』クラスになる。このクラスには本気でタイムアタックをする人も多いので、かなりハイペースになる。

 敬純も雅俊も1”46秒台で周回を重ねる、バイクも本人も特に問題は無い。タイヤを変えれば1”45台前半で走れるだろうがそれは雅俊も同じなので、結局いつもと同じ様に予選も決勝も雅俊との争いになるだろう、何しろバイクはほぼ同じ、体格は敬純の方が少し背が高い位で、体重は雅俊の方が少し軽い、

決勝レースではどのコンパウンドのタイヤを選択するかがポイントかもしれない。

 30分の走行時間が終わって、10分間の休憩を挟んで15:50からは、レースの主催者が用意したフリー走行時間になる、だがこの時間は全クラス混走なので、物理的に遅いバイクも居る、敬純達のバイクはストレートで300kmに達するが、150km程度しか出ないバイクと混走するのはある意味危険なのだ

なので、例によって今回初めてレースに参加する知人のライダーの引率をする事になる。

 走行を終えて、バイクをバンに搭載して撤収準備、そのままホテルに向かう、雅俊達も同じホテルに宿泊する様だ。

「晩飯どうする?」

「うちはホテルの中で食う、一緒に行くか?」

と言う事で、『TROFEO イタリアン』へ

「富士にレースに来て本格的なイタリアンが食えるなんて夢見たいだなぁ」

「そうだなぁ、昔は安い民宿に泊まって、不味い飯を食っていたものな」

「はいはい、ジジイの昔話しは誰も聞きたく無いの、後で二人でやりなさい」

 真理子さんのキツめのセリフに陽菜は笑っている。

「満足だ、ワインも美味かったし、じゃ明日な」

と二人と別れて、部屋に戻って明日の為にベッドに横になる

「どうだった、初サーキット」

「楽しいですね、もっとピリピリした感じだと思ってました」

「ああ、これはアマチュアのレースで半分お祭りみたいな物だからね、全日本選手権の方は、もっとみんな真剣だよ」

「あ、そうなんですね、それで芸能人の人も居たんですね」

「へぇ、誰かいたの?」

「長瀬智也さん」

「ふーん、役者さん?」

 敬純は芸能人に全く興味が無いので、名前を聞いてもわからない

「え、TOKIO知らないんですか?」

と真剣に呆れられた。そう言えば今の家を買う時も不動産業者から、ここは??さん……既に名前も覚えていない……の別荘で、と言われて、それは誰ですか?と質問をして呆れられた思い出がある。

「うん、僕は芸能系は全く知らないから」

「前の奥様モデルさんなのに、面白いですね、でも私そう言う敬純さんが好きです」

とまた、しがみついてきた。


 日曜日は、ライダーズミーティングが7:25からあり、これは全員出席が義務だ。

なので、朝食は諦めてコーヒーだけ持ってチェックアウトしてサーキットに、指定されたNo.のピットの

側にバンを止めて、バイクや荷物を運ぶ。

 同じチームに所属しているが、年に数回しか会わないメンバー達と久しぶりに合い、陽菜を紹介すると

歓声が上がった。登録者やSNSのフォロアーが居る様だ。

「もしかして、『サバトラ』さんって敬純さんなんですか?」

「いや、それは俺の動画見ればすぐわかるだろう?」

「すみません、見た事無いです」

『酷い話だ』

と思ったが、まぁ誰もオッサンの説教臭い動画なんて見たく無いのかもしれない。

陽菜は、個人でレースアンバサダーをしていると言う女の子と直ぐに仲良くなって二人で撮影をしあっている。


 そんな感じでピットでのんびりしたり、タイムアタック(予選)に出るチームメイト達の手伝いや応援をしながら、敬純は自分のバイクのタイヤをホイールごと交換して、予選用タイヤに変更する。

 タイヤウォーマーを掛けて温度を上げて、タイムアタックの時間が来た。

なるべくクリアな状態で走りたいので、先頭にバイクを並べると当然隣には雅俊が居る、雅俊とは所属チームが違うのでピットは離れていた。

「去年はPPポールポジションをお前に取られたけど、今年は俺の物だ」

と雅俊を煽ってみるが、まぁ今更そんな手が通じる相手では無いのはお互いに良くわかっている。

 コースマーシャルの合図でコースイン、タイヤを温めながらコースの状態を確認して、最初の周回、

最終コーナーでは、既にレースラインで全力で走る、この時のスピードがストレートの伸びに響いてくるからだ。そしてタイム計測の開始、今はGPS搭載のコレスポンダーが全車に貸与されるので、タイムは自動で計測され、リアルタイムで更新される、一週目敬純 1’45″75 雅俊1'45"68、二週目 敬純 1'45"21 雅俊 1'45"36 三週目 敬純 1'44"97 雅俊1’45”01 四週目敬純1'44"99 雅俊 1'44"98 この周回でコース上には、遅いバイクがチラチラと居る用になったので、敬純はタイムアタックを終了した。

雅俊はまだ諦めすに、更に二周したがタイムを更新する事ができなかった。

 これで今年は宣言通り、敬純のPP獲得が決まる……といってもプロのレースでは無いので、何も貰えないが、敬純は雅俊の悔しそうな顔が目に浮かんで楽しかった。

 ちなみに二人のタイムは現役世代の『Eアンリミテッド』クラスのタイムより速かった。これは腕というよりは二人の乗るDucati Panigale V4Rの性能が現役組のYamaha YZF-R1より上と言う事もある。

 ピットに戻って、直ぐにタイヤの交換、本番用のタイヤは予選用のタイヤより少しだけ硬いコンパウンドのSC1だ。

 

 決勝レースのグリッドには、メカニックが最低二人必要だが、そこはチームの若手が引き受けてくれる。それに陽菜を加えた三人が一番グリッドの敬純の横にいる、陽菜は動画を胸にぶら下げたアクションカメラで撮影しながら、アンブレラを持っている、今日は曇りなので、必要は無いのだが、形は大事だ。

 因みに隣の雅俊の横には真理子がいて

「オバさんが隣で悪かったわね、でも頑張りなさいね」

と言っているのが聞こえる。

 選手紹介が終わって、2分前でメカニック一人を残して、コースクリアとなり、エンジン始動のサインで、そのメカニックも退場してウォームアップランからのスタートになる。

 V4Rにはレース時のスタートモード、パワーローンチ(DPL)が有り、これは他社の物より優秀だ、なのでスタートでは有利なのだが、雅俊は同じバイクなので意味は無い。

 

 スタートで、体重の少し軽い雅俊が前に出て、そのまま第一コーナーへ、敬純は最初の数週は雅俊を先行させる事にした、雅俊のタイヤがSC0と言う事に気がついたからだ。今朝と同じペースで走れば、ラスト二周でタイヤがヘタってくると予想される、当然雅俊もその事は知っているので、最初から逃げに入るが、敬純は難なく追走している、ブレーキ時の安定性は敬純の方が高いからだ。

 そんな感じで 3周目の第一コーナで敬純は仕掛けるブレーキで優位にあるので前に出る。雅俊は直ぐに抜き返してブロックラインで敬純の前を塞ぐ、そのまま抜きつ抜かれつで6周が過ぎて、最終ラップ、敬純は得意の高速コーナー100Rで雅俊をパスすると、次のADVANコーナーの侵入で雅俊を引き離し、そのままトップでチェッカーフラッグを受けた。

 これで雅俊に二連勝になった。


 表彰式では、陽菜に自前で用意した『ボッテガ ゴールド スプマンテ ブリュットジェロボアム 3L』の

ボトルを持ってきてもらって、シャンパンファイトを楽しむ。

 なぜ自前で用意をしているかと言うと主催者がくれるのがとても小さなボトルだからだ。

「くそ、来年こそ俺が勝つ!!」

と言う雅俊の顔を見られたのが一番だ。


 そんな訳で、大人の運動会的なレースを楽しんで、撤収作業をして帰宅。

スプマンテ(スパーリングワイン)が掛かってしまった、陽菜の衣装は直ぐにクリーニングに出さないといけないので大変だ。

 敬純が出場するレースは今年はあと一回、ただそれは雅俊は『筑波は狭いから嫌いだ』と言って出場しなので、敬純としてはあまり面白くないレースになる。

 帰路の途中のファミレスで食事をして……思い出のガストだ。家に着いてバイクを下ろして、今日はこれで後はのんびりとする予定だ。

 二人でジャグジーに入って

「今日はお疲れ様、つまらなく無かった?」

「いえ、楽しかったです、私も早くサーキット走りたいです」

「そうだね、後で走行ライセンスの講習日を確認しとくよ、それを取らないと走れないからね」

「はい、でもその講習って難しいんですか?」

「いや、簡単、基本のルールやコースの説明を受けるるだけ、その後直ぐに走れるはずだから、その日がダメでも次に時に走れるし、なんなら貸切にしても良いしね」

「はい、本当に楽しみです」

と言う事で、本日は無事に就寝。


 朝食の後、陽菜は一人でランドリーとスーパーの買い物に出かけている。

敬純はバイクの整備と、タイヤのオーダー。

 次のレースまでは時間があるので、SC2を何本か買っておく、これは陽菜の分も入っている。

 先日購入したスプリンターは今はショップの方でリフトの組み込み作業をしているので、来週位には

届くだろう、そして陽菜のPanigale V2も、ほぼ組み上がって、後はカウルをラッピングして取り付けるだけと言う感じらしい、デザインは最初から敬純のV4と同じにしてある、が敬純のNo.が70なのに

対して陽菜のV2はとりあえず17を張ってもらう事にしている、陽菜が生まれた年が平成17年だからだ。


 そして7月の後半にはイベントが一つある、これは敬純が毎年友人達を招いて家でやっているBBQパーティで、敬純の誕生日祝いも兼ねている。これには東京に居る上の息子も参加するので、陽菜を初めて息子に紹介する事になるが、なんと言うかはまだ検討中だ。

 陽菜が戻ってきて、ランチに冷やし中華を作ると張り切っている。突然食べたくなったそうで、食材を買ってきたそうだ。

 なので敬純はのんびりと編集作業を進める。

かなり溜まっているので、とりあえず千葉のツーリング編二日目の編集を全力で終わらせる。

これも、動画の公開は陽菜が動画を上げた後にする予定だ。

色々していると陽菜が書斎に呼びに来た。

「冷やし中華できました」

 どうやら、タレはインスタントでは無く自分で作った様だ、具は薄焼き卵、ハム、エビ、胡瓜、紅生姜、に何故か豚しゃぶが載っている。

 タレの味はピリ辛でガーリックが効いている。

「あ、これ豆板醤?」

「そうです、蒸し暑いから辛い方が良いと思って」

「うん、美味しいね、冷麺の美味しいヴァージョンって感じだ」

「本当ですか? 嬉しいです」

と最高の笑顔を向けてくる、少し褒めただけで、これだけの笑顔が見られるのなら、敬純は何万回でも誉めるだろう。

 何を言っても仏頂面だった元妻とは大違いだと思う。

「そうそう、次の富士のライセンス講習会、17日の木曜日だった行く?」

「はい、もちろん行きます」


「あとね、再来週の土曜日はね、僕の誕生日のパーティがあるんだ、毎年やっているんだけど、BBQの肉は僕が焼くから、手伝ってくれる?」

「はい、もちろんです、ケーキはどうされるんですか、私作りましょうか?」

「ケーキは毎年誰かが持ってくるけど、陽菜作れるの?それは嬉しいかも」

「任せてください、キッチンを色々と拝見したら道具は全部揃ってますよね、あとは材料あれば大丈夫です、リクエストありますか?」

「うーん、去年のは結構ひどかったからなぁ、Ducati仲間がどっかの店に頼んだんだけど、バイクの形をしているのは良いけど味は……だった、だから陽菜の得意なので良いよ、ちなみに蝋燭は数字のやつを立てるので」

「はい、何名位来られるのですか?」

「Ducati仲間が4〜5人、高村夫婦、それに長男とその彼女だから全部で11人って感じかな」

「あ、ではその時にメイドの格好で御主人様ってお呼びしましょうか?」

「いや、それは却下、多分息子が一生口を利いてくれなくなると思う」

そう言うと二人で笑ったが、どうも陽菜は半分以上本気だったみたいだ。

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