第10章 フェリーの旅
第10章 フェリーの旅
陽菜のV2の初回サービスも無事に終わり、北海道ツーリングの準備を始める。敬純は小物類も大体揃っているが、 陽菜の方は色々とサイトを見て持っていく物リストを作っている。
「あの、予備のガソリンの携行缶必要ですか?」
「僕が1Lを2本持っていくから大丈夫だと思うけど、心配なら買っておこうか?」
なんて話をしているとMINIのディーラーから連絡があり、納車の準備ができましたとの事だ。
なので午後にディーラーまで行って、納車式。
バイクの時と違って車の方はあまり面白味は無い、名義は敬純だが、運転するのは陽菜なので、説明は
陽菜が色々と聞いている。
そのまま家まで帰って、陽菜の運転で、戸塚のバイクの用品屋さんまでドライブ。
そこで『ステンレスガソリンボトル 900cc』を2本買って、あと店内をぶらぶらする。
この店では以前陽菜は女子モトブロガー数人とイベントをやった事があるそうだ。
なので、『ゆかりん』ちゃんと声を掛けられたり、『ゆかりん』グッズを持っている人も居る。
「人気者だね」
「もう、揶揄わないでください」
と陽菜はあまり嬉しそうでは無いし周囲に見せつける様に敬純に腕を絡めてくる。
『父親と腕を組んで歩く娘って結構いるから、またお父さんですかって言われるだけだと思う』
と敬純は心の中で陽菜に言った。
家に帰って、バイクの準備を始める。長距離ツーリング用に、どちらのバイクもトップケースの他にサイドケースを付けてタンクポケットバッグ用のフランジを取り付ける。V2とV4用のサイドケース用インナーバッグをガレージのクロゼットから出して、パッキングの準備が完了だ。
インナーバックを抱えてリビングに戻ると、陽菜がノートパソコンで自分のSNSのコメントを読んでいる。
「お父さんと買い物中の『ゆかりん』を発見、声を掛けたけど手を振ってくれただけだった、お父さん怖そう」
なんて言うのがあって笑えた。
「うー、違います彼氏ですってコメ返したい!!」
と陽菜はジタバタしているのが可愛いい。
「バック付けたからガソリン入れに行こうか、バイクのバランスが変わっているから最初は注意してね」
と、近所のスタンドまで一緒に行く。
「携行缶には入れないんですか?」
「フェリーに乗るときは、ガソリンが入っているとダメなんだ、だからフェリーを降りてから入れないといけないの」
家に戻って、陽菜は夕食の用意を始める、匂いからして今夜の食事も夜が元気になるメニューの様だ。
そして、着替えた陽菜のデニムのミニスカートの丈が短くなっている様な気がしたが、多分気のせいだろう。
そして北海道ツーリングに旅立つ日が来た、既に関東地方は梅雨入りしているが、幸いにも今日は曇りだ、北海道の天気予報では思ったより気温が高そうなので、せっかく陽菜用にも購入したが、電熱ウェア
は置いて行く事になる、『Ducati Strada C4』のツーリングウェアで、三層の構造になっていて
一層はダウンの保温インナー、二番目にゴアテックスのウィンドグレーカー、そしてアウターと言う感じで全部纏めて着れば冬でもかなり暖かいし、アウターだけにすれば今の時期から夏でも着られる。
当然アウターにはプロテクトアーマーが内蔵されている、家を出る時はアウターだけにして、北海道に着いたら二層目も着て、寒ければ一層目も着るという事になる。
パンツの方も同じ構造で、ジャケットとはファスナーで一体化させる事ができる。
敬純はこれで雨の中も何度も走っているが、水が染み込む事も無く、レインウェアが必要無い位に防水性がある。
今日は17:30までに『大洗港フェリーターミナル』に到着する必要がある。
葉山からは首都高経由の常磐道で普通なら2時間半位の距離だが、余裕を持って2時前に家を出た。
平日の午後なので、途中の湾岸線、東京港トンネルや辰巳JCT、C2(中央環状線)の加平付近のいつもの渋滞が予想されるからだ、常磐道に入れば、あとは事故や緊急工事でも無い限り普通に走れるので
時間調整は常磐道のサービスエリアエリアで休憩すれば良い、最初の目的地は守谷SAだ、途中多少の渋滞はあった物の無事に二時間ほどで到着した、ここで給油して、スタバがあるので、ラテ休憩。
ここからフェリーターミナルまでは一時間ほどで到着して、5時過ぎにはターミナルに到着した。
既にバイクが何台か並んでいるので、その横に停めて、車検証などを持って乗船手続きへ、これが終わると自分のバイクまで戻って、係員の指示に従ってバイクの列に並んで乗船案内を待つ。
こう言う時にシステムヘルメットはバイザーだけでは無くフェイス部分が開くので便利だと思う。
動画を撮りながら待っていると、乗船時間が来て、バイクに乗って船内へ、ここでも指示に従って指定の場所に停車して、必要な荷物(タンクバックと、トップケースインナー)とヘルメットを持ってエレベーターで船室階に上がる、敬純達の部屋はスイートなので7Fになる。
「え、うそ、これ船の中の部屋なんですか?」
と陽菜は驚いている、作りは殆どホテルの二部屋続きのスイートと同じで、バストイレも付いているからだ。
部屋でお風呂に入っても良いし、船内の展望風呂に行くのも良いし、まぁのんびりできるのが一番だ。
「僕はお風呂行くけど陽菜はどうする?」
「私も行きます」
と言う事で、ツーリングスーツを脱いでハンガーに掛けてクロゼットに、いつもの部屋着に着替えてスニーカーを履いて風呂に向かう、陽菜も流石に普通にスウェットパンツにシャツだ。部屋にあるアメニティのバスタオルなどが使えるので、そのまま持っていく。
「出たらプロムナードで待っているからね」
「はーい」
船の中なので当然温泉では無いが、広くて気持ち良い湯だった、ちなみにバイクで長距離を走ると、ヘルメットのシールドを下ろしていても顔は真っ黒に汚れます。
10分ほどプロムナードのソファに座っていると陽菜が出てきた。
そのまま一度部屋に戻って、タオルとかを置いて、レストランへ、この部屋は食事券付きな上に、専用のシートが確保されている。
バイキング形式なので、適当に取って食べていると出港になりフェリーが動き出す。
料理の方は色々と種類は多いが、まぁ味はそれなりと言う事で、満足はできるレベルだ。
部屋に戻って、ベッドでのんびりまったりと。これからまだ16時間以上の船の旅だ。
「敬純さん、伺いたい事があるんです」
「何?」
「別れた奥様の事、なぜ離婚されたんですか?」
「ああ、それ気になる?」
「はい、とっても」
「まぁ、時間はあるし、話してあげよう」
と敬純は語り出した
「元妻と知り合ったのは鈴鹿サーキットでね、僕はそのレースで優秀したんだけど、その時に隣にいたのがレースクイーンーをしていた彼女だったの、それで後で電話番号……当時は携帯なんてまだ普及してなくてやっと自動車電話が少し広まっていた頃だから、当然家電の番号……のメモを貰ったんだよね。
で、その後彼女が鈴鹿のレースクイーン辞めて、グラビアとかモデルになるって事で東京に来て、そこからお付き合いし始めた。
前に少し話したけど、僕の実家は結構大きな輸入品の専門商社でね、それで彼女が専属モデルみたいになって、それで僕が大学を卒業して二年目に結婚する事になった。
ただ、僕が就職したのは自動車会社だったんで、彼女としては、僕は数年修行して、実家の会社に入って将来は社長になる、自分は社長夫人って思っていたみたい、で子供が二人産まれて幼稚舎……僕の母校の小学校ね……に入る位までは、それなりにちゃんと家の事もして僕との関係も悪く無かったんだけど、
子供の手がかからなくなったからモデルの仕事に復帰したんだ、昔分厚い奥様向けの雑誌があったでしょ、その表紙とかね。やれヴィトンだシャネルだエルメスだって感じの雑誌。
そこから、もう殆ど家庭内別居みたいな感じになって、家の事も殆どしなくなって、僕が仕事しながら料理も家事もしていたんだ、まぁお手伝いさんみたいな人は居たけど。
で、僕がいつまで経っても実家の仕事を継がないし、その内に弟が実家に就職した頃からは、広告代理店の男と浮気をする用になってね、でもそれでも僕が会社でそれなりに出世して部長待遇の主幹て役職になったんだ、彼女としては将来、社長夫人ではなくて大手自動車会社の役員夫人って地位が得られると思って離婚はしなかったみたいね、でも六年前かな、その会社も色々とあったから、僕は早期退職したんだよね、で同じ頃に僕の母に介護が必要になって、それで彼女は一気に冷めたみたいで離婚を要求してきたのね、僕も彼女が何年も浮気をしていた事も知っていたから、真理子さんに頼んで離婚訴訟を起こして
それで、離婚したって感じ、彼女からも相手の男からも結構な金額の慰謝料もらったし、財産分与は彼女が浪費してたから殆ど無かったし、まぁ結果的に良かったって感じかな、僕はそれ以来、彼女とは連絡も取って無いし会ってもいないから、どこで何をしてるかも知らない、子供達は定期的に連絡を取っているみたいだけど、まぁそれはもう僕には関係ないから」
「うーん、なんか悲しい関係だったんですね、敬純さん自体も奥様の事愛して無かったんですか?」
「外見は好きだったけどね、でも趣味も生活スタイルも全く違ったから、まぁ最初から無理があったのかもしれない、僕も結婚を決めた時は若かったし……って言うか子供ができたって言われて結婚する以外選択肢は無かったんだけどね」
「私、敬純さんと趣味あってますよね、それにブランド物とか興味ないし、ダメですか?」
「ダメじゃないよ、今の所文句無い位、だからこれからもっと一緒に色んな所に行って、色んな事して……ってまあ全部バイク絡みかもだけど、それで陽菜とはずっと良い関係でいられたら良いなと思っている、まぁこんな趣味に全振りして生きてるジジイで陽菜が本当に良いのならね」
「はい、私敬純さんが良いんです、もう敬純さんが居ないとダメです、だからずっと一緒に居させてください、お金が心配なら私、配信もっと頑張って稼ぎますから」
「ありがとう、でもその心配は無いよ、確かに今はまともに仕事して無いし、配信収入も無いみたいな物だけど、これでも金融資産は結構あるんだよ、実家の会社の株もあるし、他にも色々と、だから僕と陽菜の二人が、楽しく暮らしていける程度は全然大丈夫、安心して」
「はい、嬉しいです」
実際敬純の資産は、今は数十億というレベルであるし順調に増えている、退職金と前の家を売った金、母親から相続した実家の鎌倉の和風邸宅を売却した時の金、さらに元妻と間男からの慰謝料で、今の家を買ってリフォームしても充分余裕があった、そして大学を卒業して外資系の証券会社に入り、その後
トレーダーとして独立した長男が、投資の才能があった様で、敬純の資産を数十倍に増やしてくれている。その長男自体も、敬純より遥かに資産があって、今はドバイの高級住宅地と港区のタワマン高層階の100億を超える部屋に住んでいるのだ。ただ敬純はその長男の事は殆ど誰にも話していない、親元から独立して東京で一人で暮らしていると言う事しか言ってないのだった。
「こんな物で良いかな、他に聞きたい事は?」
「あの、私の事、好きですか?」
「馬鹿、好きでも無い女と一緒に暮らす程、暇じゃないよ、大好きだよ」
これは本当の事だ。
返事が嬉し買ったのか陽菜は敬純のジャージを脱がそうとしてきた。
まぁ、他にする事も無いし、良いかもしれない。
北海道ツーリング二日目の朝……と言っても、まだフェリーの中なので全然走ってないが。
家でいつも起きる時間と同じ位に目が覚めた、隣では陽菜がまた爆睡中だ。
昨夜も『トビウオ女子』としてかなり頑張っていたので疲れたのかもしれない。
敬純は朝、シャワーを浴びる派だ、これは若い頃からの習慣で、徹夜で仕事した朝でもシャワーを浴びてサッパリしてまた仕事をする、みたいな生活をしていたからだ。
この部屋のシャワーはレインシャワーヘッドが付いているので非常に快適に朝のシャワーを浴びられた。
「おはよ、そろそろ起きて」
と陽菜に声をかけて、デッキに出てみる。少し肌寒いが、海風が気持ち良い。
陽菜も起きてきて、二人で並んで景色を見る、
「寒いですね」
「目が覚めた?、朝食行こう、でものんびりと支度して良いよ」
「はい」
今の内に二人分のツーリングスーツに、二層目のウィンドブレーカーを内蔵しておく、ファスナーとホックでジャケットやパンツの裏に留められる様になっているので、変な風にダブつく事もない。
「準備できましたぁ」
と言う事で、昨夜と同じレストランで朝食バイキング、例によって敬純は洋風、陽菜は和風のチョイスになる。
「サンフラワー サンフラワー 太陽に守られて……」
「なんですか、その歌」
「子供の頃にねTVコマーシャルで流れていた歌、サビだけ覚えていて、乗船の時に流れていたなぁと思ってね」
朝食を食べ終えて、船内のショップに言ってみる、お菓子とか色々売っていて、陽菜は何種類かおやつに買い込んでいた。
そして、また部屋でゴロゴロして、軽くランチを食べて、ほぼ定刻に苫小牧西港に到着した。




