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かおせかっ! 〜カオスなセカイで青春を〜

今日は七夕なんだって。

前回の話はこちら。

https://ncode.syosetu.com/n5560ks/



「そういえば今日、七夕なんだよね」

 ……そういえば、そうか。

 白髪の小柄な少女の言葉に、僕は息を吐いた。

 二人だけの文芸部。元々四人しかいないギリギリで部活の体を保っているこの部活の、二人いる上級生が二人共休んだ日。

「そういえば、一昨日買ったやつって渡した?」

 俺が聞くと、彼女は「まだだよ」と告げる。「そっか」と僕は読書を再開した。


 そのときだった。ガラッと扉が開いたのは。

「こんにちは。お姉ちゃん。あと延岡さんも」

 白髪の小柄な少女。……対面に座っているのも白髪で小柄な少女で。

 うり二つの外面を持つ二人。

「…………都城。お前、死ぬのか?」

「ドッペルゲンガーじゃないよぉ!」

 じゃあなんだ、と口を半開きにして戸惑う俺に、彼女——いま扉を開けて堂々と入ってきた方の白髪が告げる。

「妹です」

「そっかー、妹か。…………え、都城、お前妹なんていたの?」

「うん」

「このまえ一人っ子って言ってなかった?」

「聞き間違えじゃない?」

「え……え?」

 困惑する俺に、都城……の妹を名乗る少女は。

「——今日は延岡さんに用事があってきたんです。……延岡さん。こっち、来てください」

 と俺の腕を掴んできた。

 ……なんか手がひんやりしてないか? それにすごく柔らかくて——怪力だ。

 ぐっと引っ張られると、抵抗できなくて。

「の、延岡くん!? ……呼び方……」

 抵抗できずに、俺は別室へ引っ張られた。


 で。

「なんだ? 自称、妹ちゃん」

 そう尋ねると、彼女は俺に詰め寄り。

「なんで、ですか」

 睨み付けながら聞いてきた。

「何がだ?」

 本気でわからなかったのできょとんとしながら尋ねると、彼女はため息をついて聞いた。

「……私が、何に見えますか?」

「可愛い女の子だけど。白髪で小柄な……というか都城みたいな……」

「…………じゃあ、私を何と認識してますか?」

「見知らぬ他人」

「なんでですか……」

 落胆したように膝をつく彼女に俺は「もう戻っていいか? ラノベが待ってんだ」と聞くが、何も帰ってこない。

 ため息をついてドアを開けようとすると。

「——やあ、久しぶりだね、特異点くん」

 そこには、部長が立っていた。


「あ、おはようございます、部長。今日は忙しいんじゃないんですか?」

「急用ができてね。ついでに顔を出した」

 そう告げる部長のでかいバックパックを見ながら、俺は気になったことを尋ねる。

「ところで、バックで流れてるこの音楽はなんですか? 凄まじく音質がガビガビですが」

「ガイガーカウンターだよ。放射線を検知するとスターウォーズのテーマが流れるように改造したんだ」

「何故」

「バンプオブチキンの方がよかった?」

「今度からそうしてください。……いえ、そうではなく」

「じゃあなんだね? 特異点くん」

「……なんでそんなもの持ち込んだんですか?」

 そう尋ねると、彼女は「うむ」と一呼吸おいて告げた。

「ちょうど、ここら辺に外宇宙生命体が墜落してきたらしくてね」

「外宇宙生命体」

「いわゆる宇宙人だね。そいつは放射線を出しているから、放射線検知装置(ガイガーカウンター)で検知できるというわけさ」

 何を言っているのか全然理解が及ばない。

 ……うしろで都城の妹がガタガタ震えて息を殺している音がよく聞こえる。

「で、それを見つけてどうするんすか?」

「処分だね。危険だから」

「カヒュッ」

 めっちゃ過呼吸になってんじゃん。

「ところで、その後ろにいるのは誰だい? ……ああ、みやちゃんの妹か。久方ぶりだね」

 気づかれた少女。近づく部長。——スターウォーズのテーマが、だんだん鮮明に聞こえてくる。

「ところで、外宇宙生命体は周囲の人間の認識を歪める能力を持つ、と『当局』の方に忠告されたんだ。

 極めて高い現実改変能力は、非常に危険で回避不能。だから、その正体を看破できる機械を持って、ここにきた。

 で、それは強く反応している。君に。その意味がわかるかい? ——自称、妹ちゃん」

 笑顔でまくし立てる部長。怖い。

 軽く後ろを見ると、極限まで目を見開いて……なんというかすさまじい恐怖に歪みきった形相で息を荒げている自称「都城の妹」。たぶん大正解なのだろう。

 バックで鳴り響くスターウォーズが、あたかも処刑用BGMのように聞こえて、俺は思わず「ストップ! ストープ!」と声を荒げた。


「なんだい、特異点くん」

「まずそのBGM切ってください。うるさいし、怖いから」

「えー」

 唇を尖らせながらバックパックの中身を取り出した部長。その瞬間、何かが迸った。

 バキッと聞こえて、BGMは止まった。

「……壊したね、妹ちゃん」

「壊しました。こわいから」

 息を荒げる音。自称妹の腕は、ピンク色の触手に変わっていた。

「…………本性現したね」

 部長が言い放った言葉。バックパックから取り出したナイフ。そして拳銃。

「特異点くん。もう知っているだろうけど、私は傭兵である以前に吸血鬼(ヴァンパイア)ハンターなんだ。そして、その稼業では他の人外もよく請け負う。依頼者は敵がヴァンパイアか否かなど見抜けないからな」

「要するに?」

「私はこういう人外退治のプロというわけさ」

 戦闘が始まっ——てしまう前に、俺はまた「待って待って!」と止めた。

「なんだね、特異点くん」

「この子めっちゃおびえてるじゃないですか!」

「おびえてるから、なんだ? 人類に徒なす人外は滅するのが私の仕事だが」

「いやいやいやっ、この子がいつ人類に牙を剥きました? 今のところただ怖い人に殺されかかっている普通の女の子ですよ?」

「触手で攻撃したじゃないか」

「『お前を殺す』って言われてすぐさま反撃しないだけまだ理性的じゃないですか!」

 これがドラクエとかだったら完全に戦闘に入っていたと思う。

 大慌てで少女をかばおうとする俺を部長は一瞥して。


「……一応聞こう。どうして君は、そんなにも彼女を——記憶を改変して自分たちの生活に混ざろうとする『異物』を、かばおうとするんだい?」

 息を呑む俺。一瞬、少女の方を振り返って——。

「異星人だかなんだか知りませんけど、あいにくと僕はお人好しでしてね」

 息を吐き、部長を睨んだ。


「——殺されそうになって怯えてる女の子を、そのままにはしておけないんですよ」


 数秒の沈黙。

 緊張感漂う空気感を破ったのは——部長だった。

「あっはははははっ。面白いね、君。やっぱり特異点はこうじゃなきゃっ」

 笑った部長に、きょとんとする俺たち。顔を見合わせて。

「…………わたし、たすかった、です……?」

 目を丸くした都城の妹に、部長は銃を置いて、笑いながら尋ねる。

「一応確認するけど、妹ちゃん。君は人類に対する敵意とかある?」

「いちおう、そう設計されてます」

「設計上のことじゃなくて、君の気持ち的に。どう?」

「……わかり、ません。——私は、『(シュ)』にこの星の破壊を命じられただけの小惑星。破壊されて地球に不時着したあとのことなど、想定されてはいないのです」

「そうかそうか。……要注意、保護観察っと」

「……私、どうなるのです……?」

 依然として小動物のように震える彼女の頭を、部長は撫でた。

「友好条約を結ぼう。——君がこの星の人間や生物に危害を加えない限り、ボクらも君に手出しをしない。これでどうだい?」

「……でも私、他人の記憶改ざんしちゃうかもですよ……?」

「安心してくれ。幸い、ここには特異点——延岡くんがいる」

 そう言って、部長は俺を見た。……照れくさくなって、後頭部をかく。

「延岡くんは、世界改変や認識改変の影響を受けることがない特殊体質なんだよ。故に、特異点」

「あっ、だから……」

 ようやく自分でも合点がいった。

 彼女は、宇宙的な力で周囲を催眠し、「都城の妹」になった。けど、俺にはその宇宙的催眠は効かなかった。

MIB(メン・イン・ブラック)的なアレも効きませんでしたもんね」

「ピカってする奴ね。いまみやちゃんがやられてる奴」

「……一応理由を聞いても?」

「一昨日、見たでしょ。隕石破壊光線」

「ちょ、まっ」

「何か不都合でも?」

「あっ……と、止めてきます!」

 走って教室を出て行こうとして——一瞬戻って。

「妹ちゃん、グッドラック!」

 そう笑って見せた。


 ちなみに、都城と俺が買い物した記憶は、なんとか死守させた。


    *


 その日、ひとり部員が増えてた。

「おはよ、延岡くん」

「……こんにちはです、延岡くん」

 うり二つの二人が、隣同士で座っていた。

 文芸部。先輩たちはまだ来ていない。

 少し頬を染める姿までうり二つの二人。……いちおう、髪をとめているリボンの色……あと制服の着崩し具合で見分けはつくが。

「都城、いつも思うけどすごい制服着崩してるよな」

 そう告げると、妹じゃない方の都城は頬を膨らまして「名字じゃどっちかわかんないじゃん」と文句を垂れたので。

「じゃあ名前、教えてくれ」

 そう聞くと、都城(姉)は答えた。

「……みやこ」

「そうか、よろしくな。みや」

「結局変わんないじゃん!」

 頬を膨らます彼女を軽くシカトして。


「で、妹ちゃんは?」

 そう尋ねると、彼女は少し目を丸くして、それからもじもじと逡巡してから。


「まい、です。お姉ちゃんが、つけてくれました」

 にへら、とどこか幸せそうに笑った彼女に、俺もつられて笑った。


Fin.


 面白かったら、ぜひ下の星マークやハートマークをクリックしてくださると作者が喜びます。ブックマークや感想もお待ちしております。


 前作のランキング入りありがとうございました。

 今回の評判がよければ、本格的に連載するかもです。

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