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9 試供品会

 ◆◆◆


 試供品会の当日となった。

 場所はエリアに任せたが、まさか王宮の大広間を貸してもらえるとは思わなかった。


「ちょっとエリア! 王宮の大ホールなんて借りて大丈夫なの!?」


 王宮には名目上、申請さえすれば誰でも使える場所がある。

 大中小の広間や、音楽や演劇用の広間(ホール)など。

 割と好評で、普段は貴族のマダム達の趣味の場として利用されている。

 もちろんタダではなく、相応のレンタル料がかかり、それは王宮の財源の一つとなっている。

 特に大広間を単独で借りる者は、ほとんどいない。


「大丈夫だよ。むしろ、兄上は快く貸してくれたぞ?」


「は? あなたの兄上って……?」


「そりゃ国王陛下だよ。歳離れてるから親子にしか見えないけど。両親が高齢になってからできた子供だから仕方がないんだ」


 確かに国王陛下には、年が離れた弟がいるって聞いた事があるけど!?


「あ、あなた、王弟殿下だったの!?」


「え!? そこから!?」


「いや、だって、そんなこと一言も言われなかったし、貴方の家柄とか興味なかったし……」


「はあ、マリアーナらしいな! そういう所も好きだわ」


「え?」


「言っとくけど、今更、婚約解消とかしないからな!? 俺は絶対君と結婚する!!」


「そ、それは、はい。お願いします……」


 なんだか顔が熱くなる。


「良かった!」


「それで、護衛が多いのね」


 護衛も必須だけど、ここまで多いと物々しいな。

 まあ、見た目がいい殿方を見繕ってくれたみたいで、ご令嬢方には好評みたいだけど。


 そんな会話をしていると、試供品会開始の時間になる。


「それじゃあ、行こうか」


「ええ!」


 大広間には結構な数のご令嬢や、付き添いらしき殿方もいた。

 アンネッタさんは来ているかしら?

 

「皆さん、本日はお集まりいただきまして、ありがとうございます」


 まずは主催である私の挨拶から。

 今回の試供品会と、お守りについての説明。

 試供品会なので、お守りのブレスレットは一人三つまで持ち帰り可能。

 その代わり、デザインなどについての意見を後日手紙で送ってもらうのだ。

 結構な数を用意したから、足りなくなることはないだろう。効果も折り紙付きだ。


「エリア・モルダナ・エクレールです。私は今回、婚約者であるマリアーナ嬢のプロジェクトに協賛させていただきました。今回、お守りに使った技術は──」


 次にエリアの挨拶。


「それではごゆっくりご鑑賞ください」

 

 そして、試供品会が始まった。


「まあ、魔除けと幸運を授けるお守り? これならアクセサリー代わりにつけても悪くないわね」


「希望を出せば、効果も選べるのね」


「これ、ガラスじゃないのね? 樹脂に魔力石の粉を混ぜて固めた物? 軽くて良いわね」


「強度はどうかしら? 強い衝撃を受けなければ問題ない?」


「私この花の形がいいわ。赤もいいけどオレンジや緑もいいわね」


「私はこの丸い形! シンプルでいいわ」


「他のアクセサリーは予約? ならするわ!! デザインも選べるのね」


「あ、私も予約するわ!」


「私も!」


 どうやら好評みたい。

 対応は、エリアが懇意にしている商会の方々に任せたけど、大正解ね。


 そして、その人が目に入った瞬間、心臓が嫌な跳ね方をした。


 金髪碧眼の美丈夫。

 私の()()の夫でもあった、バルド・フェイジョア様だ。

 傍には、赤い髪と金の瞳を持つ美人。おそらく、本来の婚約者であるアンネッタ・マウニ様だろう。


 バルド様がアンネッタ様を見る目は慈愛に満ち、愛する人を見る目だった。

 前回の結婚期間では、ついぞ私に向けられることのなかったものだ。


 今更それがほしいとは思わないが、イラッとするというか、モヤッとするのは仕方がないと思う。


「マリアーナ? 大丈夫か?」


「大丈夫よ。この後の事を思うと、少し緊張してしまうだけ」


「オレも付いている。心配するな」


「そうね、心強いわ」


 そう、私にはエリアがいるもの。

 

 そうだ。私の側にはいつもエリアがいてくれて、でも前回は私が結婚するから私から離れたんだ。

 もし、私がエリアに相談していれば、あんな事にはならなかったのかもしれない。

 でも、これで良かったとも思える。

 だって、これで私とエリアは離れなくても済む。

 あら? 私ったら、エリアと離れたくなかったのかしら?

 どうして?


 あ、そうか──。


「ねえ、エリア」


「ん?」


「私、貴方のことが好きだったみたい!」


「は、はあ!? それ今ここで言うことじゃなくない!?」


 エリアの顔が、真っ赤になる。


「だって、すぐ伝えなきゃ。何が起こるかわからないじゃない!!」


「それは、そうかもしれないけど!!」


 そんなことを言い合っていると、声をかけられた。


「おや、我が叔父上は随分と、婚約者殿と仲が良いようだな」


「アーヴィン……」


「お、王太子殿下!? この国の太陽であらせられる──」


「堅苦しい挨拶はいい。マリアーナ嬢が作るお守りには、俺も世話になっているからな。ところでマリアーナ嬢」


「は、はい」


「先に謝っておく、すまない」


「え?」


「アーヴィン? 何を言って……」



「お姉様! やっと会えたわ! どうして会ってくれないの!?」


 その時、女性の声が響いた。


「──あ」


 私は、その声に聞き覚えがある。


「あれは、シンディ嬢だな。アンネッタ嬢の妹だ。と言っても異母妹だが」


「知っているわ」


 だって彼女は前回、私をいつも慰めてくれていた友人だったのだから。

 アンネッタに招待状を出したのだから、彼女の妹であるシンディにも当然招待状は出していた。


 だけど、これは一体何事?


「シンディ、この様な場ではしたない、静かに──」


「いいえ、お姉様! この様な場でないとお姉様は逃げてしまうでしょう? いい加減、バルド様を私に譲ってください!! 私はバルド様のことを愛しているのです!!」


「シンディ……」


「シンディ嬢、私はアンネッタを愛しています。あなたの事はアンネッタの妹としか見ていません。あなたこそいい加減に諦めてください」


 バルド様が、アンエッタを守る様にして立ちはだかる。


「どうして!? いつもお願いすれば、お姉様は私になんでも下さったじゃない!! どうしてバルド様のことはくださらないの!?」


「それは、私もバルド様のことを愛しているからです。それにバルド様は物ではありませんのよ?」


「ああ、もう、うるさい、うるさい!! お姉様がいるから、私の思い通りにならないんだわ!! だったらお姉様なんて死んじゃえばいいのよ!!」


 そう叫ぶと、シンディ嬢は何かを取り出し、それをバルド様達に向けた。


「いかん!」


 エリアが叫ぶと、周りに防御結界を張り巡らせた。

 ご令嬢達は既に護衛騎士たちが守っているので、バルド様達とは距離をとっている。

 いつの間に?


「何!?」


「あれこそ、呪いだ。おそらく、前回、マリアーナを殺したのは彼女だ」


「まさか、そんな──。なんて、言っている場合じゃないわね!」


 思い返してみると、納得できる部分もある。

 でも今は、シンディ様を止める方が先。

 

「マリアーナ、呪い除けは?」


「全ての試供品に組み込んでいるわ」


「なら問題ないな」


 アンネッタ嬢の手首には、お守りが着けられている。


 シンディ様が呪いを放った瞬間、それは弾かれる。

 同時に、アンネッタ様の手首にあったお守りが弾け飛ぶ。


 そして、跳ね返された呪術は、術者に返される。


「あ、がは!?」


 シンディ様は、血を吐いて倒れた。

 前回の私の最期と同じように──。






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