6 光晶樹
◆
それから三日が経った。
私は、タリスマン用、アミュレット用の術式を組み合わせたお守りを三百個ほど作った。
専用の機材があるから、これくらいは三日でも作れる。
寝る時間は削れるけど。
ちなみに、パーツの大きさは人差し指の先くらい。
いやー、疲れたわ。
「お嬢様、目の下にクマが……」
「大丈夫よ、まだ元気だから」
「それ、寝不足で気分が高揚しているだけですよ」
一応遠出するので、侍女のララも連れていく。
護衛はエリアがなんとかするって言っていたから、ウチからは連れて行かない。
「お待たせ。……って、クマがすごいな!? 大丈夫か?」
「頑張ったからね。じゃあ行きましょう」
「ああ」
エリアの馬車に乗り込み、出発。
今日のエリアはいつもの魔法使いらしいローブ姿だ。
「それで、こういうのって作れそうかしら?」
私は早速、描いてきたイメージイラストをエリアに見せる。
内容は、まん丸、雫型などのシンプルな形のビーズ。
大きさは一番大きな物で、親指幅くらい。それより小さいのを二種類くらい。
その中に私の作った金属片を入れて、樹脂を固めるのだ。
「多分、できるとは思うけど、結構大きくなりそうだな」
「それならそういうデザインってことで、ペンダントにでもすればいいわ」
「それより、術式彫った金属片に穴を開けて、チェーンに通せば良いのでは?」
「それも良いわね!」
そんなこんなで私たちは転移ゲートをくぐり、ヴァルヌス領へと着いた。
そこで一番の光晶樹の樹脂の加工ができる工場へ向かった。
「ようこそ、おいでくださいました」
工場長が出迎えてくれる。
「では早速、作って欲しい物があるのですが!」
「マリアーナ、早い早い。クッキーでも食って落ち着け」
エリアにお茶菓子に出されたクッキーを口に入れられる。
素朴な味わい。美味。
紅茶に合う。
「はあ」
「落ち着いたか?」
「はい」
「では工場長、話を聞いてほしい」
エリアによって、正確で的確な説明がされる。
さっすが、エリアだぜ!
「なるほど。確かにこの地には光晶樹が多数自生しておりますので、その樹脂を用いた加工品は得意ではありますが。なるほど、魔力石を加工する際にできる破片を用いて、アミュレットを……。素晴らしいと思います」
「それで、今回は若い女性をターゲットにしておりまして、このようなデザインなども作れますか?」
「ええもちろん。丸い型もありますし、穴を開ける技術もございます」
「で、この金属片を中に封入したり、パーツとして使ったり……。色も付けてーー」
「ほうほう、なるほど。良いですね」
そんなわけで私たちの企画会議は進み、最終的には合意。
私とエリアとの合同で、アミュレットが短期間で製造できることになった。
そして後日、試作品を送ってもらうことになった。
「やったわ〜」
「うまく行きそうだな。これなら、試供品会も間に合いそうだ」
「そうねぇ」
そんなことを話しながら、帰りの馬車に揺られていると、いつの間にか眠ってしまった。
気がつくと、自室のベッドの中だった。
エリアが運んでくれたらしい。
次の日、諸々のお礼の手紙を送った。
◆
五日後、試作品が送られてきた。
エリアとともに、私の研究室で出来栄えを確認する。
「へえ、良いんじゃない?」
丸いビーズ状の樹脂のパーツの中に、煌めく魔力石の粒と、術式を彫った金属片が封入されている。
アクセサリー用の紐に、それを通し、大きさの違うビーズで間を埋め、アクセントに同じ色合いでメインより少し小さめのビーズをあしらっている。
これはブレスレットだね。
あとは、術式を刻印した金属パーツに穴を開け、樹脂ビーズの間に通した物など。
ちなみに、金属パーツは直接肌に触れても、金属アレルギーを起こさない処理をしている。
様々な形に形成できるので、樹脂を使った魔力石、良いかもしれない!
「今回はお試しということで、ブレスレットがメインということにした。他の装飾具は見本だけ展示して、予約を取るような形にしようと思う」
「それは良いわね。これで、試供品会はなんとかなりそうね」
「いや、それは最終目的じゃ無いだろ?」
「あ、そうだった。アンネッタ様を助けないとね」
「来週には決定するから、改善点をまとめておくように!」
「了解で〜す」
◆
そんなわけで、改善案をまとめ、何度かやり取りをし、完成品まで漕ぎ着けた。
数も揃えた。
試供品会の一週間前のことだった。
「本当に、なんとかなりそうね……」
「ああ。この事業、国王陛下も注目してるからね」
「は!? なんで!?」
「ヴァルヌス領は国王陛下が気に入っている土地なんだ。元は王妃殿下の生まれた場所らしいから。まあ、王妃殿下の家族は王妃殿下を虐げていたとか、義理の妹がやらかしたとかで、ご実家はお取り潰しになったらしいけど」
「そ、そうだったのね……」
そう言えば王妃様、今は実母様のご実家の養子という事になっていたような?
「というわけで、当日は王太子殿下がくるかも。王妃殿下はその日予定が入っているから、出られないらしいから、代わりに、と」
「え?」
「それじゃあ、当日に向けて、ドレスでも見に行こうか!」
「ええ!?」
聞いてませんけどーー!?
なんか、えらい事になってない!?
「あ、当日のマリアーナの装飾品は全て、ヴァルヌス領で作ったヤツになるから、説明とかよろしくね!」
ナンテコッタイ。
◆
そして、試供品会まであと三日となったときに、あの人から手紙が来た。
「……バルド様から手紙がきました」
一人で読むのが怖いので、もちろんエリアを呼び出した。
「バルドから? 今の所、関わりは無いよな?」
「無い。そもそも新作お守り制作で忙しくて、手紙貰うまで存在を忘れていたわ。試供品会の招待状はアンネッタ様には出したから、一緒に来る可能性はあるけど〜」
「忘れすぎでは?」
「怖いので、一緒に読んでください」
「まあ、良いけど」
エリアの隣に座って、手紙の封を切る。
良かった、嫌がらせにカミソリの刃とかは仕込まれてなかったわ。
内容は、驚くべきものだった。
「バルド様にも、前回の記憶がある?」
内容は、前回の人生に関する謝罪。
そして、事の経緯を簡潔に。
会って、謝罪をしたいそうだ。
少なくとも、私はバルド様に毒殺されたわけではないらしい。
「……今更、謝られても困るけどね」
「でも、君を殺した相手はわかるかもしれない」
「この時点じゃ、罪には問えないけど?」
「警戒はできるだろ? 勿論、俺も立ち会うよ」
「そう、それなら、大丈夫かしら……?」
試供品会の後、私とエリアはバルド様と会う事になった。
ウヘェ、胃が重くなる〜。