5 ナイスなアイデア
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それから私は自室の隣にある研究室兼製作室で、試作品を作ることになった。
時間がないので今回はブレスレットとイヤリング、ペンダントのフリーサイズでなんとかなるヤツのみ。
形はビーズタイプにして、それを魔力が伝わりやすい素材のチェーンで繋げる、的な?
大きさを親指幅位の大きなヤツをメインにすれば、なんか良い感じになる気がする!
まあ、魔力伝導のいい金属に彫刻する事は難しくはない。
だがそれを、アクセサリーに落とし込むのが難しい。
それに魔力石も組み合わせると、どうしても無骨になってしまう。
魔力石に直接、術式を彫るか?
宝石彫刻というのもあるし。
いや、それだと使い捨てになってしまう。
いや、魔力石は交換するのが前提だけど、魔力石に直接彫るのはなんか違う。
それなら、金属の台座と魔力石の間に術式を書いた紙でも挟むか?
いや、せっかくのアクセサリーで紙はちょっとな〜。
なら金属で?
あ、台座に術式を彫ればいいか。
早速、試作品を作ってみる。
台座は手元にあった既製品。ペンダント用で、上部には丸カンが付いている。
それに魔除けの術式を彫ってゆく。
術式の内容にはメインの魔除けの術式の他に、魔力石と術式を接続する術式などが組み込まれている。
タリスマンの方は一般的に流通している魔動具とほぼ仕組み自体は同じ。基本的に、身につけている間はずっと効果が続く。
アミュレットの方は、特定の条件下で魔術が発動する術式を組み込むことで、自動的に効果がオンオフされる。
なんとか彫れたので、それに合う形状と大きさの魔力石を探し、専用の接着剤でくっ付ける。
この接着剤は専用の剥離剤があるので、魔力石を交換する際には綺麗に剥がれる。
うん。悪くはないけど、少し大きい。
女性向けではあるけど、なんかマダムが好きそうなデザインだ。若い女性には、好まれないかも。
大体は、魔力石をはめた台座のデザインのせいだな。
となると、台座からデザインするしかなく、それだとかなりの時間がかかる。金型から作らないといけないからね。探せば良い感じの台座があるのかもしれないが、探すのと今から金型作るのどっちが早い?
どっちにしろ。一カ月弱では無理か?
うーむ、もっと手軽で、いい感じの……。
その時、研究室のドアがノックされた。
「はい」
「お嬢様、そろそろ休憩にしましょう」
「あら、もうそんな時間?」
「はい。お部屋の方におやつも準備しておりますので」
「わかった、すぐ行くわ」
今日のおやつは、果物のゼリーだ。
透明なゼリーの中に細かく切った果物のコンポートが入っている。
「最近、暑くなってきましたからね」
「あ〜、疲れた体と頭に染みるわ〜。これ、入っているのは、オレンジに桃にりんご?」
「はい。そのまま使うと、果物の成分によっては固まらない事もあるので、果物に火を通すんだとか」
「なるほどね〜」
魔力石に直接術式彫った金属パーツを入れられれば、もっと簡単にアミュレットが作れるな〜。
形ももっと幅が──。
ん? 待てよ?
魔力石の中に、マジで入れちゃえば良いんじゃね?
どうやって?
……うん、エリアに相談してみよう!
◇
「何? 俺、結構忙しいよ?」
とか言いつつ、エリアの口元はにやけている。
「婚約者が会いたいって言ってるんだから、嬉しいでしょ?」
エリアに魔術手紙を送ると、転移魔法で直ぐに来てくれた。
「それは、まあ、はい……」
「魔力石を液体みたいにして、型に流し込んで固める事ってできないかしら?」
「は? いきなり何?」
「だから、術式彫った金属ーー、でもなんでも良いけど、、それを魔力石の中に閉じ込めつつ、型も可愛く作りたいの!」
「……お守りなら、そんなに純度の高い魔力石はいらない、よな?」
「まあ、タリスマンもアミュレットも、ある意味消耗品ね。魔力石が消耗したら取り替えるし、紙のやつは一回限りの使い捨てだし。もちろん、魔力石を交換して使い続けることもできるけど」
「なら、魔力石を加工した際に出来る破片を利用するとか?」
「それを液体に?」
「──は、できないから、粉状にして液体に混ぜる。その液体を何らかの方法で固まるようなモノにすれば、イケるのでは?」
「なっるほどー、エリア頭イイ〜!」
「問題は、その液体だな。一度固まれば二度と液体に戻らないモノがいい。ついでに固める過程が簡単で、加工もし易く、人体に影響がないものが良いな」
「そうね〜」
そんな物質あるかな?
その時、ふと亡き母が好きだった石を思い出した。
「……あのね、エリア」
「ん?」
「琥珀って知ってる?」
「もちろん知っているさ。樹脂が長い年月をかけて、固まった貴石の一種だよな? 中に古代の虫とかが封じられてる事もあるやつ」
「それ、使えない?」
「琥珀──いや、樹脂か! そういえば、日光に当たると結晶化する樹脂を持つ木があったな……。たしか、光晶樹だったか」
「それ使えないかしら?」
「たしかに、一部地域ではそれを使ってアクセサリーや工芸品を作っていた。この国では、珍しい木でもないし」
「なら!」
「やってみるか!」
◆
後日、エリアが、光晶樹の樹脂と専用のライトを持ってきた。
ついでに光晶樹の樹脂を使った、工芸品のペンダントも。
仕事が早くて助かるぅ。
「へえ、樹脂自体は黒い瓶に入っているのね」
「弱い太陽の光でも、時間が経つと固まるらしいからな。使う時は遮光カーテンが必要だな。魔動灯では固まらないから、灯りはつけていて大丈夫だ」
「出してみるわね」
「一応手袋しておけ」
「うん」
樹脂自体は、少しとろみのある透明な液体だった。
「色は付けられないの?」
「色付きのももらってきた。透明のやつと不透明のやつがあるらしい。木の種類とか肥料によって変わるらしいよ。絵の具でも色はつけられるが、不透明になる」
「へえ、すごいわねえ。じゃあ試しに作ってみるわ」
「あ、これ粉末にした魔法石な」
「ありがとう」
まずは透明の樹脂を小皿に注ぎ、そこへ魔力石を加えて混ぜる。
それを台座に少し流し入れその上に術式を彫った金属片を入れ、それを覆う様にその上から残りの樹脂をかける。
「あとは固めるだけね」
私は専用のライトを手に取る。
ライトは左右に足があり、下向きに照射するような作りになっている。
動力は魔力だ。太陽と同じ光を作り出せるらしい。
「このライトが発する光は目に悪いから直接は見ないように。できればサングラスでをかけた方がいいそうだ」
「わかったわ」
エリアが二人分のサングラスを用意していたので、遠慮なく使わせてもらう。
台座をライトの下にセットして、スイッチを押すと光が点る。
十分ほどすると、光が自然に消えた。タイマー付きだ。
「どうだ?」
「確かに固まっているわね」
固まった樹脂は琥珀みたいに硬い。
表面はツルツルで中に混ざっている魔力石がラメのようにキラめいている。
術式の彫られた金属片もいいアクセントになっているが……。
「気泡がすごいわね」
「まあ、確かに」
「工芸品の方は気泡が全くないわ」
見本としてエリアが持ってきたペンダントはクリアカラーの空色で、途中から木材のパーツに変わっているデザインだ。気泡も無く、とても美しい。
それにガラスや宝石と違って軽い。
「確か、気泡を抜く専用の器具があるらしい。少量の場合は軽く温風を当てるといいとか。それがないなら地道に手で潰すか」
「温風なんて、魔法でも使えない限り無理じゃない? 私は生活魔法がギリギリ使えるレベルなのに」
「だったら、できる奴に任せれば良いんじゃないか? マリアーナは金属片に術式だけ刻めば良いし」
「あ! それだ!! 工芸品を作ってる工房に行きましょう!!」
「待て待て。場所がどこかわかってる?」
「そういえば知らないわ。どこなの?」
「ヴァルヌス領、国王が治めている領地だよ」
「なんですって?」
「正確には国が管理している土地だね。過去に色々あって治める者がいなくなってしまった土地。元からいる領民は今も住んでいるけど」
「行っても大丈夫かしら?」
「国が直接管理しているから、治安自体は良いよ。光晶樹の樹脂の工芸品を作って細々と暮らしてる」
「なら、これが特産品になる可能性があるわね!」
「え? そ、そうだな……」
「じゃあ、私はできるだけ術式彫った金属片のパーツ作るから、エリアはアポ取っておいて!」
「わかった。いつぐらいが良い?」
「そうね、五日ーー、いえ、三日後でどう?」
「なんとか、してみるよ」
うおおおお! 燃えてきた!!