4 楽しいデートと市場調査
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あっという間にデートの日になった。
ララが張り切ってくれたので、黄色をベースにした花柄のワンピースでお出かけだ。
私の茶色の髪と緑の瞳に、合っているんじゃないだろうか?
いつ買ったのかと思ったが、春先に仕立て屋が来たのでその時購入したそうだ。
ウチも一応上級貴族の端くれなので、普段着用の衣服は季節の始めくらいに家族の物をまとめて買うのだ。
私はファッションには全く興味がないので、センスのいいララにほとんど任せている。
時間になって一台の馬車が我が邸の前に到着。
目立たないがシックな色合いで、至る所に見事な装飾がされており、明らかに上等そうな馬車である。
「お待たせしました。どうぞ」
エリアが馬車から降りてくる。
婚約の挨拶をした時よりはラフだが、それでも貴族らしい衣装をこの日も着ているので、イケメン具合に磨きがかかっている。
「……」
なんだが、いつものエリアじゃない……。
「マリアーナ?」
「な、なんでもないわ。ありがとう」
エリアのエスコートで馬車に乗る。
「……なんか怒ってる?」
エリアの隣に座り、馬車が走り出したところで、彼がいつものように話し始める。
なんだかホッとする。
「怒ってないわ。──その、エリアがいつもと違って格好良いから戸惑って……」
「なっ、だからそういうのさ〜、反則なんだけど〜」
エリアが片手で顔を抑える。耳が赤い。
「何が反則なのよ? それより、今日行くお店ってどんな所?」
私はファッションに疎いので、お店選びはエリアに任せたのだ。
「ああ、それなら最近の人気の装飾品店だよ。貴族向けの。……折角だから俺たちのお互いの瞳色のアクセサリーでも作ろうか、と……」
「いいわねぇ。婚約者っぽいわ! 私の分のお金は出すわよ?」
「っぽいじゃなく、本当に婚約者だよ。あとお金は俺が全部払うから気にすんな」
「え? でも……」
「婚約者なんだから当然、だろ?」
「そうね。婚約者だものね」
そう言えば、前回の人生ではバルド様には何を買ってもらったかしら?
婚約期間中の一年間はいい関係を築けていたと思うけど、あんまり印象に残っていないわ。
季節の折々やお互いの誕生日には、プレゼントを送り合ったはずなんだけど。
夜会のドレスなんかにはお互いの色を入れたものを着ていたけど、お互いの瞳の色のアクセサリーを送り合った記憶はない。
まあ、丁度良いで選ばれたんだから、仕方がないのかもしれないけど。
「マリアーナ?」
ふと、黙ってしまった為に、エリアに不審に思われてしまったらしい。
「ちょっと、前回の人生の事を思い出したの。バルド様とはあまり印象に残った贈り物のやり取りはしていなかったな、って」
「バルド、ねぇ……」
エリアの眉間に皺が寄る。
それを指でツンツンすると、手をやんわりと掴まれた。
「前回、のマリアーナは血を吐いて、その、亡くなったんだよな?」
「そうね」
「死因は毒なのか?」
「分からないわ。毒だとしてもすぐには効果が出ないやつだろうし、病って線もないかも。それまではすごい元気だったから」
「なら、君を殺した奴がいるということなんだな」
「もしかしたらね」
「それがバルドということは?」
「うーん。結婚してからは冷たくされてはいたけど、仮にも自分の妻を自分の手で殺すほど、愚かな人ではないと思いたいわ。多分だけど」
でもあの人、血を吐いて倒れる私を冷たい目で見下ろしていたのよね……。
あれどう言った感情?
自分でやってはいないけど、邪魔な妻が死にそうで清々したってところ?
だとしたら、最悪なやつね。
「……バルド、殺していいか?」
「今の時点で殺すと、エリアが悪い人になってしまうわね」
「だよな〜。現時点ではあいつはマリアーナとなんの関係もないからな。こっちからは何もできんな」
「そうよ〜」
「まあ、今回は俺がマリアーナを守るから、みすみす殺させはしないから安心してくれ」
エリアはそう言って、さっきからずっと握っていた手の甲に口付けをする。
「期待してるわ、大魔法使い様」
「おう」
そのうち、目的のお店に着いた。
◇
「あら? お客様は私達だけ?」
「貸し切ったからね」
「エリア貴方、権力を盾にするような子だったのね!?」
「身も蓋もない言い方やめてもらえる? 定休日にいきなりねじ込んだのは悪かったと思うけど」
私たちの会話に、従業員の方々が焦っているので、とりあえず商品を見ることにする。
「へえ、これが今流行りのデザイン? なるほど〜」
今年はカサブランカを模した形が人気らしい。
前回でもそうだっただろうか? 覚えてないな。
「ふーん。どのデザインがいい?」
「私はこういうシンプルなやつが良いわ」
ペンダントでも指輪でもイヤリングでも、小さいな石を一つあしらったようなシンプルなやつが好き。
指輪なら、石部分と指輪部分がフラットなヤツがいい。服とかに引っかからないし、仕事の邪魔にもならないからね。
それをエリアに伝える。
「なるほどね、俺の好みと同じだな」
そう言って嬉しそうに笑うので、なんだかドキドキしてしまう。
「なら、そんな感じのデザインで、俺はピアスをマリアーナの瞳の色で作って、マリアーナはどうする?」
「え? えーと私もピアスで?」
「君、ピアス開けてないだろ?」
「今度開けるわ。それで貴方の瞳の色のピアスを──、ちょっと、顔赤いわよ?」
「な、なんでもない! 初めて……、俺の色……」
「??? とりあえず私たちのやつはどれにする? 私はこのデザインにするわ。あなたは?」
「俺も、それで……」
まあ、男女問わないデザインだから、いいか。
その後はお互いの瞳の色に近い石を選んで、私たちのピアスは選び終わった。
後日完成品を送ってくれるらしい。
その後は最近の流行りを店主に聞いた。
「最近は花をモチーフにした物が人気ですね。去年はマーガレットを、その前はアネモネのモチーフが人気でした」
「薔薇とかの豪華なやつじゃないのねぇ」
「ええ。むしろ少々地味な花を、あえてメインのモチーフにすることが流行っていますね。薔薇は流行り廃り関係なく通年人気ではありますが」
「なるほど〜」
なら、お守りのデザインは花のモチーフにするか。
「デザインは決まったか?」
「そうねぇ」
その後、装飾店を後にして人気のカフェで休憩。ここも個室を予約してくれたらしい。
私は紅茶とレモンタルト。エリアはコーヒーとチョコケーキだ。
エリアは意外と甘い物が好きみたい。頭使うお仕事だからかな?
「それで、どんなデザインにするんだ?」
「うーん、花とか植物モチーフが良いかしら? 病や魔除けならそれっぽい植物を使って、能力向上の方は流行りの花を使う感じで……」
「そうだな。病関係ならコンフリー、アキレア、エキナセアとか、魔除けなら柊、ジニア、ヒペリカムなんかが魔除けの効果のある植物として、有名か?」
「く、詳しいわね。私は後で図鑑で調べようと思っていたのに……」
「まあ、贈ってはいけない花とかその植物の意味合いとか、色々叩き込まれたからね。……貴族なら普通では?」
「ぐぬぬ……」
私はお守り作りにしか興味がなかったんだ。仕方がないんだ!!
「でも、あんまりマイナーだったりデザイン映えしないヤツは、流石に人気が出ないと思うが」
「なら、無難に最近流行りだった花のモチーフでいいでしょ。それならデザイン自体はありふれているでしょう?」
「でもパクリだと思われないか? そもそも複雑すぎる形は一ヶ月では間に合わないだろ?」
「うーん、それはある。だったらもう、シンプルに丸とか四角の形にする?」
「まあ、それでも良いかもな〜、時間がないし」
そいうわけで、デザインの方向性が決まった。
「……今日の市場調査の意味が無くなったわね」
「そう? 俺はマリアーナとデートができて楽しかったけど」
「そ、そうね。婚約者だものね!」
そんなわけでデートは終了。
明日からは試作品作りだわ。