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11 執着 シンディside

 ◆◆◆


 シンディが生まれた時、両親はとても喜んだ。


 透ける様な金髪、とろける様な蜂蜜色の瞳、それに可愛らしい見た目は、今ではあまり生まれなくなった聖女の再来ではないかと、周りを巻き込んでの大騒ぎだった。

 尤も、それは比喩でありシンディに浄化の力どころか、魔法の才能は無かったが。


 両親の見立て通りシンディは絶世の美少女に育ち、彼女が欲しがるものはなんでも与え、嫌がるものは徹底的に遠ざけられた。

 両親が手放したくなかったのでシンディを後継にし、姉のアンネッタを嫁入りさせる事にし、貴族学園では嫌な目にあったので、入学してすぐに中退し家庭教師による学習を選んだ。


 その結果、シンディはこの世界は自分のために存在しており、なんでも思い通りになるのだと思い込んで育ってしまった。

 その被害を最も受けたのは、一歳年上のアンネッタだった。


 シンディは姉の持っているものをなんでも欲しがった。

 始めのうちは断っていたが、シンディが泣き喚き、両親に叱咤されるので、次第にアンネッタは諦めた。

 シンディが好まない地味な服装を好み、物も持たなくなった。


 それでも、シンディに譲らなかったものもある。


 婚約者であり幼馴染でもあるバルドだけは、シンディや両親になんと言われようと譲らなかった。

 バルドもアンネッタにしか興味がなかったようで、シンディに靡かなかった。

 両親も流石に長年の友人でもある侯爵家に強くは言えず、シンディの願いは初めて叶わなかった。


 それがシンディには信じられなかった。


 この世界は、シンディ(自分)のためにあるのに。

 姉であるアンネッタは、シンディの言うことを聞かなければいけないのに。


 だから、自分の世界の秩序を乱す姉を排除することを考えた。

 しかし箱入り娘であるシンディには、姉をどうにかできるような伝手はない。


 苛立ちを解消するために、市街で散財していると、珍しいモノを見つけた。

 それは、裏路地の陰で蹲っていた。

 その出で立ちは、この国では見たこともない民族衣装らしきもので、シンディは一目で惹かれた。


 だから彼を拾って、恩を売った。


 彼は、隣国の少数民族で、呪術師だった。

 彼の一族は隣国で危険視されたため、国で管理される事になったが、彼だけはやっていた事が邪悪過ぎた為、死刑になるところを逃げ出したのだという。

 

 呪術という言葉に、シンディはときめいた。


 それがあれば、邪魔な姉を排除できる。

 だから、シンディは頼んだ。

 彼が望んだから、純潔を捧げる事も魔力を分けることも厭わなかった。


 いきなり死なれると疑われる可能性があった為、病に見せかけて徐々にアンネッタを死に追いやった。

 死因を調査をされるとまずいので、感染病かもしれない、怖い、と喚けば両親はアンネッタの遺体をさっさと火葬にしてくれた。

 

 しかし、バルドはシンディを選ばなかった。


 選んだのは、マリアーナという地味な女。

 見た目は似ていないが、どことなくアンネッタと似た雰囲気があった。

 

 気に入らなかった。


 同じ伯爵家なら、シンディでも良いはずだ。


 だから、マリアーナの悪評を流した。

 期待したほど悪評は広がらなかったが、バルド本人が信じてマリアーナを冷遇するようになったのには笑えた。


 その様子を間近で見たくて、嘲笑いたくて頻繁にバルドの邸宅へ遊びに行った。


 でも、マリアーナの心は折れてはいなかった。

 もし離縁するなら、その後の生活の援助もしてあげようと思っていたのに、そんな気配もない。

 あんなに、バルドに蔑まれているのに。


 だから、マリアーナも殺した。

 

 姉みたいに時間をかける手間が惜しかったので、すぐに呪い殺した。


 これで、バルドと結ばれると、そう思っていたのに――。


 ◆


「――!」


 目を開けると、薄暗い部屋だった。

 自室ではない。


 薬品の様な奇妙な匂いが漂っている。

 体のあちこちが痛い。

 動けないし、言葉も発せない。

 私の体はどうなっているのだろう?

 それに、さっきの()は?


「さて、どんな感じだ、アーヴィン」


 若い男の声がする。


「生きてはいるよ。呪いの影響で治癒魔法も回復薬も効かない。もう、元の状態には戻せないらしい。世話はこいつがするから問題はないだろう?」


 別の若い男の声。


「ええ。誠心誠意、尽くさせてもらいます」


 知っている声。呪術師の男だ。

 ……エキゾチックな顔立ちは、嫌いではなかった。


「言っとくが、お前には利用価値がある。だから生かしている。間違っても変な気は起こすなよ? まあ、魔封じはさせてもらっているから、何もできないとは思うが」


「分かっています。ワタシは、もう人を呪う事に疲れましたから……。彼女と静かに暮らします」


 何を言っているの?


 彼女って誰の事?


「シンディ、呪術に手を出すなんて、馬鹿なことを……」


 嫌いな姉の声。


「彼女はどうなっているんだ?」


 愛しいあの人の声!

 バルド様、早くわたくしを助けてください!!

 

「呪いを返されて、本来アンネッタ様が受けるはずだった呪いを、受け続けている状態です」


「自身の魔力が、肉体を攻撃している状態か。解呪は?」


「返された呪いを解くことは、かけられた呪いを解くよりも難しいです。私の一族でも解呪ができる呪術師は、国で手厚く管理されているので、他国に手を貸してくれるかどうか」


「そうか……」


「回復薬や、治癒魔法が効かないのは?」


「彼女のこの状態を維持するためです。呪いにとってはこの状態が正常なのです。呪いはそれを乱すものを排除します。それが、彼女自身を回復させるものでもです」


 どういうこと?

 呪いを返された?

 私がということ?

 私、ずっとこのままなの?


「そう……」


「この国では人を呪う呪術は禁忌だ。手を出した時点で重罪。相手を殺せば死刑は避けられない。まだ起きていない未来の事も含めて、これが最善の罰だろう」


「そう、ですね。それでは、妹をお願いします」


「あなたを呪ったワタシに、頭を下げるのですね」


「貴方は、シンディに恩を感じ従っていただけでしょう?」


「そう、ですね。もう会う事もないでしょうし、ワタシに言われても嬉しくないでしょうが、お幸せに」


「ありがとう」


「そういえば、バルド。お前、前回でアンネッタが亡くなった時、シンディを代わりに娶ろうとは思わなかったんだな?」


 バルド様!


「当たり前です。シンディ嬢はマナーも知識も侯爵家の妻としては全く足りない。良いのは見た目だけだ。ことごとくアンネッタとの茶会に乱入してくるし、こんな人間に俺の妻は務まりませんよ。始めから、選択肢にはありませんでした」


 え? バルド様? 嘘ですよね?

 

「それで、マリアーナ嬢、か。まあ、雰囲気はアンネッタ嬢に似てるしな。お前本当にアンネッタ嬢にしか興味がないんだな……」


 じゃあ、わたくしがやってきたことは、全て、無駄だったということ?


 違う! 違う! こんなの私が望んだ世界じゃない!!


 そう叫びたくても、声は出ず、体も動かない。


「それでは、お前たちは北の塔に生涯幽閉する。せいぜい長生きしてくれ」


 いやだ、やめて!! 

 

 バルド様! お父様! お母様! お姉様!!


 御免なさい! 許して! お願い!!


 いやあああああ!!


 こうして私の世界は、終わってしまった……。






呪術師がシンディの純潔を求めたのは、手っ取り早く魔力をつなげてシンディが呪術を使えるようにする為と、彼女の覚悟を試す為でした。あと、少しの好意も……?

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― 新着の感想 ―
何人殺そうとバルドは手に入らないと確実に理解したのなら良かった
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