表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

作者: 水無飛沫



夜半、気配を感じて目を開くと部屋の隅に彼女がいた。

布団の端を持ち上げて入ってくるよう促すが、彼女は身じろぎもせずにこちらを見ている。


暗くて瞳を見ることは叶わないが、怒っているらしいことは容易に想像できた。


何をそんなに怒ることがある、と問いかけると、

「そんなの、わかっていることでしょう」との答えが返ってくる。


正直な話、心当たりはある。ありすぎて困るくらいだ。

けれどその度になんらかの罰が当たって来たのだから、そんなに怒っていずともよいだろうに。


「せっかく来たのだから」となおも怒れる彼女の手を取って、寝所へと導く。

冷たく柔らかな指が、手の甲を抓り上げる。


それからは彼女の独断場であった。

腕も腹も足も首も背中も。身体中、痛いくらいに吸われて痕を付けられる。

機嫌を損ねないよう、獣のように身体を蹂躙する彼女をただただ撫でてやる。


「私なら、誰よりもうまくできるのに」


ぽつりと彼女がつぶやく。


「どんな順番で、どこが良くて、どんな風にしてほしいのか。私なら」


あぁ、これは怒っているのではない。

――拗ねているのだ。


途端愛おしい気持ちが湧き上がって、ぎゅっと抱き寄せる。


「あぁ、その身体の隅々にまで、魂の奥深くにまで私の名前を刻みつけられたら良かったのに」


耳元で彼女が囁く。


首筋に噛み痕が付けられた。

鋭い痛みに、思わず苦笑が漏れる。


これはそういうことかと気づいて、彼女の首筋に同じ痕を付けてやる。

愛らしいうめき声が彼女の口から漏れる。

全身に吸い痕を付けてやる。

お互いがお互いを所有していることを、誰が見ても理解できるように。


「ずっと傍に居てくれるのなら、こんなことをする必要もないだろう」


「そうしましたら、私、格が下がってしまいましてよ」


差し込む月明かりの中、悲しそうに、女が笑った。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ